1Kのホテル(#18)

「毎日昼からお元気ですね。オタクのベット壊れますよ。仕事しないんですか? 201号室」

 時刻は23時、いつものように定時前に押し付けられた仕事を終わらせ寒空のもと帰ってくると、ポストに苦情の手紙が投函されていた。
 いや、たしかに苦情なのだが身に覚えがなさすぎる。まず、毎日社畜上等の私は休日であろうと日中は家にいない。そして、こんな悲しい私生活に愛しの恋人などいるわけがない。となると、この会ったことのない201号室の人が、どこかの部屋の騒音と勘違いしているのか。でも私は301号室の住人で、201号室に騒音被害をもたらしそうな部屋には現在借り手がついていないらしい。

「どう思うよ、この手紙」
「どうって、あんたのヒモが女でも連れ込んでんじゃない?」
 結構真剣に悩んでいるのに友人のミキは、電話越しでもわかるくらいくつくつと笑っている。
「私にはヒモさえいません。真面目に考えてよ、住民トラブルで解約なんてなったらどうすんの」
 ただでさえ会ったことないのに、こんな不躾な手紙を投函する隣人である。争うなんてごめんだ。
「ごめんごめん。んー、人じゃないならポルターガイストとかじゃない?」
「えっ幽霊?」
「そうそう、正確には騒がしい幽霊ね。あんたのいない間にベットの上で盛り上がってんでしょ? 幽霊相手に立ち向かうのは無理なんだからベットに靴下でも履かせて対策したら」
「うちは幽霊のホテル代わりなのか・・・・・・」
「仕方ないよ、幽霊は夜行性なんだから。彼らにとって昼が大人の時間なんじゃない?」
 こういう話題の時ばかりミキは頭の回転が早いのだ。
 とにかく、文句を言っても仕方がない。ほかに原因がわからない以上『我が家幽霊のホテル説』のもと、対策として市販のベット足用靴下を購入した。

「最近は静かですね。別れたんですか?就職おめでとうございます。 201号室」

 騒音問題はベットに靴下を装着してすぐ、癪に触る手紙とともに終焉を迎えた。

「でもこれで『我が家幽霊のホテル説』も立証されたってことだよね?」
「いや、解決してよかったじゃん。本当に怖いのは幽霊よりも生きてる人間なんだよ」
「そりゃそうだけど・・・・・・」
 釈然とせず、渦中のベットに倒れ込む。自分の寝具なのにこんなにくつろげないことがあっていいのか。

 カサッ

 ふと頭部に違和感を感じ、枕をめくった。

「ねえ・・・・・・」
「なに?」
「枕の下からゴム出てきたんだけど・・・・・・」
「へえ」
ミキは感心して言った。



「幽霊も避妊するんだね」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?