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はじめに


 日本国憲法改正の機運が高まっています。
 改憲推進派は、「今の憲法では日本を守れない。今やらなかったら、永久に改憲できない!」と気合が入ります。一方で、改正に反対する護憲派は、「憲法改正で戦争に巻き込まれる。平和憲法を守れ!」と悲壮感を漂わせています。
 憲法改正の焦点は、日本国の「戦争放棄と戦力の不保持」を定めた第9条です。つまりこの改憲問題は、日本人が「戦争」とどう向き合ってきたのか? という根本的な世界観に関わるものだから、国論が二分されているのです。
 世界196カ国のほとんどが、第二次世界大戦ののちに植民地からの独立を達成した新興国です。国家として一人立ちしてからの歴史が浅く、過去の経験から学べることは少ないのです。
 しかし日本国は、千数百年の長きにわたって独立を維持し、江戸時代には250年余にわたる平和を維持してきた類まれな国家です。それがなぜ可能だったのか、を考えること自体が戦争観につながるでしょうし、その長い歴史の中で実際に日本国が関わった戦争を客観的に理解しておくことは、改憲論議を深めるためにもきわめて重要だと考えます。
 第二次世界大戦後の歴史教育は、戦争を悲惨なもの、あってはならないものとしてタブー視し、戦争について語ることさえはばかられるという風潮を作ってきました。サッカーの公式試合にぼろ負けしたチームが、敗因の分析をまったく行わず、「二度とサッカーはしない。ボールを持たない」と誓いを立てたのです。
 あの軍民合わせて300万人もの日本人を死に至らしめた満洲事変から第二次世界大戦に至る戦争についても「そもそも間違っていた」と断罪するだけで、「なぜ負けたのか? 今後二度と負けないためにはどうすればよいのか?」という議論は封殺されてきたのです。
 しかし現実の世界では苛烈な「試合」が今も続いており、日本が望むと望まざるとにかかわらず、巻き込まれる危険性が高まってきました。北朝鮮の核兵器搭載可能な弾道ミサイルが日本列島の上空を通過し、中国海上警察の公船が日本の領海侵犯を繰り返しているのです。武力紛争に巻き込まれないためにはどうすればいいのか、もし巻き込まれた場合はどうするのか、を真剣に議論しないのは、あまりにも無責任だと思います。
 本書では、世界の戦争の歴史を振り返り、人類がいかにして戦争を抑止するシステムを構築してきたかを考えます。
 次に日本の戦争の歴史を振り返り、「サムライの国」がなぜ2世紀におよぶ「徳川の平和」を生み出したのか、「国際法を学んだ」明治日本が、どうして昭和には「軍国主義の国」となり、さらに敗戦後の「平和憲法の国」に転換したのかを考えます。
 最後に、近未来の東アジアで起こりうる危機を予測し、日本がこれに巻き込まれないためにはどうしたらいいのかを、「改憲」「護憲」の立場の違いを超えて、冷静に考えていきましょう。


『「戦争と平和」の世界史』茂木誠 著
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7月11日発売予定


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