地域版「公益」資本主義の必要性 ★ 自治体の方々と、これからの地域事業者の支援を考えたい(1)
株式会社ただいまの佐藤と申します。これまで10年以上、地域の事業者さんの支援を手がけてきました。支援にあたっては、日本各地の自治体や、地域の金融機関さんや支援機関の方々とご一緒させていただく機会が多く、千葉、長野、京都、広島、福岡、長崎などで主に活動しています。
新型コロナの影響が、まだまだ見通しにくい状況が続いています。そんな中でも、地域の事業者は生きていかなければならず、またそのための支援もレベルアップが必要な状況です。以前より、地域金融機関の方向けのコンテンツを発信させていただいていますが、これから5回程度、日本各地の自治体の皆さまに向けて、地域の事業者の支援についてご一緒に考えるコンテンツを発信させていただきます。
地域の自治体の職員の皆さまと、まずは書籍で背景となる知識を共有し、その中身をどう解釈し支援につなげていくか、この場でご一緒に考えていければ幸いです。
こんな時代だからこそ「売り手よし・買い手よし・世間よし」のビジネスを、地域で育てる必要性。
まず、お読みいただく方はすでに足元の支援(当面の資金手当など)を手がけられていることを想定した上で、新しい生活様式に対応した事業を「いかに育成するか」についてスポットを当てたいと思います。
今回、参考にしたいのが、内閣府の参与も務められている原丈人さんの『「公益」資本主義〜英米型資本主義の終焉』です。
本書では、株主の利益だけを追求するのではなく、より多くの人々を幸せにし、地域社会に貢献し、経済全体を持続的に成長させる方法として「公益」資本主義を提唱し、実践のためのポイントが提示されています。この「公益」については、“「公益」と言うと、利益を追求するのが悪いことのように思われるかもしれませんが、そうではありません。その逆です。企業を支える全ての関係者に貢献するため、大いに稼ぐ必要があるのです。”(P158)とあります。
今回、新型コロナの流行が社会に及ぼした最も大きな影響は、人々の働き方や生活様式が変わり、それに伴って消費の行動やニーズが変化したことだと思います。流行が意識され始めた2月の時点で、これほどまでに通勤や移動が減り、テレワークが日常化することが想像できていたでしょうか。かく言う私も、地域支援のために年間100泊以上の出張でしたが、4月からはその回数は0になり、代わりにオンラインミーティングでスケジュールが埋まる日々となりました。新幹線や飛行機を経由しての会議がほぼなくなってWi-Fi経由になり、スーツを着ないからクリーニング屋さんにお世話にならないかわりにオンライン会議対応のキレイめカジュアルを買い足したり、東京での会食がないので馴染みのお店に顔を出せないかわりにテイクアウト利用で地元の新しいお店を発見したり、といった変化が具体的に起こっています。新型コロナの流行によって、生活そのものが、ガラリと変わりました。
そうした生活様式の変化に合わせた、企業の持続的な成長を、地域の自治体はサポートしていく必要があると弊社は考えています。現在提供されている支援メニューの提供の後は、「企業の営業力をより強化する」支援が必要なはずです。そのためには、短期的な目線でなく、中長期の目線で、地域を支える事業の支援が必要があると思います。
「テクノロジーリスク」と「マーケットリスク」を回避する支援の必要性
もし、今後の地域を活性化させるため、新しい技術を活用した事業化に取り組もうとした場合に意識しておくべき重要なポイントが、本書P102で指摘されています。“私の経験から言えば、新しい技術が事業化されるまでに背負うほかないリスクが2つ存在します。ひとつは、その技術の実現可能性と有効性に関わる「テクノロジーリスク」です。もう一つは、開発技術の市場での受容可能性に関わる「マーケットリスク」です。この2つのリスクをクリアできる見込みがないと、金融機関から融資を受けるのは困難となります。”という点です。ひとことで言えば、実際に使える技術なのか、あわせてその技術を活用できる市場があるのか、をきちんと見極めることが必要である、ということです。
その支援のためには、自治体の方々の知見や視界のみにとどまらず、各地域の支援機関が持つ情報やネットワークもフル活用し、上の2つのリスクの見極めをしながら、小さなトライアルを繰り返し、事業化に向けノウハウを確立していくことが必要だと思います。
もちろん、資金なくてはチャレンジも難しいと思いますので、地域の金融機関や支援機関とは、意見交換や支援事業モデルの構築に加えて、補助金などの積極的活用、さらには人材の確保や営業の支援も含めた全方位的な協力体制も必要だと思います。
あわせて、こんな時代でも「地域のために働きたい」「事業に取り組みたい」と考える「意欲的な事業者」を発掘し、つながりを持ち、中長期的に支援していくことも重要だと考えます。やはり事業とはつまるところ「誰がやるか」が、成功を左右すると経験上感じています。
これまで弊社では、そんな意欲的な事業者さんを、複数年にわたり支援させていただくチャンスに恵まれました。
福岡県糸島市ではシティセールスを中心に、消費地のお客様のニーズから逆算した、地域内事業者の新商品開発や販路開拓を約5年、取り組ませていただきました。また、長崎県長崎市では「地域自慢」の視点だけじゃない地域産品を拡販する、地域商社の育成支援事業を3年にわたり取り組み、新型コロナに対応したチャレンジにも取り組んでいます。
通常、自治体の支援は単年度ですが、状況が許せばできれば複数年にわたって支援させていただくことで、目先の利益にとらわれない事業化の支援が可能になります。
本書では、利益偏重主義、つまり利益を見かけ上、手っ取り早くあげるといった事例もあえて紹介されていますが、こちらの手法では、いくらやっても地域の未来が拓けることはないでしょう。
原丈人さんのベンチャー事業投資家としての地球規模の実践事例には、これからの地域活性化の取り組みを考える私たちにとっても、多大なるヒントがあります。そして本書を読み終わったとき、「公益資本主義」という考え方の先に、実のある希望の一端が見えてくると思います。
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。次回は 地域を支えるビジネスを検討するために必要な「顧客のシナリオ」づくりについて、考えてみたいと思います。
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