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【農家の3Kイメージを覆す生産者たち】「コンビニから直売所の時代へ」浅間山麓のビジョナリーな直売所が、地産地消にうねりを起こす

農家の3Kイメージ「きつい・汚い・給料低い」を覆す生産者たちを大特集!農業をビジネスとして成立させるための「クリエイティブな」視点に迫りました。彼らのマインドは、一次産業界だけでなく、幅広いビジネスシーンで通じるはずです。


雄大な浅間山のふもと長野県小諸市に、ぐんぐんと支持層を広げる農産物直売所「浅間のかおり」はある。スーパーのように、決まった品ぞろえはない。ネット通販のように、ボタンひとつで買える利便性もない。だが、あるお客さんはこう評した。“見据えるところがビジョナリーな直売所だ”と。

ホンモノの味をお届けできない流通業


わあ、おいしそう!ほぼぜんぶの果物に、試食があるのですね!

(代表中村さん)お客さんに、納得していただける味を選んでいただきたいですからね。農家にとっては厳しい競争の場ですよ。

かなりお手頃な野菜もあります!

値段は、農家さんの自由です。もちろん迷った人にはアドバイスします。たとえばキャベツだったら、「市場価格でひと玉40~150円くらい。これに手数料が2割のって、スーパーでは50~250円くらいで売っていると思うよ」と。その上で、いくらで売りたいのか話します。

中村さんは、流通に詳しいのですね?

大卒後、地元の食品スーパーに就職したんです。22年間働きました。魅力的な職場だったのですが、昇進していくうちに、お客さんの喜びよりも会社の理屈が優先される場面に出くわすことがありました。一般の流通業には、お客さんのほうを見ていない部分がいっぱいあるんです。

ほら、ここにきゅうりがあるでしょう。コリコリとした食感で、浅漬けにしたらすごくおいしい。“四葉(すうよう)きゅうり”と呼ばれます。ところがこのきゅうり、曲がりが強くとげが多いのが特徴で、箱詰めがしづらいんです。また、箱の中でも、とげで傷つけあって傷みやすい。そういう理由から、流通では扱ってもらえない品種です。

子どものころ、野山を駆け回って遊ぶ中、近くの畑で失敬して食べたトマトや果物の味を覚えていませんか。ベストな色合いを摘み取って食べる。そういう味が、完熟したホンモノの味なわけです。

農家さんも、同じことを考えます。収穫のタイミング、わずか2~3日が味を決めるんですね。収穫時を見極めて、これはいいなというものを拾いどりする。しかし流通業では、畑いっぺんに収穫してしまう。そして等級をつけて流してしまいます。効率重視で、味は二の次なんですよ。おいしそうな緑色の濃い品種、日持ちする品種がもてはやされる。私は、そういう消費者のことを考えない流通ってやだなと思ったんです。お客さんが食べて、本当においしいものを届けたい。単純なようですけど、スーパーでは実現できませんでした。

▲「おお、これは!!」 想像以上の味に驚き、買い物かごに入れたお客さんも

ネット通販にはできない “ご馳走さまの代行業”

49歳でスーパーをやめました。そのあと10年間かけて、何ができるか模索するうちに、あるお店に出会いました。長野県伊那市のグリーンファーム、年商10億の直売所です。ここで気になっていたことをすべて教えていただき、自分なりの設計図が出来ました。小諸をはじめ東信州は、浅間山麓の恵みを受けた、味のいい産物が取れる地域です。発起人として、すぐに直売所の立ち上げメンバーを募ります。こうして、2014年8月にオープンさせました。

素朴な疑問なのですが、IT全盛時代に、なぜ直売所で勝負しようと?

ネット通販と、直売所はもっとも遠い業態だと考えています。農家さんの人となり、想いで作ったこの野菜、というのがブランドになるのが直売所です。つまり、Face to faceの場であると。これはネットにはない。

▲「時間がたっても変色しない桃が欲しい」 お客さんの要望に対応する中村さん。124名の出荷農家をもれなく理解し、見事な“橋渡し役”となっている

ネットにも多い、野菜の宅配サービスはやっています。ただし、軽井沢に滞在された方、都会に暮らすご家族向けなど、当店にご来店経験のあるお客様へのサービスです。

来店というワンクッションは、かならず踏むのですね。

洋食党なのか、和食党なのか。目新しい食材を使いたいお料理好きの方なのか、昔ながらの簡素な料理を作りたいご高齢の方なのか。お客さんのことを知らないと、満足していただけるものは送れないわけです。いきおい、そこにはFace to faceのコミュニケーションがあります。

なるほど、常連さん向けのサービスなんですね。

このお店自体がそうなんです。少なくとも8割は顔見知りのお客さんです。口コミの方が2割ほど。前年対比客数は160%で推移していますから、求めていただいていると思います。

中村さんがFace to faceにこだわるのは、理由があるのですか?

ねえ、食べものって、なんでおいしくなくちゃいけないと思います?

ええ?

ヒントを出しましょう。ここに来るお客さんは、お料理の作り手なんです。なぜ、その人たちは料理するのか。もっと近いところでいえば、君のお母さんは、なぜ飽きもせずにごはんを作ってくれたのでしょう?

ただひとこと、「おいしかった、ご馳走さま」といってもらいたいんですよ。それが、作り手の一番のモチベーションなんです。

すごく、わかります。

「ご馳走」の語源って知っていますか。四方八方、おいしいものを駆け回って買い集めて、とっておきのものを作る。僕らはできる限りのお手伝いをします。それが、食品を扱う小売店の存在価値です。小売業の本質って、ご馳走さまの代行業なんですよ。

スーパー時代に、仲間たちに話しました。
「家族にご馳走さまって言ってもらった!季節豊かな食卓を食べてもらった!お客さんにそう喜んでもらえて初めて、俺らは給料をもらえるんだよ」と。

とにかく、店員は高いモラルを維持し続けなければいけません。ここまで来るとね、Face to faceがないネット通販には、到底敵いっこない世界です。

コンビニから、直売所の時代へ

中村さんが考える小売業の真の姿は、スーパーでも、ネット通販でも実現できないわけですね。結果、辿り着いた直売所はどのようなものですか?

行政主導でも、個人経営でもない、助け合いの直売所です。

いまの直売所って、ほとんど市町村単位なんです。道の駅の直売所、よく見るでしょう。あれは売ったのことない農家さんに、行政が売り場を丸投げしてるというのが内実です。私がスーパーで叩き込まれたように、本来はお客さんへのサービスレベルだとか、売り場のつくり方だとか、そこから生まれた数値を使った改善プランがあります。だけど、それを農家さんに要求するのは無茶です。

個人経営にすると「中村がやっている直売所だな」と言われます。農家さんともあくまで契約の関係。協力姿勢も極めて乏しくなります。これでは、一般の流通型と同じになってしまいます。

それでは、中村さんのいう “助け合いの直売所” とはどんなものですか?

この直売所は、私だけのものではありません。農家、旅館の社長、陶芸家…いろいろな方の出資があります。集まったメンバーの多彩さが、この直売所の底力であり、何か困った時には声かけあって助け合える安心感があります。

たとえば、販売スペースが手狭になってきた頃合いには、仲間と知恵出し合って1から10まで自分たちで増築しました(写真手前)。この事例は、田舎の縮図だと考えています。地域の住民が、地域の課題を自分たちで解決する。昔は、一軒の家を改修するにも村総出でしたから。

お金ではなく、濃い人付き合いが「資源」であると。

それが田舎の力です。一方で、この資源は裏返せば、「煩わしさ付きの資源」ともいえる。都会から移住した人が、田舎に失望する一番の原因です。でも、個人的には煩わしいの、好きなんですよ。

大学時代、パチンコに明け暮れた時期がありましてね。一緒にやってた奴らが来なくなったら、ぱたりとパチンコやめちゃいました。きっとね、本来、人は人の中で暮らすものです。煩わしさを当たり前にすること、それが人間の喜びなんじゃないですか。だからね、うんと人間関係の濃い直売所にしたい

もうひとつお伝えしたい話があります。

コンビニと直売所の決定的な違いってなんだと思いますか。すべてのお金が地域で回せるモデルかどうか、です。一生懸命売っても、東京本社に吸い上げられることはありません。製造から販売まで、100%地域の通貨です。コンビニとは、お金の意味合いが違います。

最終的に目指すのは、IY(イトーヨーカドー)の鈴木会長がいう“オムニチャンネル”です。地元の物が欲しいというお客様向けに、あらゆるチャンネルを駆使してあらゆるものをお届けしたい。それが十分採算に合い、仕事になるのではないか、と思っています。

そのうち地産地消で、大きなうねりを起こしますよ。こういう形の直売所は、コンビニ並みに増えてもいいと思います。小諸に3つ4つあってもいい。ひとつの直売所で3000~4000万円売り上げれば、利益は600万円。やっと二人で運営できる規模ですが、これが数軒あれば、地域で数億円がまわる。かなり魅力的です。うちはすべての情報を公開しています。求められればノウハウも全部伝えます。それは、地域でオムニチャンネルを完成させたいからです。

ときどき、頭をよぎる記憶があるんです。姉のおさがりで、両膝にひざ当てが当たったよれよれの赤いズボンをはいて遊んでいた子供の頃の自分を。凄まじい時代の変化の先に、現在の大量流通システムがあります。もしもいま、それが限界だとしたら、次に何を描けるか。私は、昔ながらの助け合いがありつつも、最新の方法を駆使してモノ・お金・情報を循環させる、「懐かしい未来」を描きたい。そのために、残りの人生を捧げる覚悟でいます。

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懐かしい昭和の香りも、新しい平成の香りも漂う直売所。浅間のかおりを「ビジョナリー」と称した冒頭のお客さんは、この懐かしくも新しい香りを敏感にかぎとっていたに違いない。

文責:森山健太


農家の3Kイメージを覆す生産者たちシリーズ



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