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危機一髪!バルセロナでの怖い体験

2011年夏。

行き先は漠然とヨーロッパがいいと決めていた。

それまで団体ツアーでトルコ周遊と、友人とイタリア三都周遊の二人旅は経験済み。溢れ出す好奇心と若さをもってすれば、十分といえる経験値だった。

いざ「人生初の一人旅」。情熱の国スペインへ。

これは一人旅で、バルセロナに降り立った数時間後の、私が実際に体験したお話だ。

空港から市内へ向かう手段はいくつかあった。アジア旅行だったら、タクシーでピューっと。というのもアリだが、ヨーロッパは如何せん物価が高い!というイメージ。

ということで、地下鉄で移動することに決めた。

大きなスーツケースに大きめのショルダーバッグ、そして財布・携帯・小物用の小さめのウエストポーチを提げている私。恥ずかしいくらい観光客感丸出し。

そんなことは気にも留めず、「初めての一人旅。大人な私」に酔いしれつつ、いそいそと地下鉄の駅へ向かう。

当時、「英語が話せる」と言えるほど堪能ではなく、自分の聞きたいことややりたいことは簡単に伝えられるけど、相手の回答は3〜4割くらいしか理解できない。そんな程度の英語力。

高揚感はありつつも、「見知らぬ土地で、迷子は嫌だ」という恐怖感があった。人に道を訪ねるのも、行き先を確認するのも、何度も何度もしないと気が済まない。

切符を買うのも一苦労。行き先を何度も掲示板で確認した。ユーロコインも慣れない。荷物の多さが、事をスムーズに運ばせてくれない。

あたふたしながら、やっとこさ地下鉄のホームへ。

混んでいた。

電車が到着し、ぞろぞろと乗り込む。人の流れに身をまかせながら、立ったポジションは、車両後方の扉から2席目の前。左前方には乗車した扉があり、前には行儀良く乗車客が座り、左右・後ろには客が立っている。そこまでぎゅうぎゅうではないけれど、やや身動きが取りづらい混み具合。

乗車した瞬間、困ったことが起きた。

人の流れに乗り切れず、スーツケースだけが、私の左手にいる女性客の向こう側になってしまった。私は、その女性のお腹のあたりを横切る形で自身の腕を伸ばし、辛うじてスーツケースの取手に手をかけている状態。やや中腰。ずいぶん奇妙なポージングだっただろう。

しかし、背に腹はかえられぬ。

スーツケースの中には、「憧れのヨーロッパで、うーんとおしゃれしてやろう」と、一軍の洋服ばかり。カメラのバッテリーも化粧品も入っているし。万が一、盗まれてしまっては困る。しかし、手はかけているものの誰かがぐっと力を入れれば、簡単に奪われてしまう。電車は発車していたので、簡単に盗まれることはないけれど、次の駅までになんとかしなくては。

そこで、スーツケースをこちら側に寄せようと思う。が、スペースがなく、うまくいかない。

そんな中、ふと視線を感じ、先ほど乗車した扉の方に目をやると、テンガロンハットを被ったヒゲモジャおじさんが立っていた。私を見ながら、「こっちへ来い」と手招きをしている。

「.....は????」

と頭の中で盛大に疑問符。意味がわからなかった。そして、ちょっと怖い。

しかし、今は変態おじさんに付き合っている暇はない。見なかったことにしよう。こっちはスーツケースのコース取りで忙しいのだ。

左手の女性は私が困っていることに気づいていないのか、遠くを見据えたまま、スーツケースの参道を開けてくれない。

ならば!!私がスーツケースの元へ向かうしかない!

と、混んでる車内で申し訳なかったが、中腰のまま、気弱く「Excuse me...」。小動物の歩幅ほどで動き始める。

それでも、左手の女性は、座席から天井に伸びる銀のポールにつかまったまま。ガンとして動かない。「なぜ動かない?そして、なぜこの距離で他人がお腹の辺りでモゾモゾしているのに平然と立っていられるのだ?」とやや苛立ちを覚えるほどだ。いや、落ち着こう。公共交通機関で、大きな荷物を引っ提げ、ポジション取りを間違えてご迷惑をかけているのは私だ。

しかし、この”通せんぼ”状態から抜け出せない。その間も、私は変わらず中腰であたふた。ラッコのアニメ『ぼのぼの』だったら、間違いなく5層くらいの汗が飛んでいるだろう。あたふた状態は体感では長く感じたが、実際は10秒にも満たなかったと思う。

その刹那、思いもよらないことが起こった。

突然、誰かが私の腕をグイッと力強く引っ張ったのだ。

”通せんぼ女性”を強引に押しのけ、その手の主の方に私の体は引き寄せられてしまった。

何が起こったのかわからず、さっきまであれだけ必死だったスーツケースのことも忘れた。犯人の確定を急いだ。犯人確定に時間はかからなかった。なんせ、まだ私の腕を掴んでいるんだもの。

犯人は、、、あのテンガロンハットおやじだ。

怖すぎる。

私が何をしたというのか。

何が目的かわからないし、とっさに英語が出てこない。ただただ怯えていると、テンガロンハットが私のウエストポーチを指差した。

なんと、ポーチのジッパーが開けられて、財布が半開きになっていた。

声が出なかった。

一方、「は?え???は????えええええ!えーーーーー?!」と頭の中は大混乱。


どうやら、「通せんぼ女」はわざと私を困らせていたのだ。それに気を取られている間に、グルだった右手の女性客が私の背後で、ウエストポーチを開けて金銭を盗むという手口だったよう。なんという見事なチームプレー。おそらく常習犯だろう。

幸い、金銭を取られる前だった。財布は半開きだったので、本当に危機一髪のことろだったのだろう。

アジア人は絶好のターゲットだということもわかっていた。だから、スーツケースを必死に守っていたわけだし。でも、、、、わかっていたのに、全然気づかなかった!ある種のプロフェッショナリズムを感じる。

何が怖いって、バレた後も素知らぬ顔で何事もなかったように振る舞っている彼女たちの神経の図太さ。


テンガロンハットおじさん。

心からごめんなさい。助けてくれようとしていたなんて。今更だが、テンガロンハットも渋くてかっこいいよ。うん。

そして、本当にありがとう!


空港からの公共交通機関は、スリからすると絶好の狩り場。

あれから、何カ国も旅をしたけど、これが教訓になっている。

海外に行くときは、不自由が多い。それが楽しい要素でもあるのだけれど。でも、事件に巻き込まれるとせっかくの旅行が台無しになっちゃうので、八方目で気をつけないとね。

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