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新作歌舞伎 刀剣乱舞 月刀剣縁桐がとても良かったよって話

 7月13日に「新作歌舞伎 刀剣乱舞 月刀剣縁桐」を鑑賞してきた。私は歌舞伎自体、3回目程度の初心者で、刀剣乱舞も今はゲームは全然プレイできていないライトなファンである。それにも関わらず、すごく面白かった。
刀剣乱舞ファン視点での面白いポイントは色々あった。(ネタバレもあるので後述)しかしそれだけでなく、そもそも作品がよくできているのである。
それって、歌舞伎という様式と刀剣乱舞というコンテンツが合っているのでは?という仮説が私の中で立ち上がり、少し歌舞伎について勉強してみた。

 そこで気づいたのは2つの歌舞伎の特徴である。これは面白くならないわけがないだろう〜〜〜という歌舞伎というジャンルのユニークさが見えてきた。ぜひ、歌舞伎に興味がある、刀剣乱舞歌舞伎をこれから観にいく、という人に向けて背中を押す文章を書きたいと思う。

その1:歌舞伎はとにかく「魅せるもの」!


 舞台を見て第一に印象に残ったのは、その場面場面での美しさだった。というか、そもそも歌舞伎というのは「見得」に代表されるように「ここを見てください!」という演出が中心なのである。割と細かいストーリーや現実味は二の次で、とにかく粋なシーンを思いっきりクローズアップして上演するのが、歌舞伎なのである。だからこそ、その場面というのは背景美術や登場人物の構図も含め絵になる。キマる。とにかく美しく、かっこ良いのである。
 これは世界観の近さで言えば、荒木飛呂彦である。バァーーーーーーン!というキメが随所にあるのだ。カメラが無いからこそ、時間や音響、所作を用いたクローズアップの表現が独特であり、舞台をフレームとした平面的な美しさが生み出される。そのユニークさは漫画やアニメの世界に近い、と感じた。
 だからこそ、今回の刀剣男士たちの演技が映える!映える!もちろん役者さんたちの力量によるところは大きいのだろうけども、立ち居振る舞いから刀の光り方まで本当に洗練され、キメに来ている。
 個人的には、舞のシーン、庭園のシーン、それからやはりクライマックスのシーンが良かった。ネタバレは勿体無いので、ここでは避けるが特にそれらのシーンでは役者さんたちの演技を通して刀剣男士が見えるようだった。また、中にはゲームでの戦闘も思わず想起させるような演出もあったように思う。

その2:基本はとにかく「型」=アイコン化


 帰宅後、歌舞伎の入門本を読んでみて学習できたのは、とにかく「型」である!ということだった。
 例えば、歌舞伎においては登場人物の顔と化粧、さらに衣装や髪型、それだけで登場した瞬間その人物がどんなキャラクターなのか理解できるようにアイコン化されている。それはわかりやすく言えば、萌えキャラ(って死語かな)の記号化と類似している。子供っぽく目が大きくてツインテール=ロリ、ぱっつん姫カットのロングヘアー、猫目のクールフェイス=ツンデレ、ショートカット、やや吊り目のボーイッシュ=元気系というように、「化物語」のキャラクターたちがそれぞれの属性を記号化されている、あの感じである。
 そしてそれらの「型」は、知識のない私のような初心者でもうっすら読み取れるようなものであるのだからすごい。すでに知っているキャラクター以外の登場人物も、なんとなく彼らの立ち位置を窺い知ることができた。それは、あの特徴的な白塗りの作用も大きいような気がしている。奇抜に見えるあの白塗りだからこそ、細かな表情が読み取れたり、所作が際立つのではないか。顔の情報を単純化しているからこそ、必要な情報だけが入ってくるのである。

 今回の刀剣乱舞歌舞伎でも、それぞれのキャラクターが原作の特徴を残しつつ、歌舞伎的解釈のメイクを施されていた。あくまでこれは私の推察なのだけれども……例えば、髭切・膝丸兄弟のメイクである。膝丸がややキツめの表情で少し気になっていたのだが、なるほど、弟の血気盛んな性格を荒事風の化粧で表現したのかもしれないと感じた。兄である髭切が落ち着いた和事風の化粧であることと対比して、兄弟を演出しているのではないか。元はと言えばそれは、髭切の別名である「友切」が登場する曽我兄弟の演目とリンクして想起してもらえるように、という狙いがあるのでは…と浅はかながら考察してみたりもした。
 血気盛ん風の顔で言えば同田貫正国も、である。それに比べて、三日月宗近の端正な面持ちたるや。その化粧だけで、各キャラクターの個性が伝わってきた。

以上2点が歌舞伎の持つ面白い特徴である。
この特徴に加えて、刀剣乱舞という作品が相乗効果を上げた点もあると思う。

 そもそも刀剣乱舞というゲームは、刀の付喪神が人の形になってイケメン男子として現代に現れて、それがタイムスリップして主(プレーヤー)のために戦って……というものである。(ざっくり)
はぁ?なんだそりゃと、ついていけない方々も多いかと思うのだが、そういうある種めちゃくちゃな設定もすんなり受け入れてしまう懐の広さが、歌舞伎にはあると感じた。
 なぜならば歌舞伎自体が、大筋を崩さず、観客を喜ばせるためならば、素っ頓狂な演出や本来の史実とはだいぶ異なる創作も許されるというものであるからだ。つまり、粋な場面を見せられれば、それで良し!なのである。細かい点は置いておいて、まぁかっこいいから良し!という感性はこういうコンテンツにはつきものである。その点において共通点があると感じた。
 また、刀剣乱舞では基本的に刀を用いていた時代を題材にしているため、歌舞伎の演目の時代設定ともリンクする。その点もゲームのファンからすれば親しみやすかったように思える。

 きっと歌舞伎というのは、観客にいかにわかりやすく世界に入り込んでもらい、いかに大きく心を動かすことができるかを勝負しているのではないか。そしてそれは、ゲームや漫画、アニメ作品と通底していてもおかしくない。そのため、一見異種格闘技戦に見える組み合わせでも、実は親和性が高いのかもしれない!そんな思いが、クライマックスへ向かうと共に確信に変わっていったのであった。

 とにかく、想像を遥かに越えて面白い作品だった。さらに振り返れば、歌舞伎の基本的な構成や表現も押さえており、初心者としてはかなり勉強になった。また歌舞伎を見に行きたい、と心から思った私は完全に尾上松也の掌の上である。

 一つ思うとすれば、やはり歌舞伎はチケット代が高い。歌舞伎は知れば知るほど、誰でも楽しむことができる可能性があると感じた。だからこそ、気軽に足を運びにくいのが正直難点である。でもまたいつか、別の演目もチャレンジしてみたい。欲を言えば、刀剣乱舞歌舞伎をまた別の刀を主題に制作してくれないかな。

ここまでお読みいただきありがとうございました!♡
ここから先は、刀剣乱舞のファンとしてぜひ観てほしいポイントを箇条書きでいくつか。(良きポイントは多すぎたので、観てほしいところとして厳選しました。)
ネタバレもあるし、語彙力も下がりまくるので、NGな方は飛ばしてくださいね〜。

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・まず開演前に「案内役」が出てくるのだけど、それがめっちゃこんのすけ!!!思わず「か、かわ…♡」という声が漏れてしまった。

・鍛刀のシーン〜三日月宗近が顕現する、という演出になっている。しかも顕現した後の背景が本丸風。その再現度の高さにワーッと気分が上がりまくる。

・今回任務に赴く六振が登場。それぞれのゲーム内でのセリフを織り交ぜた後、ゲームで刀を構えている立ち絵を再現したポーズをとってくれる。やばい。完全に心掴まれる。(特に小狐丸が良かった)あと、基本的に源氏兄弟がセットで立っているのも熱い。かわいい。

・足利義輝への複雑な思いを絶妙な表情で表現する三日月宗近(尾上松也)に心奪われる。三日月らしい憂いのある顔がうまい〜〜〜。

・六振が並んで揃う、ちょっと緩いシーンあり。二役演じるために、刀剣としての出番が少ないことを指摘されるというメタなネタで笑う。ゆるゆると適当なことを言う莟玉さん、めちゃくちゃ兄者だった。可愛すぎ。演者同士も仲が良いのだろうということが窺い知れて、良かった。

・刀剣男士と時間遡行軍含む敵との交戦シーン。実際のゲームも若干意識した動きのようにも見え、リスペクトを感じた。時間遡行軍もね、ちゃんと短刀から大太刀まで揃っていて良かった。

・そしてクライマックスの義輝と三日月の対決。三日月の切ない演技もさることながら、心地よさすら感じる義輝(尾上右近)の豪胆な演技が良かったなぁ。本当に格好良かった。

・カーテンコールで登場した髭切(中村莟玉)が、着物に印した紋に触れながら挨拶してたところとか、おそらく原作の立ち絵リスペクトなのだけど、ワーッ好き!これぞ尊い!と思いながら拍手しまくり。兄者可愛すぎ。

 これ以外にも、小烏丸の華奢な妖艶さとか、膝丸の可愛さとか色々あるのだが、永遠に書けそうなのでここら辺でやめておくことにする。

 要するに、何が言いたかったかというと、とうらぶファンは絶対に楽しいですってこと。私のようなライトなファンでも十分に楽しめた!!!
ぜひ、迷っている方は足を運んでほしい。

以上、雑多なレビューでした!おわり!


始まる前にはこんな粋な解説幕が
全員出てくる、とにかくかわいい
あ、兄者〜〜〜!と叫びたくなった瞬間

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