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[十年の海峡]

酷くひび割れた下唇
ため息一つさえも滲みる
愛の宛先も見つからず歩く
午後四時 足早に日が沈む

引きずるキャリーケースの
錆びついた車輪 十年とおとせみお
鳴らした足跡の数を賭けた
僕には何が戻ってきただろう

不毛な問いを無情にも
追い越してゆく回送のバス
いないと知って胸を撫でおろす
あなたを想えば揺らぐから

足元の雪を握れど
あの日々のきらめきは無く
灰色の露が体温を奪う
手の触れた過去を解かすように
今年も時が止まったままの
故郷の二文字
その意味をニヒルに笑う

駅前の信号待ちの雑踏
すぐ隣 居合わすくにの人
不意に静かに思い出すのは
年明け はしゃぐあなたの笑顔

強張る喉の奥ただ戸惑う
酷く霞む一足その向こう
十年遠く隔てる海峡
濁る吐息が裏付けるよう

暦の数字が増えたから
七番線の汽車に乗る
棄て去られた理想郷アルカディア
手の触れる物は朽ちてゆく
今年も時が止まったままの
故郷の二文字
その意味をニヒルに笑う

故人を偲ぶように
僕はこの街にまた来よう
暦をめくるために

多分高卒前、最初に書いた数編の一つ。のリメイク。

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