#06 高く弾んだ打球が一塁手の頭を越えて
夏休み前最後の週末の日曜日、前日に引き続き4年生以下の練習試合が組み込まれた。
相手は過去に2度の全国制覇を果たしたことこある強豪チーム。各学年で人数制限をかけて団員を募集して育て上げ、毎年のように好成績を残しているチームだ。
うちの監督も自チームの4年生メンバーに手応えを感じているようで、2年後を見据えて次々と強化試合を組んでくれる。ギリギリ先発メンバーに入り込んでいるK太にとっても、経験値を増やす良い機会だ。
この日もK太は8番ライトで先発出場。初回の守りは4年生エースが二番打者にセンター前ヒットを打たれ、さらに2死2塁から四番打者の内野安打を打たれるも、その間に得点をを狙った走者をホームでアウトにして無失点で切り抜ける。流石に鍛えられたチームだけあって今までのようにはなかなか行かない雰囲気で試合が始まった。
1回裏の攻撃、相手の4年生エースは大きい子が多いうちのチームの誰よりもさらに大きい速球派だ。それでもうちのレギュラーメンバーは負けずに食らいつく。
先頭打者がショートゴロに倒れるも、二番打者の左打者がレフト前ヒットで出塁。すかさず盗塁して相手の送球エラーを誘い、一気にホームまで帰って来て先制に成功した。
さらに三番、四番がファウルで粘って共に四球をもぎ取り、パスボールも絡んで1死2・3塁とした後、五番打者の見事なセンター前ヒットでさらに2点を追加。六番は三振に打ち取られるも七番のレフト前ヒットで1点追加。2死1塁でK太に打撃が回って来た。
この日の朝、前日の反省を踏まえて速球に対するタイミングの取り方の動画を一緒に見て、良いイメージを作らせておいたのだが、早くも実践するチャンスが訪れた。
初球、高めに外れた球をよく見送ってボール。2球目は監督から待てのサイン。今日はサインもしっかり確認し、バントの構えで相手を揺さぶり2ボール。1塁ランナーに盗塁のサインが出た3球目も、しっかりバントの構えでアシストして2死2塁。カウントは2ボール1ストライク。そこからさらに2球ボールが続き、フォアボールで繋げることができた。
相手エースはなかなかアウトを取れないことに苛立ったのか制球が定まらなくなり、九番打者も死球。結局この回4点を奪い、強豪相手にまさかの打者一巡交代を喰らわせることに成功した。
2回表を三者凡退で抑えたその裏、二人目に変わった相手ピッチャーも容赦なく攻め立てる。先頭の一番が9球粘ってツーベースを放つと、四球とワイルドピッチで無死2・3塁とし、三番打者のスクイズで1点を加えると、続く四番打者はカウント3ー1となり、置きにきたボールを完璧に捉えた打球はレフトの頭上をはるかに超える柵越えホームランで2点を追加した。
3回表はうちの2番手投手が8番から始まった相手打線を危なげなく抑え、その裏の攻撃は先頭でK太に打席が回って来た。
相手は2番手ピッチャーが続投。レギュラークラスのチームメイトは簡単に打ち込んでいたが、4年生としては十分な好投手で、K太にとっては簡単に打てる相手ではない。外角を中心に攻め込まれるものなんとかフルカウントまで粘り、7球目にくらいついた打球はやや振り遅れたもののライト上がり、もう少しでポテンヒットになりそうだったが浅く守っていたライトに捕られてフライアウト。
それでも、非力だったK太が詰まりながらもライトまで飛ばせたのはレガシーのおかげもあるが、しっかり振り切れるようになった成長の証だろう。監督からもナイスバッティングと褒めてもらうことができた。
K太の粘りに触発されたわけでもないだろうが、九番打者も倒れた後の上位打線が再び火を吹き、2死から3連打からで2点を奪い、さらに四番打者の2打席連続ホームランでこの回計4点を追加した。
このままでは終われない相手チームは、4回表にようやく打線がつながり3点を返された。
4回裏、再び相手エースがマウンドに上がり、この回先頭の七番打者が四球で出塁。無死1塁でK太に3度目の打席が回ってきた。
まだ制球に苦しむ相手エースに対し、打つべき球の見極めに苦しむK太。相手のワイルドピッチの間にランナーが2塁まで進み、3ボール1ストライクからの5球目、外角低めの速球を追い込まれる前に積極的に打ちに行った打球は1塁側に高く弾んだ。相手の一塁手は前に出て捕球を試みるもバウンドが合わず、ツーバウンド目が一塁手の頭を越えて、打球はライトまで転がって行った。
その間にセカンドランナーは一気にホームまで返り、記録はタイムリーライト前ヒットとなった。
打球そのものはいい辺りではなかったが、強く振り切ったからヒットになったのだと監督にも褒めてもらえた。
K太はさらにその後盗塁を決め、送球エラーの間に三塁まで進むと、スクイズのサインもちゃんと見逃さずに走って生還。
3番手投手が5回表を3人で抑え、試合は結局13ー3で勝利するとことが出来た。
まだ4年生の段階と言えど、全国大会常連のチームを相手にこれだけの大勝が出来たのだから、このまま成長を続けたらと期待してしまうが、成長し続けられるからこれからの過ごし方次第。でも少なからず可能性を秘めたチームであることは間違いなく、K太もその一員になれつつあることは、本人にとってもやり甲斐を感じていることだろう。
K太の野球人生はまだ始まったばかり。少しでもチームメイト達に近づいて行けるように、これからも陰ながらサポートして行きたいと思っている。
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