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発刊順:83 ベツレヘムの星

発刊順:83(1965年) ベツレヘムの星/中村能三訳

マローワン名義で書かれた、クリスマス・ストーリーの短編がいくつかと詩が収められている本。
ミステリーではないが、訳者の解説に

クリスマス・ストーリーというのは罰を犯した人間が神の手によって救われ、清められるというのがテーマになっています。探偵小説家のエラリイ・クイーンが指摘したように、これは探偵小説のパターンとも一致しているのです。それにアガサ・クリスティーは人間心理の微妙な動きを描きあげるのが巧みですから『ベツレヘムの星』の短編のひとつひとつに彼女の本領が発揮されていると言えましょう。

本書解説より

とあります。
 
短編「ベツレヘムの星」では、堕天使ルシファーが善の天使を装ってマリアの息子(イエス)が未来、苦しむさまを見せ、その苦境から救うために今すぐこの命を差し出させようとマリアを騙しにかかる。
 
純粋なマリアは、すぐには答えを出せず悩み苦しむが、ルシファーにこう言う。

「わたしのような何も知らない愚かな女に、神のいとたかい御意を測ることはできません。神はこの子を授けてくださいました。この子をお取り上げになるのなら、それもまた神の御意でございます。でも、この子に生命を与えてくださったのが神でございますなら、なんでわたしがその生命を奪うことができましょう。わたしにはよくわからないことが、これから先、この子を待っているかもしれません…わたしが見たものは一部の光景だけで、全部ではないのかもしれません。この子の生命はこの子自身のもので、わたしのものではありません。それをわたしが奪うのは許されないことでございます」

ルシファーが消え去った後に、幼な子はほほえみながら「でかした」とでも言うように、ちいさな両手を母親のほうに差し出していた。
 
クリスティーらしいひねりとユーモアも散りばめらたクリスマスの小作品に出会えます。


早川書房 1991年2月第5刷版
2023年8月5日読了
メルカリで購入


 
 


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