裏渋谷に恋をして
Mちゃんのアパートを出てからのお話。
Mちゃんは、ちょっと一回死んでくる。の後半にでてきます。
記憶を書き起こすとだいぶ長くなった。
回顧録といった所でしょうか。
若さなしでは出来なかったことが多いなと我ながら思いました。無謀、無知、無自覚〜。
そうそう、珍しく一番最後にラクガキを載せてみました。
仕事が終わってからヘトヘトになって帰る場所がネカフェというのもなかなかヘヴィだった。
ネットカフェ難民も最初の二日で飽きてしまった。
カップルのキャッキャウフフ、深夜出来上がった若者が立ち寄るのか、すごい大盛り上がり。
屋根があるだけいい…とも言っていられない。ほとんど眠れやしない。
ネカフェまでの道のりで、ドンキから井の頭通りにかけ歩く道沿いに毎晩キャッチのお兄さん三兄弟がいた。等間隔に立っていたの。
一人目を通り過ぎる時に口笛を吹かれ、二人目は立ちはだかるふざけた感じで、三人目には足掛けをされそうになった。私もイヤホンで音楽を聞きながらヘラヘラと笑ってしまったのだけど。
次の日はダッシュで通り過ぎ、その次はは同じタイミングで通り過ぎる人に寄り気味になって通り過ぎた。
ようし、いいぞ。誰かにくっついて歩けばいいのだ。もうやられまい。
また次の日、あそこを通る道に誰も歩いている人がいない。やばい…今日に限ってすごく高いピンヒールだ。でも頑張れば早足ならいける。
覚悟して進むと、一人目から首にチョップ!
「チョッ!?あははは」ひるむが早足で進む!
二人目、おでこにチョップ!
「ええっ。ああっ、あははは」笑顔で早足!
三人目、帽子を取られる。
無言で止まると「仕事帰り?」と強面が無邪気に笑って返してくれた。
何故かミンティアを3粒くれた。
暫く歩いてから信号待ちで口に入れたら、くしゃみがでて全部飛んでいった。
仕事が終わってからの他人とコミュニケーションと言えばネカフェの店員さんか帰る時のこのやり取りくらいだった。
(写真はこの中に登場する店とは関係ありません)
休みの日は裏渋谷に出かけ、なるべくネカフェ代を浮かせたくて日中いっぱいはふらふらとして、洒落たカフェでランチをした。
喧騒から少し離れて、散歩にはとてもいい。
ある日、可愛らしいカフェを見つけた。ドアストッパーがいつかMoMAで見かけたもので目を奪われ、つい入ってみたくなった。
ランチメニューには、沖縄一人旅(家出)で惚れたタコライスがあり、懐かしくなって注文してみた。
深い器にオシャレに登場したタコライス。とても美味しかった。
味は間違いなくあの時食べたタコライスだった。
アットホームな雰囲気と人懐っこい店員さんのいるカフェ。それからしょっちゅうそこに通うようになっていた。しばらくタコライスにハマりいつも注文していた。
アボカドとマグロ、食べたことがない葉っぱが飾られたオシャレな丼ランチなど、他にも興味が移り日替わりが楽しみになった。
店員さんとも顔なじみになり仕事帰りにも顔を出すようになると、窓際の席からカウンターに一人でも座れるようになっていた。
お互いに名前を呼び合うようになったころ、住まいの話になった。これまでの経緯をバカ正直に話すと、若いオーナーが(調理を担当している)タケちゃんちに住まわせてもらったら?といきなりの提案をしてきた。
「ね、タケちゃん?シェアする人探してたじゃん?ね。」
タケちゃん「あっ、えー女の子ですよ?」
オーナー「やましいことしないよねー、ねー?」と私とタケちゃんの顔を見ながら。
私はネカフェにほとほと嫌気がさしていたので、のりのりだった。
照れながら腕を組み考えるタケちゃんに
オーナー「じゃあ、じゃあさ、一回タケちゃんが夜やってる店に行って相談したら?」
やや強引なオーナーの言うまま、その日の夜にはタケちゃんが掛け持ちしているバーにカフェ終わりに連れて行ってもらうことにした。
タケちゃんは、ショップ店員さんみたいなオシャレなお兄さん。髪はCreepy NutsのR指定さんのよう。少し人見知りで、料理をするのが好きでいつかは自分の店をやりたいと言っていた。
そう言えばオーナーとばかり話していていつもキッチンにいるタケちゃんとは、キッチンから挨拶をするかくらいで深い話をした事がなかった。
着いたのは中目のオシャレなバーだった。
この近くに住んでいるということだった。
さっそくカウンターで、グゥワバジュースを頂きながら会議をする。
「あの場でなかなか言いにくかったけどさ。いいよ。」照れながら言ってくれた。
「正直助かる。」手を銭マークにして言った。
私はめちゃめちゃ安堵した。
暖かい風呂に入れる!
お布団で寝れる!
想像するだけで幸せだ。
グゥワバを飲み干したら梅昆布茶にしてもらった。気持ちは一足先にくつろいでいた。
なんとその日お邪魔することにした。
展開が早すぎる。
ところで、抵抗とかそういうのは私には無いのか?って?
男女の友情さえ育んでいない、行きつけのカフェ店員さんのところへ転がり込む。
今考えたら酷いですね。
若くなくちゃ出来ない。酷い(笑)
恋愛感情も全く無し!いやらしい感情もなし!
布団!布団!風呂!ふーろっ!ふぅうーろっ!
その日だけで、バーに来る常連さんとも仲良くなり経緯を話たりして大いに盛り上がった。
そんなことをしていたら、あっという間に夜中二時になった。
クッタクタになりながらタケちゃんのマンションに向かった。
「毎日、こんな感じで寝に帰るだけなの。」と照れながらエントランスを抜け部屋へ。
立派な海外製の冷蔵庫を除いては一人暮らしの部屋という感じで、殺風景。
本当に寝に帰るだけというのが分かった。
「もう遅いから寝ようか。」とラジオを外国放送にして、部屋を暗くした。
(ふ、風呂は?)
タケちゃんはかなりヘトヘトのようだから言い出せず。
タケちゃんがサッと布団に入り、掛け布団を持ち上げ布団をトントンしながら"はよ来い"的な合図を。
ふ…布団…、一つ???
そうだよなぁ。お客様用なんてなぁ涙
なんだろ、急にドキドキしてきた。
戸惑いながらも覚悟を決めて布団に入った。
私「暖かーーーー」
タケちゃん「よほどだったんだね(笑)、ごめんね狭くて」
「大丈夫、何もしないからね。」
「毎晩英語放送聞いて、英語勉強してるんだ。」
私「そうなんだ?覚えられた?」
タケちゃん「ぜんっぜん(笑) でも馴染む感じ、発音は頭に入ってくるね」
背中と背中がくっつかないギリギリで、暖かい布団の中で久々に眠れる。
(やばい、眠れない。)
おい私!今までちゃんと見てたか?相手はイケメンだぞ。
数センチ隣にイケメンだ。
そんなこんなで朝になっていた。
人生で一番眠れなかった!
朝からタケちゃんは、お手製のベトナムフォーを作ってくれた。
(男の人が料理出来るって最高ー!)
「良かったら、ナンプラーを入れてね。」
手作りだ。湯気が出てる。
ナンプラーと香菜のいい香り。
サッと食べてシャワーを浴びたタケちゃんが上裸で出て来た。
洗面台からコップを持って「歯ブラシ買ったらここに入れな」と言った。
私はフォーの美味しさを噛み締めながら朝の部屋の様子をキョロキョロ見渡していた。
急に現れた半裸に驚いて素っ頓狂な声で返事した。
「ふぁい。」
(かっけぇ〜。シティボーイ〜)
いかんいかん。
でも、濡髪のパーマ…ライオネル・リッチーみたいやん(笑)クスクスしてしまった。
遅番だったけど、居候初日だから早めに一緒にマンションを出た。
エントランスで、真新しい合鍵を渡されルンルンしてしまった。
駅に向かう道中、改まって自己紹介をしたり、周辺の美味しい店の話を聞いていた。
私「あ、ここの最近はタケちゃんの手料理ばかり食べてることになる(笑)」
タケちゃん「今の○○ちゃんは、俺の料理でできてるんだね。(笑)」
帰ったらすること、開けちゃいけない場所などを聞いて別れた。
実父にすっぽかされ、Mちゃんのアパートを出てから根無し草だった私には、天と地の差くらいの急展開だった。
寝不足だけど、いつにも増してやる気がみなぎっている。ハッピーだぜうぉう!
ところがその夕方になると、体調が悪くなってきた。トイレに行くと、生理でもないのに不正出血している。
これまでなかったけど、あるらしいと聞いていたしまぁそのうち止まるかな、と誤魔化し仕事をこなした。
遅番が終わり、まっすぐ帰る。
もうあの三兄弟のいる道は通らないんだ。少し寂しいな…。
重度の方向音痴なので迷いながら歩いているとまた子宮が痛い。
マンションについてすぐお湯をため、温まったがまだ痛い…まだ出血していた。
タケちゃんはバーが終わるのが遅いから、先に寝てしまおう。と、痛かったけれど軽く掃除をしたりゆったりぐうたらして布団に入った。
「はぁ〜、ありがたやありがたや。捨てる神あれば拾う神ありだなぁ。」
イヤホンで音楽を聴きながら寝てしまおう。
* * * *
急に体をぎゅうっとされて目が覚めた。
側位寝バック状態で抱きしめられていた。
酒臭い匂いがする。
私「ハッ。」
タケちゃん「ンンン、ごめん。ぎゅーだけぇ。」
私「ん?酔っ払ってる?」
タケちゃん「飲まされちゃったー」
「プニプニしてるー、ふははは」
下っ腹をつつかれた。
私「今日、お腹痛くなっちゃったの」
タケちゃん「えー、大丈夫?ンフゥ」
私「うん、まだ痛みが引かないの」
タケちゃん「明日仕事?病院いきなよね。ンフウ」
可愛いなおい。
タケちゃんは寝た。お腹に手を回していたから温かくて、私もその夜はよく眠れた。
小さな婦人科を見つけて見てもらうと、小さな小さなおじいちゃん先生が「不正出血、嚢胞があるねぇ」
「取り敢えず、漢方だすからねぇ。近いうちに大きい病院でみてもらいなさい。紹介状書きますよ。」
私「お薬飲んで様子を見てからにします。」
(騙された借金がしっかりあるのでなるべく休みたくないし、医療費かけたくない為こう言った。)
会計の時にベテランの看護婦さんが「最近凄いストレスなかったかな?お姉さん痩せすぎよ」
「ストレスの後、ホッとしたころ出血起こす人もいるのよね。」
(あ、ズバリそうかも知れない。)
ドキッとした。
「良性の嚢胞もあるから、良性だといいわね。」
のうほうか…怖いなぁ。
それから、何日間か懲りずに毎晩タケちゃんはくっついてきた。
お腹痛いのと言うと、ムスッとして反対を向いてしまった。
私は嚢胞の事が気になって仕方ない。
タケちゃんはあまりにすねるのでズボンの上からナプキンのシャカシャカを触ってもらい理解につとめた。(なにやってんだか笑)
男の「何もしない」は嘘ですね。
気づいてましたハイ。
どんなにイケメンでも、人見知りでも、ついてるもんは同じ、か。
男女の仲になりきらぬ前に、亀裂が入っていた。
なんだかタケちゃんが冷たい…
休みの日でもあまりマンションにいなくなってしまった。
タケちゃんちなのにそんなの申し訳なくて、私はマンションを出る決意をした。
まだ子宮が痛かったのだけれども。
でも一回くらいしときゃよかったな〜。(バカ)
次回、虚無のチュクチュクにつづく
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