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詩集:どこにもいけない

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行き場もなく日々わだかまる言葉達は、詩の中以外はどこにも行けない
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#自由詩

詩:ひみつ

詩:ひみつ

「月齢14の夜」

「金の光が手ですくえるくらい」

「冬の繊維がふくらんでにじむころ」

「銀に光るハシゴをのぼろうよ」

「夜空の隙間から」

「まるで雲母を割ったような」

「優しい夢の構造が見えますが」

「それはぼんやりとつかみどころがありません」

(でも、あなたの瞳の奥にも存在します)

「神様の骨盤のなか」

「孵化したばかりの天使たちは」

「泡のような声でふつふつ笑っているよ」

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短詩:日曜日の幽霊

月曜日の朝
路上に散らばる
日曜日の残骸が
かすかに光を宿したまま
まだきらめいている

みちゆく人は
気づきもしない

昨日という日が
幽霊になって
いたるところで
息をひそめているなんて

詩:ふゆのひかり

詩:ふゆのひかり

沈黙。

ためいき。

寝息。

夜。

空白。

瞬き。

地上。

くるしみ。

涙。

それから。

暗闇と

暗闇のあいだ

てのひらの中で

ふるえ朽ちかける

リュウゼツラン

塩の結晶のようだった

幾千もの星たち

そこまでには

たくさんの距離があって 

届くまでに

全てが消えてしまって

望むものは結局

手に入らない

それでもあなたは 

無垢なる光であり

柔らかな毛

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詩:ついによこたわる木

詩:ついによこたわる木

ついに横たわる老木

虚ろな目を開いて

何を見るともなく見る

無気力は墨を染み込ませたように広がって

今に始まったことではないと呟く

冷たい地面に耳をつけていると

なつかしいほど遠くから

あたたかい足音が響いてくる

眠れぬ夜は幾日と続いて

白い花びらがちらちらと

なぐさめのように降りそそいだ

ついに横たわる老木

小鳥はさえずり

太陽がのぼり

雲がながれて

恋人たちにも別

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詩:ふたり

詩:ふたり

からっぽの部屋
ヘビのように絡み合い
体温が上がるのじっとまつ

ガスレンジ、蒼い炎
しんしんと孤独を鳴らし
つかれた目、冷えたゆび
切れたくちびるの味、せつない

かつて私たちは
暗くあたたかな場所
はなれがたく絡み合っていて
お互いをことばや名前で
切り離す必要なんてなくて

いつか灰のように透け、過去となり
風のような音も消え
この世の悲しみを鉛と共に飲み下し
魚となり、泡となりちりぬる

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詩:翡翠色の午前二時

真夜中の庭から庭へと
彼岸花を辿る旅

百歳の古井戸の底の水
揺れる植物の一つ一つ

ひかりというひかりが
夜の終わりを見つめているのでした

裸足で家を逃げた子ども
ちいさな公園でひとり

銀色の箱舟が
空に溶けていくのを見るのでした

人のいない街は時間がうつろっても
灰色のままで

道の先で信号が
きいろ、きいろ、きいろ、
と点滅するのでした

詩:だいだらぼっち。ひとりぼっち。

詩:だいだらぼっち。ひとりぼっち。

まちのひかりはおもちゃみたい

あおくわいた雲のかたち

ぎんいろのスプーン。ながれぼし

ひつじの群れはヨーグルト

ステンドグラスのキリン、ライオン

すこしふれただけでぜんぶこわれた

ここにいてもいいよ。を

じっとまっていた

かなしければとうめいになって

プランクトンだけをたべていたかった

それでもつくりたてのアスファルトの上を夢みて

小鳥のしんぞうが止まる日のことを

思い浮か

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詩:ちいさなまひる

詩:ちいさなまひる

つつしみぶかい
たましいのなみだ
かなしくすさむ
らじうむのひかり

なつのくも
うみのにおいつれて
かぜもなくまっていれば
なみまにゆれる
しろいうみうしのゆめをみる

てりさかる
あおいらむねのような
とうめいなたましいは
きぎをゆらし
そらのそこでとどろく

にじりよる
やわらかなけものたちは
あふれんばかり
つめくさをふみくだき

こはくいろ
おだやかなまひるのうつろは
かぜにながれる

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詩:沈黙する草原

詩:沈黙する草原

草は呼吸するとき

音も吸い込む

だからそれらがこすりあうさざめきの中に

宇宙の真実を思わせる無音の瞬間が訪れる

それをいつまでも聴いていると

次第に耳の中で何かが生まれて

やがては頭の中を貪りつくしてしまう

だからまぶたをとじてみる

すると不確かな記憶のそこで

何かが揺れていた

幻のような光が

瞳孔

水晶体を通って

分光して

角膜に到達して

いま

像が結ばれる

詩:炊飯母系宇宙

ふゆのだいどころ
炊かれていくお米

一合

今は凍るような水の中で
ふつふつと夢を見ている

一同

かつて世界は
巨大なホヤホヤの実におさまり
人はその殻の
内側に住んでいて
地表はそのふるいふるい殻が
崩れて盛り上がった場所で
空は今よりも堅く厚く
その先を見通すなど誰にもできず

真理を告げる樹からは
ホヤホヤの実がパラパラと
生まれ出でては落ち続ける

冷たい水がつぶやくように
熱湯へと

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詩:水中の葬儀

詩:水中の葬儀

鯉の群れが岸に沿う

長い行列つくってて

凍ったように動かない

長蛇の列とはこの事で

綺麗に長く列をなす

黒い魚体が並ぶ様

お葬式の参列だ

冷たそうな水の中

何かを思って身を寄せる

一体何への哀悼か

鯉達だけが知っている

百五十匹以上

泣いたかどうかは分からない

冬の旅路の橋の下

暗い沈黙厳かに

詩:ヨハン

詩:ヨハン

視線の先を埋めてヨハン
言葉だけではとても足りない
髪の中をまさぐる冷えた指に血が戻るから
そしたら霧の向こうの菩提樹に石を当てよう

あれはぬるい潮溜りさヨハン
殺された魚達が最後に泳ぎを懐かしむ場所
遠い太古にまだ透明な骨なしだった誰かを探して
仄暗い底の底へと身をくねらせる

そこはサンクチュアリさヨハン
緑色の驟雨は海を紫に染めて
数億のフラミンゴが遠い空をゆっくりと埋める
砂浜の上を幾重

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詩:その星は

光線のように降り注ぐ雨の中

内臓の溶ける音を聴けよ

埃が空気を切り裂く微かなヘルツ

反響し合う寄る辺ない夜に

見た事のない種類の鯨を見よ

深刻な場所としての木星の海では

計り知れない粘土の風がすべてを平らにしていて

大嫌いな瞬間の基軸の中で

ゼリーのような命が揺れている

全てが透明な植物性プランクトンのようになって

今、精巧なステンドグラスの怪獣が

こなごなになるようなその音

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詩:そこにしかいない君へ

その言葉はやわらかい種類の液体のように黒い海の境界をたゆたっていて 

そこで生まれ関節の数をたがえた雪は記憶となりやがてついえた

ここにいようと笑う君の皮膚の裏で崩れる骨のその音は

いつかの原始の水を温め流れだした調和の中で

忘れられない悲鳴を時間の外に閉じ込めるのだろう

「泡を吐いた夢を見るよ」

「君を見てるとなんだかすごい悲しいんだ」

「笑いながら手を振るからみていてね」

そう

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