ラオス旅行記:ラオスの山奥で『iPhoneを探す』編
深夜のバスの車内。目の前で全く知らないラオス人が激しく言い争っている。事の発端はまさしく僕である。
遡ること4時間前、僕はラオス郊外の町ルアンパバーンに別れを告げ、首都であるビエンチャンに移動するところだった。タイに入国するためだ。
ルアンパバーン
ルアンパバーンは街全体が世界遺産に登録されている。仏教国であるラオスの中でも特別寺院が多く存在しているだけでなく、少数民族の方が住んでいたり、フランス植民地時代の歴史の名残で西洋文化も根付いていたり。そのうえ街が静観で美しいためだ。
街中からワンデイツアーを組んで少し離れた自然公園まで連れて行ってもらうとメコン川の支流となる『クアンシーの滝(Tat Kuang Si)』がある。
糸が連なるように流れ落ちる滝とエメラルドグリーンの水面が幻想的で、さらに東南アジア最長となるメコン川に注ぎ込んでいると思うと、なんだか自然の壮大さを感じる。
蒸し暑い気候のラオスだが、こんな綺麗な自然の中で水浴びができるんだから贅沢だ。
エメラルドグリーンの水がきれいなクアンシーの滝
市街に戻ると日没時には、『プーシーの丘』という小高い場所から雄大なメコン川に沈む夕日を眺めることできる。この丘の名前の由来は、かつてルーシーという仙人が神の導きによって、この街を作ったという伝説から、「仙人(ルーシー)の山(プー)」というのが由来らしい。
まさしく「息を飲むような絶景」で時間の経過が惜しくなる。
プーシーの丘からメコン川に沈む夕日を望む
船頭さんに言えば船を出してくれるので、川の上から見ることもできる
また、夕方から夜にかけてはナイトマーケットに露店が並びエスニック柄のお土産やタイパンツなんかも格安で購入できるし、何より人々の生活感を見れるのでぜひ訪れてみてほしい。
ナイトマーケットには日用品から観光者向けのお土産までずらりと並ぶ
そしてバスに乗る
ルアンパバーンからビエンチャンは約340km、日本の名古屋-東京間くらいらしい。新幹線があれば2時間もかからず移動できるけれど、ラオスの舗装されていない悪路をバスで移動する事になるため10時間はかかるんだ。
そんなバスもランクがあり、VIPクラスを選べば二段ベットが多数設置された車内で横になりながら快適に移動ができる。が、当時学生貧乏旅行を決行していた僕はそんなバスを選ぶ余裕があるはずもなく、最安の、それでいてクッション性のない、まるで硬いバネの上に薄いマットと背もたれがついているだけのような、オンボロ中古路線バスのチケットを手にしていた。
昼発と夜発があるのだが昼間の時間を無駄にしたくないという考えから、夜発の便を取った。
ここで冒頭に戻るのだが、pm.9:00発のそのオンボロバスに乗り込んだ。同乗者は、宿で知り合った同い年のユージンとカイトという日本人二人。二人ともちょうどビエンチャンに移動するということで一緒に乗り込んだ。
バスの車内は満席で見渡す限り地元の人たちでいっぱいだ。すでに眠気眼の人もいればさっそくお菓子を食べている人、皆様々に出発の時間までを過ごしている。
定刻になるとバスは発車し、最初こそ舗装されていたものの、次第にガタガタの山道に差し掛かっていく。(というかこれが永遠と続く)
スプリングに尻が押し上げられた僕の身体は上下にピョンピョン跳ね始める。窓に頭をもたれようものなら、ガンッと殴られる終いだ。
そんな中でも、へとへとに疲れている僕たち3人は少しの間睡魔に意識を飛ばされることもあった。あれは深夜12時近かったと思う(正確な時間は分からない。なぜなら...)、束の間の睡眠から目覚めた僕は時間を確認しようと短パンのポケットに入れたはずのiPhoneを取り出そうとした。
しかし、ない。さっき確かにポケットに入れたはずなのに。
少し慌てたが、まあポケットから落ちてバスの後方に滑っていったんだろう。そう思い、タイミングを見て後ろの席の人に座席下を見てもらった。
しかし、そこにもない。そもそも現地の人なのであまり英語も通じない。
この辺から焦り出したが、もう焦ってもしょうがないのでバスが止まった折に運転手に聞いてみよう。気が気ではなかったが、バス休憩まで待つことにした。
それから1時間後くらいだったと思う。バスはトイレ兼食事休憩(こんな時間に)に停まった。バスの運転手に事情を話すと、自分も英語は喋れないが、そこのレストランのオーナーは話せるという。
レストランのオーナーのところに連れて行ってもらい、再度事情を話すと乗客に聞いてみるよ!ということ。
ああ、なんて優しい。目元も優しそうだし、なんだか神様に見えてくる。仏教国だから仏陀か。南無阿弥陀仏。
これで助かった。
そう思いバスに戻ると、料理をテイクアウトしたユージンとカイトはお弁当のようなものを食べている。美味そう。というかこんな時間に腹減ってるんかい!心配してくれてはいるが、口はモグモグ動いている。
オーナーは乗客全員に呼び掛けてくれたが、どこにもないし、誰も持っていないという。そのうち、「お前が持っているんだろ!(的な事)」をある乗客が、僕の後ろの席の乗客に言う。後ろの乗客もただでは退かない。
「言いがかりをつけるお前が持っているんじゃないのか!(的な事)」
そうしていくやり取りをしていくうちにヒートアップしていく。見ている乗客もラオス語で野次を飛ばし始める。まさかラオスの山奥、深夜1時にこんな騒がしいバスに乗るとは思いもしなかった。
そこで弁当を食べ終えたユージンがポロリと言う。
「『iPhoneを探す』してみようか。そうしたら音が鳴るしどこにあるかわかるはず」
その手があったか!という気持ちで場を仕切っているオーナーに提案する。
オーナーも納得の表情でみんなに説明すると、先ほどの喧騒が嘘のように急にみんなシンとし始める。そう、これで誰が持っているかわかるのだ。犯人捜しは少し心苦しいが、出てきてもその人の事は許そう。
ユージンが携帯を操作し、アラームを鳴らすボタンを表示させる。
静寂と緊張が場を覆っている。なぜだろう。やけに緊張する。
ポチっ
ボタンを押して...1秒.......2秒.......3秒.........
しかし鳴らない。あれおかしい。
「鳴らないね。電池入ってるかな?」
カイトの問いかけに、ハッとした。そもそも電池が入っているか分からない上に、SIMカードを使っていない僕のiPhoneはwifiが繋がらないとデータ受信できないのだ。この時点で乗客もオーナーも既に諦めモードが漂い始めた。
見つかるわけがないな。諦めがついた瞬間だった。
ここでオーナーに言われた一言は今でも覚えている。
「That's Life. That's travel.」
仏陀による、辛辣で優しい言葉だった。
その後、積み重なった身体的・精神的疲労で重くなった僕を乗せたバスは発車し、一睡もできないまま明け方ビエンチャンに到着した。経緯については簡単に書くが、休日明けの月曜日、警察署に盗難届を出し、書類をもらいにいった。そこで警察から言われた一言も、仏陀に次いで覚えている。
「あそこの峠は山賊が出るんだよ。夜発は特に危ない。iPhoneで済んでよかったよ。」
心中お察しください。そんなとんだ道中だったけれど、ラオスは自然豊かで静観な国。人も優しいのでお勧めです。
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ライター:はなおか
個人note: https://note.com/hackmyself
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