涙のスターダスト

 幼なじみが死んだ。
 とりたての免許でお母さんを職場に送りとどけた帰りに脇道から出てきた車に衝突され、全身を強く打って死亡、とのことだった。訃報を聞き、急いで地元まで帰ってきたが、骨になるまで仏さんには会わせてもらえなかった。あいつと最後に話したのはいつだろう。ベランダでタバコをふかしながら考える。4月の夜はまだ少し肌寒い。高校卒業後、進学のために上京した俺と地元に残ったあいつ。「寂しくなったら電話してもいいよ」と送り出してくれてから一ヶ月もたってないなんて。信じられないくらい遠い昔な気がする。結局、電話は一度もしなかった。新生活が思ったよりも忙しかったというのもあるが、本当のところは寂しがってると思われたくなくて強がっていたのだ。
 地元の空は東京の空とは違い星がよく見える。星が願いを叶えてくれるなら、一度でいいからあいつに会わせてほしい。俺がタバコを吸っているなんて知ったらびっくりするだろうな。「未成年がそんなもの吸うんじゃない」とか言いそうだ。もう叶わないことを考えても仕方がないけど。さて、そろそろ部屋に入ろうと後ろを振り向くと灰皿を持ったあいつがいた。
「おい、未成年がそんなもの吸うんじゃない」
 喉がヒュッと鳴った。人は驚きすぎると声が出なくなるらしい。
「ゆっ......幽、霊......?」
「その通り。それより早く消せよ。煙で成仏しちゃうだろ」
「ああ、ごめん......って、えっなんでいるの?」
「利害の一致。お前も会いたがってた、俺も会いたがってたっていうこと。なんか言いたいことでもあったのか?」
 俺は今日、間違いなく骨になったこいつを見てきたはずだ。それなのに目の前の幼なじみはしっかりと筋肉のついた健康的な見た目をしており、いつもの調子でペラペラ喋っている。
「言いたいこと......ああ俺タバコ吸い始めたんだ。どう?」
「やめた方がいい。早死にするぞ」
「......酒も飲み始めたし、俺結構飲める方だと思う」
「飲めるやつほど飲みすぎる。早死にする。あと一つ言っておくが大学生になったからってハメ外しすぎだろ。早死にする」
「死んだやつに言われたかねえよ! なんでお前は死んだんだ!」
「......泣くなよ。俺が死んで悲しいのはわかるけど」
「泣いてない!」
 泣いてた。久しぶりにこいつと話せて、そしてもう話せないことに。真面目なあいつにタバコを吸わせたかったし、一緒に酒を飲んで語り合いたかった。彼女が出来たら紹介したかったし、あいつがどんな子を選ぶのかだって知りたかった。
「なあ、お前が泣き止むの待ってたら言いたかったこと言う前に時間が来ちゃうから言うけどさ」
 あいつの手が俺の頬に触れる、気がする。
「お前、一回くらい電話しろよ」
 そう言ってあいつは灰皿とともに消えた。
 涙の代わりに流れ星が落ちた。

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