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第8話 『イタリア語のさよなら』


① プロ迷子

今日は女神ことコズエに教わった彼女おすすめの『PAM(パム)』というスーパーマーケットまで行ってみることにしました。

ちなみにここイタリアではスーパーマーケットのことを『スペルメルカート』と発音します。とにかく英字は全てローマ字読みが基本です。分かりやすいのか分かりにくいのか分かりません

語学校の帰りに急に行ってみようと思い立ったので所在地を記してくれていた市街地図は家に置いてきたままでしたが、ある程度の場所は把握しているので、まぁ…大丈夫だろうと散歩がてら自力で探し出すことにしました。

…え? すでに嫌な予感がする!?
そんな不安は全くありません!少なくとも出発時点の僕には

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道すがら金曜と土曜だけに開催されているというオットアゴースト広場の巨大メルカートに遭遇しました。

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ウワサには聞いていましたが、広大な敷地に靴や雑貨や衣類を扱う露店が所狭しと並んでいて、お祭りの屋台を思い出すような活気ある楽しげな雰囲気です。

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軽く眺めて歩きましたが規模が大きく、人も多いので全部の店を観て歩くとかなりの時間を要しそうです。

今日の目的地はあくまでPAMなので『面白そうやけどまた今度、日を改めてゆっくり観に来ようか!』と珍しく妻と意見が一致しました。


やがて驚くほどスムーズに目当てだったスーパーマーケット『PAM(パム)』を発見。僕の頭の中にインプットされていた地図は完璧だったわけです。これぐらい余裕ですね!(← いわゆる死亡フラグ

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…あ、ちなみにこの男性は全く見知らぬ赤の他人です。

カメラを構えたままの妻がつぶやきます。

…別にお前を撮っとるわけちゃうねん!こっち見んなや。どけぃ!

見知らぬ男性より妻のほうが怖いので、ひとまず他人のフリをして店内へ。

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やっほーい!大量のフルーツが美味しそうですっ!

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じゃがいもデカっ! 日本のじゃがいもの3~4個分くらいはありそうです。

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ボローニャ内陸なので魚介は高価な割に新鮮な商品が少なく住民にも人気がないため、店にもあまり置かれていないと聞いていたのですが、ここPAMの品揃えはなかなか充実しているようです。

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パンだって大量発生! PAM(パム)だけに? いや…関係ないか。

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とにかく広い店内。

これまで訪れた他のどのスーパーや市場とも比較にならない規模です。さすがボローニャの街を知り尽くした女神コズエがおすすめするだけのことはあります。

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中でもチーズと生ハムの種類はそれだけで専門店ができそうなほど豊富で圧巻でした。貧乏生活の僕らにとっては単なる鑑賞品ですが。

ガブリエッラ邸からPAMまでは片道徒歩40分というところ。

すっかり常連と化しているディスカウントショップの『iN's(インス)』は数日前に近道を見つけたので今は徒歩30分くらいで行けます。

10分程度の時間差なら絶対こっちに来たほうが良さげです。

でも、目的がペットボトルの水だけとかなら少しでも近くて価格も安いiN'sのほうが便利な場合もあるかもですね。今後は目的に応じて店舗を使い分けていくことになりそうです。

数日分の食料を買いだめしてPAMを出ましたが思っていたよりもまだ早い時間帯だったので調子に乗って、さらに周辺を散策してみることにしました。

少し歩いたところでマクドナルドを発見!

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わー、マクドあるやんっ!』(※大阪ではマクドナルドを『マクド』と呼びます)

日本にいるときは見つけても何とも感じないマクドナルドですが異国の地で発見すると嬉しくなるのはなぜでしょうか。

看板のロゴマークカラーが定番の黄色でないのはボローニャのクラシックな街の景観を損なわないよう条例法律みたいなものでルール化されているからだと思われます。確か京都の一部のコンビニの外観なんかもそのように配慮されていたと思います。それにしても食欲の湧かないカラーリングですね。

近寄ってみると店舗周辺では日本と全く変わらない、あの独特の香りマクド臭)が漂っていて不思議と癒やされます

店の表に張り出されていた期間限定商品のポスターを何気なく眺めていると

『…え? 日本語?』

そこには世にも奇妙な商品が紹介されていました。

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その名は『バーガー・アジアン』。

ポスターに掲載されているハンバーガーには日本語で大きく『』という漢字が刻印されています。

これはもしかして『アジアン』ならぬ『味アン』という日本人にしか解明できない高度なシャレなのでしょうか? …いずれにせよ、意味不明が過ぎます

さらに驚くことに隣に貼られていた、もう一枚の信じられないポスターが目に飛び込んできました。

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その名も『ポテトさん』!

………!!!!!』(※あまりの衝撃に絶句

しかも『ポテトさん』のパッケージには大きく『風味』という文字が!

…なんの風味やねんっ!』(※思わず夫婦同時につっこむ

見た感じは単なるポテトチップスにしか見えませんし、言葉の意味はよく分かりませんが、とにかくすごい自信です。

なにやら日本とイタリアの間に恐ろしい誤解が生じているような気がしないでもないですが妻はなぜか感心している様子。

妻『これ考えたヤツ、お笑いのセンスやべぇ!
僕『確かに!!

味アンバーガーの『』やポテトさんの『風味』に興味はそそられたもののマクドナルド商品日本よりもはるかに高価なので、このときの僕らに毒味できる予算はありませんでした。無念です。


それから帰路につくこと約30分後

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…ふんふふ~ん。(約40分後

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……はてさて、こっちかな~。(約50分後

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…………。(約1時間後

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もっと早い段階から、うすうす感づいてはいましたが自分が完全に迷子になってしまっていることをようやく悟りました…いや、認めました

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疲弊した表情で黙ったままの妻の横顔恐ろし過ぎます

重い荷物を背負いながら意地になってさまよい歩くこと実に4時間…!

あたりはもうすでに真っ暗です。

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ついに力尽き、タクシーを捕まえてやむなく乗車することにしました。

すると、まさかのたった5分でガブリエッラ邸に到着

『…いやぁ、異国の街をむやみに歩き回るもんじゃないねぇ!まいった、まいった~!』とのたまう僕に妻は呆れて一言

前からずっと言おうと思ってたんやけど…アンタって迷子になるプロやな。プロ迷子や!

はい、プロ迷子の称号いただきました。どーも、ありがとうございます!


② 日曜日の消防隊

久しぶりに天気の良い日曜日。雲ひとつない真っ青な空

古いガラケーで撮影した画質の悪い写真でも伝わりますでしょうか。

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イタリアの空は絵の具で塗りつぶしたように本当に鮮やかな青色をしているので快晴の日は街の風景が一枚の絵画のようにさえ見えてきます。

足どりも軽くマッジョーレ広場まで散策に出てみると何やら大勢の人が集まっており、たくさんの消防車やハシゴ車が並んでいます。

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火事でもあったのかな?と思いきや、消防隊員たちは小さな子供と手をつないで、のんきに写真なんか撮ったりしています。

どうやら、この賑わいは消防署主催の防火イベントのようです。

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広場には歴代のイタリアの消防車がズラリと並べられ、広場の中心では実際に火をつけての消火活動の実演なども行われています。

日本で消防ダイヤルといえば『119』番ですが、車の表示を見るにイタリアでは『115』番ということみたいですね。

イケ!イケ!Go!』と覚えましょう。

なんだか不謹慎な印象が拭えません。

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日本でもこういったイベントはたまに見かけますよね。

市庁舎のほうでは高い建物の壁伝いに隊員が滑り降りたり、高所からの人命救助の訓練の様子を披露するなどして注目を集めていました。

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ただ、その準備も作業もやけにスローペースでのんびりムードなのが気にかかります。

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日本だったら、おそらくテキパキスピーディーに作業をこなす様子をみせて歓声が上がりそうなものですが別の場所を見に行き、しばらくしてから戻った時に『…あの作業って、まだ続いてたのか!』というくらい動きが遅いのです。

このあまりに遅い作業ペースは一人でも多くの人に実演を見せるため、わざとやっているのでしょうか?

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相当な時間をかけて、やっとこさ救出劇完了

長い時間、宙吊りになっていた隊員も『やれやれ、やっと終わったぜ…』ってな感じでダラダラと雑談しながらベルトを外しています。

少なくとも、あの場で観覧していた全市民が『あれじゃあ、本番はまず助からねぇだろうな…』と悟ってしまっている絵づらが実にシュールでした。

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とはいっても、この企画自体はあくまで幼い子どもたちが興奮して喜んでいるようなファミリーサービスイベントです。

きっと実際の現場では彼らも迅速かつ的確な動きで市民の安全を命がけで守ってくれるはずです。…僕はそう信じたい


③ イタリア語のさよなら

週明けから新たなクラスメートとして、マユミという日本人モナというエジプト人女性2人が加わりました。

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マユミは日本にいる時から僕のイタリア移住計画ブログを愛読してくれていたらしく、僕本人と同じクラスになったことをすごく驚いていました

会った瞬間から『すごーい!本物のタスクさんに逢えたぁ!嬉しいっ!』なんてヨイショしてくるもんだから、すっかり有名人気分です。

そして、マユミはとても美人さんなので必然的にテンションが上がります

おっと、いくらなんでも我が妻の美しさにはおよびませんが…と忖け加えておかなければ後で凄惨な流血事件が発生します。いつでもどこでも忖度夫婦円満の秘訣なのです。

ふと異様な気配を察知したので振り返るとスチュアート顔が真っ赤に染まり、目がハートになっています。

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…スチュアートよ。お前もか!

ですが、ハゲマルドン…じゃなかった、アルマゲドンなんかにマユミを奪われるわけにはいきません。マユミは僕のパートナーではありませんスチュアートのパートナーになるのも解せないので彼の恋路は徹底的に妨害することを固く決意しました。

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さて。

今日は授業後にクニと待ち合わせをして一緒にバールへ行く予定だったので、マユミも誘って4人で行くことになりました。

滞在歴半年になるクニの先導でマッジョーレ広場の北側に面するポデスタ館内の老舗バールへと到着。

ボローニャの街では横断歩道や広場を除いて、ほとんどの道沿いに写真のようなポルティコと呼ばれるアーケード状の柱廊が縦横無尽に張り巡らされています。

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昔はギリシャを発端にヨーロッパ各地に多く見られたポルティコですが中世以降はほとんどの地域で取り払われてしまったそうです。

そんな中、ボローニャでは私有地の一部をポルティコにしなければならないということが法律で義務づけられており、現代でも変わらず市街地の歩道という歩道は列柱に支えられた美しいヴォールト天井で覆われ、古都ボローニャの大きな特徴となっています。

まぁ…歴史的な背景はどうあれ、僕にとっては雨の日に傘がなくてもあまり困らないので助かっています。きっと、ボローニャの住人それくらいにしか考えていないような気はしないでもありません。

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今回、訪れたバールはそのポルティコ部分に屋外テーブル席が並べられていたので、その一卓を陣取り、エスプレッソの上にミルクのエスプーマをのせたカッフェ・マッキアートを飲みながら、それぞれイタリアへ来た目的などを楽しく日本語で語り合いました

クニは同じ大阪出身ということもあって女神コズエに紹介されてから短期間で親しくなれたものの、なんと今月中には帰国してしまうとのことで一同は大ショック

でも、クニは不安ばかり口にする僕たちに『ボローニャにいたのは半年間だけだったけど街も学校も人もホンマに素晴らしいトコやった。みんな、少なくとも滞在場所にボローニャを選んだのは大正解やったと思うで!』と嬉しく頼もしい言葉をかけてくれました。

本当にいいヤツです。

クニにイタリア語で『さよなら』を言わなきゃ!という流れになったところで、彼はイタリア語のさよならにはいくつかの種類があるということを教えてくれました。みなさんもこの機会に覚えておくと、いつかイタリア人と出会ったときに役立つかもしれません。

[Ciao(チャオ)]
『チャオ』は気軽な『こんにちは』的な意味で有名ですが、いわゆる英語の『Hello(ハロー)』とは違って『さよなら』的な用途にも使われます。『チャオ チャオ!』と2回繰り返して言うと語感が『バイバイ!』っぽくなって日本人でも直感的に使いやすいですね。ただ、チャオは『どうも!』とか『じゃあね!』くらいの軽いノリなので今回のように帰国する友人を送り出す機会などに適した『さよなら』の表現ではなさそうです。

[Arrivederci(アリヴェデルチ)]
『アリヴェデルチ』は日常的に『さよなら』の意味に使われている言葉です。お店の店員と客の関係など再び会うかどうか分からないくらいの他人から親しい人、親しくない人を問わず、誰にでも気軽に使える一般的な『さよなら』です。これでも悪くはないのですが、あまりに日常的すぎて気持ちのこもった特別感はありません。

[Addio(アッディーオ)]
『アッディーオ』はしばらく会えなくなる人や、もう二度と会えない可能性が高い人に使う『さよなら』だそうです。…おお、それなら今回のベストチョイスはこれかよ!と思いきや、アッディーオは日本語でいう真顔での『…さようなら』に似た少し冷たくて寂しげなニュアンスが含まれているらしく、映画や小説の世界では度々登場することがあるものの日常生活の中ではほとんど使われない言葉のようです。感覚的には『さらばだ…』みたいな感じでしょうか。違うかな?

[A presto(ア・プレスト)]
『ア・プレスト』は『また近いうちにね!』といった次に会える日が近いと分かっている人、短期間で再会するつもりがある人などを対象に使われる言葉です。『チャオ・ア・プレスト!』とチャオと組み合わせることで『それじゃ、またねー!』といった感じの友人同士の別れ際に使われる常套句となります。クニとは残念ながら当分の間は再会できる見込みはありませんので、この言葉を選択するのには多少違和感があります。もっとも『また近いうちに(再会できたらいいね)!』という想いを込めた意味合いでなら使えないことはないかもしれません。

[Stammi bene(スタンミ・ベーネ)]
『スタンミ・ベーネ』はアッディーオよりもあたたかいニュアンスを持つ別れの言葉で直訳すると『私のために元気でいてくださいね』という意味になります。日本語的な感覚では『さよなら、これからも元気でね!』といった感じでしょうか。ホームステイや留学時の別れの挨拶にはぴったりです。今回の場合は間違いなくこれで決まりですね。

スタンミ・ベーネ・クニ!

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《つづく》

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