焼き芋の科学
こんにちは、芋の人です🍠今回は焼き芋に関するさまざまな情報を科学を交えながら見ていきたいと思います!
この記事の結論
□ 貯蔵によりサツマイモは甘くなるがそのメカニズムはまだよくわかっていない。
□ 焼き芋は内部が65度から75度に留まる時間が長いほど甘くなり、そのためには石焼きなどの遠赤外線が有効。
□電子レンジでの加熱は急激に内部温度が上がるのでオススメしないが、クイックスイートなど一部の品種はそれでも十分甘くなる。
□ 12度から15度程度が貯蔵には適しているとされるが、10度程度の低温で貯蔵するとより甘くなる。ただし冷蔵庫は温度が低過ぎて長く保存すると芋が腐ってしまうのでオススメしない。
詳しく知りたい方は以下をお読みください↓
◎貯蔵により甘くなる?
サツマイモは収穫直後は貯蔵したものに比べて甘さが少ないことが多いといいます。これはなぜでしょうか?
実は詳しいメカニズムはよくわかっていないのですが調べてみるとサツマイモに含まれるデンプン(甘くない)が時間と共にスクロース(甘い)に分解されるということが甘くなることに寄与しているようです。
とはいえ、なんで貯蔵するとサツマイモの糖化が進むのかはよくわかっていない…
◎焼くと甘くなる?
サツマイモにはβアミラーゼという酵素が豊富に含まれており、65度から75度の間で活発に働きます。この酵素の働きによってデンプンがマルトース(甘い)に分解されることで甘さがまします。また、単純に加熱により水分が飛ぶことで甘さが凝縮されます。
◎電子レンジはNG?
よく電子レンジで加熱した焼き芋は甘くないといいます。これはβアミラーゼが働く65度〜75度に留まる時間、βアミラーゼが分解できる形にデンプンが変化する糊化が起きる時間が電子レンジで急速に加熱すると短くなることが原因だと言われています。この糊化は一般的な品種では65度から75度で起こると言われていますが、クイックスイートという品種はデンプンを構成するアミロペクチンの構成が他の品種と大きく異なり、糊化の温度が15度から20度低いことで、加熱の際に低い温度からデンプンがβアミラーゼによりマルトースに変化するため、電子レンジの加熱でも甘くなりやすいといわれています。電子レンジの加熱の仕組みは遠赤外線よりもさらに波長の長いマイクロ波が水に吸収され振動することによって熱を生み出すというものです。マイクロ波は遠赤外線と異なり、芋の外側のデンプンなどには吸収されず、芋全体の水に吸収され加熱するため、内部が急激に温まりやすいのです。その結果、内部がβアミラーゼの働く65度から75度付近に留まる時間が短く甘くなりにくいという原理です。
◎冷蔵貯蔵はNG?
サツマイモの保存は常温で!とどこかで聞いたことがあると思いますが、保存の適温は12度〜15度と言われています。これが9度以下になると品質が低下し、最終的に腐敗してしまいます。しかし、短期間の低温での貯蔵はサツマイモの甘さを増すという報告があります。(メカニズムは不明)一般的な家庭での貯蔵方法としては新聞紙に包んで常温で暗所で保存するなどが取られることが多いです。研究によるとスクロースの含量は10度以下の貯蔵で大きく増加することが報告されているため、通常の貯蔵温度より低い10度程度で貯蔵を行うと腐敗を避けつつ糖化を促進できることが示唆されています。
冷蔵庫の温度は2度から6度とさらに低温なので、サツマイモが腐りやすくオススメしません!
◎低温で焼くといいって本当?
電子レンジで急に加熱すると甘くなりにくいという話をしましたが、では低温で長時間加熱すればいいじゃないかと思います。βアミラーゼがデンプンを分解するのに最適なのが70度前後なので、この温度でずっと焼いたら美味しい焼き芋ができるのかというとそう簡単にはいきません。いずれにしても最終的には160度近い高温で焼かなければ、デンプンのヒドロキシ結合を切って柔らかくすることができないため硬い焼き芋になってしまいますし、長時間焼き続けると水分が飛んで硬くなってしまいます。理論的には65度から75度で長時間加熱してその後高温で焼き上げるとより糖度が上がるのは確かです。ただし、糖度=甘さではないのでどこまでも甘くなるわけではなく甘味の上昇は糖度の増加につれて緩やかになっていくと考えられます。
低温で長時間加熱するのが望ましいが、甘さには限界がある。
◎石焼き芋が甘いのはなんで?
加熱された小石が放射する遠赤外線によってイモの外側は素早く均一に加熱され、250度まで上昇し、外側部分のデンプン分子が振動して、熱を発することで徐々に内部に熱が伝わり、内部の温度が65度から75度というβアミラーゼが働く温度に長く留まるため甘くなりやすいのです。
◎焼き芋が甘くなるメカニズムまとめ
貯蔵よりデンプンの一部がスクロースに分解される→加熱により65度付近からデンプンが糊化してβアミラーゼが分解できるようになる→糊化したデンプンをβアミラーゼが分解してマルトースを生成する→水分が飛んで糖分が凝縮される
(出典:「焼き芋の甘さの秘密」-片山健二)
◎焼き芋が柔らかくなるメカニズムまとめ
貯蔵によりαアミラーゼが収穫直後の20倍近くまで増加し、デンプンをデキストリンやグルコース、マルトースに分解し、加熱した際に柔らかくなりやすくする→加熱によりデンプンが糊化する→βアミラーゼの働きにより、デンプンの一部が分解され物性が柔らかくなる→高温によりデンプンのヒドロキシ結合が切れ、物性が柔らかくなる
つまり、貯蔵+低温長時間の加熱(65度から75度)+高温(160度以上)が必要!!
◎糊化ってなんや?
α化と同義ですが、デンプンと水を加熱することで、デンプンの分子間結合が切れて規則性を失い、体積・粘性・保水性・被消化性など増す化学変化のことをいいます。
◎小さい芋の方が甘いって本当?
小さい芋が糖含量が高いというのは正しくありませんが、小さい芋の方が糊化温度が低く、従ってβアミラーゼが働きやすく加熱調理によって甘くなりやすいことが研究によって示唆されています。これはデンプン粒の大きさが関係しているかもしれません。
【参考文献】
・「サツマイモ辞典」財団法人いも類振興会
・「焼きいもが好き!」日本いも類研究会
・「塊根サイズがサツマイモの糖度関連因子に及ぼす影響」足立文彦、峰孝介、本田裕基、氏家和広、小林和広https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcsproc/250/0/250_41/_article/-char/ja/
・「「焼き芋」の甘さの秘密」片山健二https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/67/7/67_318/_pdf/-char/ja
・「収穫後のサツマイモへの低温処理が糖含量ならびに貯蔵性に及ぼす影響」増田大祐、福岡信之、後藤秀幸、加納恭卓https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/67/7/67_318/_pdf/-char/ja