見出し画像

鈴鹿青少年の森における「鈴鹿ポイントゲッターズ」のサッカースタジアム建設について:3章.県・市・企業の利益と失われつつある鈴鹿の自然 Part2

 今回は、連載記事「鈴鹿青少年の森におけるサッカースタジアム建設について」の第4回です。第1-3回を読んでいない方は、お手数おかけしますが、必ず第1回から読んでいただきますようお願いします。

第1回 :本文の前に&1章 浮かび上がる2つの疑問
https://note.com/tabibitowakky/n/n875c32952f5c

第2回:2章. 「県営 鈴鹿青少年の森」の自然と、その価値。
https://note.com/tabibitowakky/n/n9fdef664bd80

第3回:3章.県・市・企業の利益と失われつつある鈴鹿の自然 Part1
https://note.com/tabibitowakky/n/nf55fc261d0f0

 それでは、以下から本文です。

3章.県・市・企業の利益と失われつつある鈴鹿の自然 Part2


3-4.騒動の外側で失われゆく鈴鹿市の里山的な自然
 このような話題が持ち上がると、「どうせたくさんある森林の一部だろう」「ほんのすこしぐらいなくなっても変わらない」という考えをもつ方もいると思います。たしかに今回の新スタジアム建設だけを見れば、伐採される森林は約5ヘクタールとされており(※14)、そんなに大きな規模ではないのかもしれません。しかし、こういった森林伐採など環境問題に関わるような事例はもっと広い視野で考える必要があります。
最初に、以下の図をご覧ください。

画像1

*「要求水準書 資料1 本事業のエリア図」三重県 より引用

 これは、鈴鹿青少年の森の公園の敷地をA~Dの各エリアに分けたマップです。今回の一連の問題においては新スタジアム建設と森林伐採ばかりが注目されていますが、この3章のはじめに示した通り、鈴鹿青少年の森ではそれに加えてPark-PFIの事業も行われます。そしてその事業では、上記のマップにおけるCエリアが開発されることが決まっています(※15)。
 この事業に関して調べた限りではあまり具体的な内容がわからなかったのですが、Cエリアは鈴鹿サーキットの向かいにあるロードサイドエリアであることから、開発による収益を得られる潜在的価値があると判断され、少なくとも駐車場の拡張と民間収益施設の建設が行われるようです。そのため、当然のことながらこのCエリアにおいても森林伐採が行われる可能性があります。
 少し話は変わりますが、たしかにこの事業に関しては、鈴鹿サーキットの遊園地やレース観戦に来た人々が立ち寄ることが見込めます。特にレース観戦はチケットがあれば会場への入退場が自由なので、ちょっとした休憩スペースにもなるかもしれません。そのため完全に森林を伐採するのではなく、豊かな森のなかにカフェや販売店があるというかたちにすれば、森林伐採を抑えられるとともに、ちょっとしたストーリーやコンセプトを持った空間がつくれるのではないかと思います。

画像2

*Cエリア外観1。画面右手の生垣の向こうがCエリア。筆者撮影(2022.02.14)

画像3

*Cエリア外観2。筆者撮影(2022.02.14)


 話はそれましたが、続いて以下の図をご覧ください。

消える森林 (2)

*Google Earth Proより画像を引用し、筆者作成。

これはGoogle Earth Proを用いて筆者が作成した、2015年10月25日時点の鈴鹿青少年の森周辺地域の画像です。右上にある道伯池と、そこから左下に広がる部分が鈴鹿青少年の森です。次に以下の画像をご覧ください。

消える森林 (3)

*Google Earth Proより画像を引用し、筆者作成。

こちらは2021年03月17日時点での同じ地域の画像です。赤い丸で囲っている部分が、今回のスタジアム建設とPark-PFI事業で開発されるエリアです。そして他の色の丸で囲われているのが、2015年10月25日から2021年03月17日のあいだに森林や農地が開発されたエリアです。
 まずは水色の丸で囲った部分ですが、ここには新しい水道設備である「住吉配水池」が建設されました。3-2でも少し述べましたが、現在の日本では高度経済成長期に建設された生活インフラが老朽化しており、その更新が必要になってきています。最近では、和歌山県で水道橋が崩落するという事故も起きました(※16)。
 こういったことは、鈴鹿市における市民の生活や人間の生命維持に関する部分に直結するため、この配水池の建設は致し方ない部分があります。ただ、こういうところでもたしかに森林は失われています。


 次に、オレンジ色の丸で囲った部分は森林が、緑色の丸で囲った部分はもともと田んぼや畑だった場所が太陽光発電所の建設によって失われたエリアです。このような太陽光発電所建設による里山的な自然環境の喪失は、近年の農家数の減少による耕作放棄地と管理者不在の里山の増加、そして2012年から始まった固定価格買取制度(※17)によって、主に地方で急速に拡大しました。
 さらに、こちらも3-2で触れましたが、近年、地方にある多くの自治体は財政難に陥っています。そのことから、太陽光発電所があることによって得られる税収を求めて、その建設を後押ししたことも要因の一つとなっています。その一方で、土砂崩れ、水の濁り、景観や生態系の喪失、反射熱による近隣地域の気温上昇と茶葉の黒ずみなど農業への影響といった、森林伐採を原因とする被害が起きている地域もあります。
 これは太陽光発電所を運営する企業の利益や県・市の税収増加などの個人的な利益追求によって、地域の里山的な自然環境が排除された大きな事例と言えます。これは鈴鹿市でも例外ではなく、鈴鹿青少年の森付近(住吉町)に加え、国分町・中富田町・稲生町・高岡町・汲川原町・河田町・国府町・長法寺町・若松北など、市内各所で見られます。


 このように鈴鹿青少年の森の周辺地域も含めて見ると、特にここ数年間、主に太陽光発電所の建設によって、鈴鹿市の自然環境がどんどん失われていることがわかります。たしかに最近では、こういった太陽光発電所の建設に対するガイドラインを制定する自治体が増え、三重県でも2017年に制定されました(※18)。しかし、それ以前から建設されているものも多いことに加え、その数は現在も増え続けており、どこまで効力を持っているかは不明瞭です。こういった状況は、それこそ「どうせたくさんある森林の一部だろう」「ほんのすこしぐらいなくなっても変わらない」という考えから広がっていくのだろうと推測します。

 さらに、森林と農地を合わせた里山的な自然環境の減少は陸だけでなく、河川や海にも大きな影響を及ぼします。近年では、都市化・宅地化が進んで農地などが減少したことによって、河川や海に流れていくリンや窒素といった栄養分が不足する貧栄養化が生じています。
 河川や海の栄養分が不足すると水がきれいになるため、環境にとってよさそうに思うかもしれませんが、不足しすぎると植物プランクトンが育たず、結果として水生生物の種類や量が減ってしまいます。これは、海の環境や漁業にも深刻な打撃を与えます。
 そして、特に木曽三川や、鈴鹿市内を流れる鈴鹿川をはじめとした多数の川が流れ込む伊勢湾はその影響が大きく出ます。例えばこの冬には鳥羽市の答志島において、海の貧栄養化と海水温の上昇が黒海苔の成長遅れや色落ちに影響し、養殖業者に大打撃を与えました(※19)。また、個人的な話にはなりますが、地元の漁師さんや魚屋さんからは「10年前はもっと魚が獲れた」という話をよく聞きます。

3-5.再度問われる正当性
 このように、近年、鈴鹿市の里山的な自然環境は、企業や県・市の利己的な利益追求を優先した結果として、市内各所で急速に減少しています。それに加えて、他の要因も複合的に合わさった結果ではありますが、鈴鹿市、そして三重県全体における里山的な自然環境の危機は、三重県の海や河川の危機にもつながっています。
 そして、このような状況だからこそ、鈴鹿市においてこうした里山的な自然環境の保全や、それを知り、学ぶことのできる場所の重要性は非常に高まっています。そして先述のとおり、鈴鹿青少年の森は、現在においてもその里山的な自然環境が維持されるとともに、そこに気軽に触れられる場所として大きな役割を持っています。また、3年にわたる自然環境調査においても、その重要性は明らかにされています。
 こういったことから、鈴鹿青少年の森における、森林部分を伐採する形での新スタジアム建設は行われるべきではないと考えます。そして、そういった社会的価値を持つ場所の保全が、1つの企業や県・市の利己的な利益追求に優先されることに対しては、非常に正当性が低いものであると感じています。

 ここ最近は、特に若い世代を中心に、市民レベルでも自然環境や持続可能性といった部分に大きな関心が集まっています。また、そういった部分に対する前向きな姿勢が、国や地方自治体だけではなく、企業にも求められる時代になってきました。
 今回の事業は、青少年の森がもつ社会的価値や鈴鹿市の自然環境の現状だけでなく、こういった部分にも反するものだと言えます。株式会社アンリミテッドと、行政主体としての三重県・鈴鹿市には、この連載記事で提示した論点について改めて考えていただき、鈴鹿青少年の森を保全するかたちで、それぞれの目的が達成できる道を検討してほしいと思います。


※14「県営鈴鹿青少年の森公園内にてスタジアム着工のお知らせ 」 、鈴鹿ポイントゲッターズ 、suzuka-un.co.jp(2022年2月15日最終確認)。
※15前掲注5、6,30-32頁。
 ※16「和歌山で水管橋崩落、6万戸断水続く 水道管老朽、全国でピンチ」、中日新聞 Web版、2021年10月07日、https://www.chunichi.co.jp/article/343158
 ※17再生可能エネルギーでつくられた電気を、電力会社が一定期間、一定価格で買い取ることを、国が約束する制度。
    「なっとく!再生可能エネルギー 固定価格買取制度とは」、経済産業省 資源エネルギー庁、https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/surcharge.html
 ※18「三重県太陽光発電施設の適正導入に係るガイドライン」、三重県、2017年06月30日、https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000989524.pdf
 ※19「「先行き真っ暗」養殖クロノリ、トリプルパンチで大ピンチ 三重」、中日新聞Web版、2022年01月15日、 https://mainichi.jp/articles/20220115/k00/00m/020/082000c


参考

〇スタジアム建設
「新スタジアム構想「すずか三重丸パーク」について 」、鈴鹿ポイントゲッターズ、 suzuka-un.co.jp(2022年2月19日最終確認)。
「県営鈴鹿青少年の森公園内にてスタジアム着工のお知らせ 」 、鈴鹿ポイントゲッターズ 、suzuka-un.co.jp(2022年2月19日最終確認)。
「JFL鈴鹿ポイントゲッターズ 新スタジアム着工」、NHK NEWS WEB、https://www3.nhk.or.jp/lnews/tsu/20220209/3070007360.html((2022年2月19日最終確認)。
「鈴鹿青少年センターと鈴鹿青少年の森の 整備運営事業 要求水準書(案)」、三重県、2020年06月24日、https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000962976.pdf(2022年2月19日最終確認)。
「要求水準書 資料1 本事業のエリア図」、三重県、https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000962990.pdf(2022年2月19日最終確認)。
「REAY FOR 鈴鹿ポイントゲッターズ|共に行こう!Jの舞台へ。」、REAY FOR、https://readyfor.jp/projects/suzukaPG2021(2022年2月19日最終確認)。
「10/17 スタジアム建設説明会における質疑応答について」、鈴鹿ポイントゲッターズ、https://suzuka-un.co.jp/wp/wp-content/uploads/2021/11/10%E6%9C%8817%E6%97%A5%E8%B3%AA%E7%96%91%E5%BF%9C%E7%AD%94.pdf(2022年2月19日最終確認)。
「10/19 スタジアム建設説明会における質疑応答について」、鈴鹿ポイントゲッターズ、https://suzuka-un.co.jp/wp/wp-content/uploads/2021/11/10%E6%9C%8819%E6%97%A5%E8%B3%AA%E7%96%91%E5%BF%9C%E7%AD%94.pdf(2022年2月19日最終確認)。
「Jリーグクラブライセンス交付規則」、公益社団法人 日本プロサッカーリーグ、2021年01月01日、https://aboutj.jleague.jp/corporate/regulation/licence/(2022年2月19日最終確認)。

〇反対運動・反対意見
「鈴鹿青少年の森を愛する会 ホームページ」、鈴鹿青少年の森を愛する会、https://suzu-mori-ai.jimdofree.com/(2022年2月19日最終確認)。
「私も一言」、鈴鹿青少年の森を愛する会、https://suzu-mori-ai.jimdofree.com/%E7%A7%81%E3%82%82%E4%B8%80%E8%A8%80/(2022年2月19日最終確認)。
「カズ加入の鈴鹿ホームスタジアム建設地「無償貸与」は違法と市民団体が三重県知事と前知事を提訴」、日刊スポーツ、2022年02月14日、https://www.nikkansports.com/general/news/202202140000993.html?utm_source=line&utm_medium=social&utm_campaign=nikkansports_ogp(2022年2月19日最終確認)。

〇里山の定義と重要性
「里地里山とは」、環境省、https://www.env.go.jp/nature/satoyama/top.html
「コトバンク 里山とは」、朝日新聞社、https://kotobank.jp/word/%E9%87%8C%E5%B1%B1-511449(2022年2月19日最終確認)。
「間伐とは?」、林野庁、https://www.rinya.maff.go.jp/j/kanbatu/suisin/kanbatu.html
「Wood+ 間伐材をつかうとどうして森が守られるの?」、FRONTIER JAPAN株式会社、https://eco-pro.ne.jp/columns/thinned-woods/(2022年2月19日最終確認)。

〇Park-PFI
「都市公園の質の向上に向けた Park-PFI活用ガイドライン」、2017年08月10日発表 2018年08月10日改正、国土交通省、https://www.mlit.go.jp/common/001197545.pdf(2022年2月19日最終確認)。
「公募設置管理制度(Park-PFI) について」、2020年02月12日、https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanminrenkei/content/001329492.pdf(2022年2月19日最終確認)。
「Park-PFI」、大和リース株式会社、https://www.daiwalease.co.jp/service/ppp/parkpfi.html(2022年2月19日最終確認)。

〇県営 鈴鹿青少年の森
「鈴鹿青少年の森 ホームページ」、三重県森林組合連合会、https://suzuka-seisyounennomori.com/(2022年2月19日最終確認)。
鈴鹿市、『鈴鹿市の自然-鈴鹿市自然環境調査報告書-』、2008年。
「都市政策 鈴鹿青少年の森」、三重県、https://www.pref.mie.lg.jp/TOSHIKI/HP/17369018211.htm(2022年2月19日最終確認)。
「鈴鹿青少年センター及び鈴鹿青少年の森における 社会実験第 1 弾 実施報告書」、株式会社長大三重営業所、https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000949104.pdf(2022年2月19日最終確認)。
「鈴鹿青少年センターと鈴鹿青少年の森の複合運営等 民間活力導入可能性調査業務 業務報告書(概要版)」、三重県・三重県教育委員会、2020年03月、https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000896266.pdf(2022年2月19日最終確認)。


〇鈴鹿ポイントゲッターズ
「鈴鹿ポイントゲッターズ ホームページ」、鈴鹿ポイントゲッターズ、https://suzuka-un.co.jp/(2022年2月19日最終確認)。
「鈴鹿ポイントゲッターズ 公式Twitter」、鈴鹿ポイントゲッターズ、https://twitter.com/SuzukaPG/media(2022年2月19日最終確認)。
「サッカー選手が学童施設に除菌水1千リットル寄付」、産経新聞 WEB版、2020年03月16日、https://www.sankei.com/article/20200316-LCWSNOMK7VN6XHPK4YINLYDKRQ/(2022年2月19日最終確認)。
「【イベントレポート】4/25泥んこサッカー&田植え体験」、鈴鹿ポイントゲッターズ、
2021年6月2日、https://suzuka-un.co.jp/news/39923/(2022年2月19日最終確認)。

〇その他
「鈴鹿市議会定例会・9月定例議会会議録(第4日)」、鈴鹿市、http://www.kensakusystem.jp/suzuka/cgi-bin3/ResultFrame.exe?Code=u66a29303ve3vvxqtv&fileName=R030901A&startPos=0(2022年2月19日最終確認)。
「第23回 日本フットボールリーグ(2021)順位表・戦績表」、日本フットボールリーグ、http://www.jfl.or.jp/jfl-pc/view/s.php?a=1696
「和歌山で水管橋崩落、6万戸断水続く 水道管老朽、全国でピンチ」、中日新聞 Web版、2021年10月07日、https://www.chunichi.co.jp/article/343158(2022年2月19日最終確認)。
「なっとく!再生可能エネルギー 固定価格買取制度とは」、経済産業省 資源エネルギー庁、https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/surcharge.html
「三重県太陽光発電施設の適正導入に係るガイドライン」、三重県、2017年06月30日、https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000989524.pdf(2022年2月19日最終確認)。
「「先行き真っ暗」養殖クロノリ、トリプルパンチで大ピンチ 三重」、中日新聞Web版、2022年01月15日、 https://mainichi.jp/articles/20220115/k00/00m/020/082000c(2022年2月19日最終確認)。


画像は鈴鹿青少年の森にて、筆者撮影(2022.02.14)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?