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虎子奮迅 4-15

『おつかれさんやったな。これ小遣いや。』
と言われ帯封の付いた百万円の束を組長の桐生から差し出される。
ヒロシはその束を受け取ろうとするがどうした訳か掴めない。
何度も掴もうと足掻くが幻の如く掴めない。

ハッと目が覚めたヒロシは飛び起きた。外がすっかり明るい。そして時計を見て愕然とする。時計が壊れてなければ8時を示している。
慌てて車に乗り込み三嶋組に向けて走り出すが通勤、通学時間の為人の往来が多い。
拳銃は昨日から車に積んだままだ。
とりあえず様子を見ようと三嶋組の前を通過する時ちょうど若い衆が玄関を掃除していて目が合った気がしたが知らん顔で通り過ぎる。
昨日の夜、嫌がる後輩を運転手として付き合わせた時もちょうど組員らしき人間が戻って来たところらしくタイミングが悪かったので一度出直そうと思い帰って仮眠を取ろうとした所、寝過ごしたという始末だった。
ヒロシは桐生の気が変わって行かなくて良かったという結末を祈りつつ帰路につく事にした。

昼前に桐生から事務所に顔出せとの連絡があった為仕方無く重い足取りで事務所に向かった。

ヒロシが事務所に着き組長に挨拶に行くと
『何か報告があるんやないか?』
といきなり桐生に聞かれる。

ヒロシは自分の願いが虚しく叶わなかった事に落胆しながら渋々話し出す。
『すいません、昨日、何度か三嶋組に行ってはみたんですが警戒してるのかチャンスが無くて結果が出せませんでした。』

それを聞いて桐生が急に不機嫌な顔になり
『何やそれ、結局何も無しか。期待して小遣いまで用意して待ってたワシが馬鹿みたいやったな、もういいわ、オマエには頼まん。もう帰っていいぞ。』
と言い放つ。

『待って下さい。今日、結果出してきます。』

『いや、もういいわ。勝手に行くのはオマエの勝手やけどな。とにかくワシは関係無いぞ。もう知らん。』
と言い椅子を回転させてテレビの電源を入れてヒロシを無視する。

暫く立ち尽くしていたが仕方無くヒロシは
『失礼します。』
とだけ言って頭を下げて事務所を後にした。

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