幼なじみが死んだ。 とりたての免許でお母さんを職場に送りとどけた帰りに脇道から出てきた車に衝突され、全身を強く打って死亡、とのことだった。訃報を聞き、急いで地元まで帰ってきたが、骨になるまで仏さんには会わせてもらえなかった。あいつと最後に話したのはいつだろう。ベランダでタバコをふかしながら考える。4月の夜はまだ少し肌寒い。高校卒業後、進学のために上京した俺と地元に残ったあいつ。「寂しくなったら電話してもいいよ」と送り出してくれてから一ヶ月もたってないなんて。信じられないく
水と雑草だけの生活は、仲間も俺も限界だ。誰か、誰か助けてくれ───「金魚に餌やったの?」「大丈夫あいつら藻食ってるから」
こいつ最近コソコソなんしよんや、学校にドーナツ持ってくるし、すり足やしトイレも長なった、どしたんやか。「俺、痔なんよね」
てかそんなこと聞いてどうするんや、なんやこの静寂は、皆いつから知ってたんや、今まで気遣ってたんか。「お前って、痔なん?」
今日も遅い時間に起きる。紅をさし、耳より高く髪を束ね、マスクをし、ヒールで踏みつけこう言った。「女王さまとお呼び!」と。
怪しげな男に言いくるめられ捕らえられた俺は従順に自らを縛り上げ跪き、気付いたときにはこう叫んでいた。「女王さま!」と。
チョコレート、ハート、ハート、チョコレート。 こんな日は寿司屋でさえチョコレートとハートで溢れかえっている。 最初に注文した生ビールはすっかりぬるくなっており、もう飲む気にはなれない。一方、正面に座るエミリは何杯目かわからないアルコールを何皿目かわからない寿司とともに流し込んでいる。今はハイボールとエビアボカドか。 「何も今日みたいな日に振らなくてもよくない?」 エミリがグラスを置いた衝撃で重ねられた皿が揺れた。エミリのメイクはもうすっかり崩れ、落ちているにもかか
赤い色が好き。そういうと大抵の男は情熱的で君にぴったりの色だねっていうの。だけどね私は本命には青い色が好きって言うのよ。
橘君ほんとイケメンよなあ。腰の位置高くて足もスラっとしてて、ハリのある肌に引き締まった身体、切長の黒目に鼻毛出てるやん!
「芦田! お前はただでさえ足を引っ張ってるんだから絶対に足がつくような真似はするなよ。ほんと誰だよこいつ連れてきたの。すっかり浮き足立ってるじゃねえか、足をすくわれるぞ」 「いやあ、芦田は足が出ちまったから親分に足元を見られてんだ。今日は正直、うちは相手の足元にも及べねえ。芦田は手も足も出ねえよ」 「たくっ、もともとこの世界には向いてなかったんだ。あれだけ足を洗えっつったのに、地に足のつかねえやつだよ、芦田は」
姉の部屋は汚い。 棚から床に居場所を移した教科書、一生洗濯機にたどりつけそうにない体操服、幾重にもプリントが積み重ねられ地肌の見えなくなった学習机・・・・・・そして極めつけは部屋中に置かれているペットボトルだ。 姉の部屋を通るたびに相部屋じゃなくてよかったと心底思う。家族は皆、いいかげん部屋を片付けてほしいと思っているが、小言を言われるたびに姉は「これが一番ちょうどいい配置」「別に臭くないから汚くないし」と言ってのらりくらりとそれをかわしている。 実際、配置うんぬんは
「毎日昼からお元気ですね。オタクのベット壊れますよ。仕事しないんですか? 201号室」 時刻は23時、いつものように定時前に押し付けられた仕事を終わらせ寒空のもと帰ってくると、ポストに苦情の手紙が投函されていた。 いや、たしかに苦情なのだが身に覚えがなさすぎる。まず、毎日社畜上等の私は休日であろうと日中は家にいない。そして、こんな悲しい私生活に愛しの恋人などいるわけがない。となると、この会ったことのない201号室の人が、どこかの部屋の騒音と勘違いしているのか。でも私は3
うちの旦那は今年で90になるけどなかなかくたばらない。私が世話しなくなっても死なないの。ほんと昔から私を待たせてばかり。
質問者(以下A)「あなたが最後に現場へ向かったのはいつですか」 回答者(以下X)「たしか一時間前です」 A「そこでの滞在時間は」 X「・・・・・・十分ほどです。用が済んだらすぐに立ち去りました」 A「なるほど。ではその後、あなた以外で現場に向かった人はいましたか」 X「はい。男性が二人立て続けに」 A「彼らに変わった点はありましたか」 X「いやあ、特には。数分で何事もなかったように帰ってきましたよ」 A「そうですか、わかりました・・・・・・Xさん、残念ですが犯
私はいつもここにいる。たまに顔を出すんだけど外へはなかなか出られなくなってきた。昔はいたお隣さんもそのまたお隣さんも、もうずっと見ていない。引っ越したのかな、きれいな更地になってるし。 今日、久しぶりに顔を出したら見たことのない人がいた。 「あの、いつからいるんですか」 「昨日から、初めてなんだ顔を出すのは」 そう言って新入りのその人は赤い顔をさらに赤く染めた。 「私はずっと昔からいるの。何かあったらなんでも聞いてね」 「ありがとう、さっそく聞きたいことがあって。うちの
「本日オープンでーす。いらっしゃいませー」 駅前がいつもより賑やかだと思ったら、新しい定食屋ができていた。最近は駅まで来ることがなかったから知らなかった。 「お兄さん、お兄さん。テイクアウトもありますよ! いかがですか」 物珍しくてじっと見ていたらはつらつとした店員に話しかけられた。 「ああ、今日はこれから外せない用があって、食事をする時間がないんですよ」 「えっじゃあ、その用事が終わるまで何も食べれないんですか」 「そうですね、正直お腹はすいちゃうけど」 「お兄さん