【連載小説】ナクシモノ(2)

一日目

自己紹介も軽く済ませ、いよいよ授業が始まる。3人しかいないこの教室でどんな授業をするのか少し不安だった。

そもそも受験はどうするのか、この2人は何を学んでいるのか。珍しく、人に興味を持たない僕が二人のことを知りたいと思った。

そんなことを考えながら、1時間目の授業が始まった。国語の授業だった。小説の読解を進めるらしい。

「なくしたものたちの国」

読書好きな私だったが、この小説は知らなかった。現代文学にはあまり触れてこなかったからかもしれない。後で分かったことだが、この小説は2013年に初版されたらしい。

あらすじはこうだ

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主人公の成子は8歳のころまで、動物や自然、いろんなものと話ができた。山羊のゆきちゃんもその中の一人。

毎日お互いの話をし、お互いの大切なものの話をした。

しかしある時を境に、成子はあらゆるものの話が聞こえなくなってしまう。

最初はその事実に戸惑う成子だったが、大人になるにつれ世界のすべてが話しかけてこないことに慣れていく。そして彼女の「山羊のゆきちゃんとの思い出」は、段々と彼女の記憶から消えていった。

ある時、突然なくしてしまっていたカメラを見つけ出した。成子は写真の現像に向かう。そして現像された写真を見て彼女はあることに気づく。「これは、すべて私が幼いころになくしたものたちだ」そしてついに、彼女は山羊のゆきちゃんとの思い出も思い出す。

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僕にとっては、つまらない内容だった。近代文学と比べて幼稚なファンタジーにしか思えなかった。

しかも挿絵まで入っている。これは中学生が読むものなのではないか?と思った。

秋野君もどうやら同じことを思っているようで、肩肘をついてつまらなそうに授業に参加していた。

一方で、如月さんは夢中になって授業に参加していた。

「私この小説大好き!なんか夢があるっていうか、私もよくものをなくすからなぁ!みんな無事でいてくれるといいなって思う!」

感想が稚拙だ。自己紹介の時から薄々感じてはいたが、本当に元気だけが取り柄なのだろう。体育とかよくできるのだろうか。

なんて思いながら、狼が名指しで聞いてきた。

「梟君。あなたは、なくしものとかよくする?」

「しないですね。」

「そうなのね。」

たったそれだけの会話だった。授業になんの関係があるのだろうと思った。まさか、先生が作品名に「なくしもの」という言葉が入っていることを理由にこんな質問しないだろう。もしそうなら、こいつはバカだ。

そんなことを考えているとイライラしてきた。

これだから、人間に興味を持たないのだ。人間に興味を持ち始めると、何かの節にストレスを感じてしまう。これが面倒だ。

しかし、まだ先生がバカだというのは憶測にすぎないし、まだ1日目だから愛想よくしておこうと思った。

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そのあと、2時間目,3時間目と続き、6時間目まで授業があった。

しかし、先生の意味のないあの質問が、どうも心の中でひっかかって授業に集中できなかった。

何か覚えていることがあるとすれば、昼休みだ。昼休みに入ると同時に如月さんに声をかけられた。

「梟君!いこ!」

「え?何?」

「サッカー!さっき行くって言ってたでしょ?」

そういえば、自己紹介の時にそんな口約束してたなと思い、図書館に行きたい気持ちを抑えつつ、初日に変な奴だと思われないように、サッカーに付き合った。

普段しない運動をしたから、その場で筋肉痛になり、ひどい眠気と倦怠感に襲われた。もうサッカーはしないと心に誓った。

如月さんは、僕の3倍は動き回っているのに、休み時間が終わっても元気だった。

「スタミナおばけかよ、、、」

教室に戻り、息切れ交じりに小さくつぶやいた。

「そうだよ!私スタミナだけが取り柄なの!あはは!」

地獄耳かよ。まぁ、担任合わせて4人しかいないこの教室では、聞かれたくないことも響いてしまうのだろう。今後は気を付けようと思った。

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そんなこともあり、激しい疲労感に襲われたまま帰宅した。

家に帰るといつも通り机の上に置き手紙と作り置きの夕飯が置いてあった。

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おかえり、梟

初めての学校どうだった?先生の雰囲気もよさそうだろ?

あなたの大好きな図書館もあるし、きっといい学校生活になるよ。

今日も腹が減ったら、あたためて食べなね。

帰り遅いから、洗濯だけよろしくね。

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転勤先でもこれかよ。と思ったが、ある種変わらないものがここにあることで、若干の安心を覚えた。

今日は疲れたし、ご飯食べて早く寝よう。

そう思い、身支度を済ましさっさと眠りについた。










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