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あなたの凪いだ海~77歳を前にした夫へ、私からの告白~

あなたの、 寝顔を見ながら、 静かな 呼吸を聞きながら。

もう何もいりません。

ただ 横にいて、 息吹きを感じているだけで、 もう十分なのです。

あなたが、 少年のような顔をして、 健やかに、 いてくれること。

それだけで私は、 自分がこの世に生を受けたという、 その一番 重大な、 最も大切な、 確かな 恩恵を、 確かな 意味を、 よく分かっているからです。

あなたの、 もうじき 77年になる、 その 年輪の最後が、 こんなにも みずみずしい、 豊かに溢れる 水のような 感受性であったこと。

あなたと共に歩んで、 あなたと生きて、 あなたに 願った 感受性の解放を、 こうしてつぶさに まざまざと 見ていられるということが、 私の祈りの、 達成なのです。

初めて出会った時、 あなたの中に見た、 実に 芳醇な愛と、愛の やり方を まるで忘れちゃったような 不信と。

あなたはこんなにも、 激烈な までの 苛烈さで、 心を叩きつけてくれるというのに、 ボロボロに傷ついて、 その心の 行く先の 終わり ばかり見ようとしていた。

だから私は待つと決めました。

あなたは知らず知らず、 膨大な量の 心を 私に叩きつけてきます。

時に私を助けるために、 時に 自分を傷つけるように、 時に全てを破壊するかのように、 あなたの心は 本当に鉄砲水でした。

その鉄砲水は、 片っ端から 私に染み入って、 その水の純粋さに、 私が流した涙は 途方もない量です。

私は感動していたのです。
私の心は震えていたのです。
この清水の 源泉に、 美しいものを見て、 その美しさに浸り、 私はいつも 水浸し でした。

あなたの 全て。
仕草も、 表情も、 言葉も、 何もかも。

1日の半分が、 あなたを反芻し、 あなたのためだけに 涙がポロポロ 流れる時間でした。

どんどんどんどん1つになって、 たくさん たくさん冒険をして。

あなたの涙。
あなたの笑顔。
タバコを吸う仕草。
酔っ払って弾ける 冗談。

幾重にも幾重にも、 年は降り積み。

あなたが本当の心から ポロポロと泣いた時、 あなたは私に何と言ったか覚えていますか。

「 俺が一生あなたを守りたかったのに」

泣いて泣いて、 男泣きに泣いて。

あの時私は言いました。

「 こういうのはさ、 順番があるんだ」

今私は、 涙をこらえています。

あなたがこんなにも、 無防備で 健やかで、 まるで少年のような 顔で、 私のすぐ横にいるということ。

あなたを覆っていた、 あの鋼のような 怒りも、 どんな誰にも負けない 弁舌も、 どんな 戦いも、 あなたから 綺麗に剥がれ落ちて、 今。

あなたの、 みずみずしさが、 得難い宝 なのです。

私はあなたという 年輪が、 今ここへ 立てたこと、 あなたとともに生きて、 こんなあなたを見れたこと。

これ以上何を望むでしょう。

あなたは 77歳を前にして、 とても清らかで美しく、 まるで凪いだ海 のようです。

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