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書評・感想『恋愛結婚の終焉』 牛窪恵著 感想と個人的な評価

個人的な評価:★★★★☆(星3.5~4.0)

この本は最終的なメッセージである「24の提言」には傾聴に値する。
しかし、その前の部分は冗長であったり、単なる他の本からの引用であったりすることが残念である。
そのため、本書に関しては、星は「3.5~4.0」という評価とした。


I.  本書の感想


最初に断っておくが、「提言」の部分に関して一部ネタバレがあるのでご注意いただきたい。

1.「恋愛結婚の終焉」というタイトルについて

この本のタイトルを見て最初に思ったことは、「これは逆ではないのか?」ということだった。

下図は、本書でも取り上げられているグラフである。

本書のデータよりグラフを作成

この図からわかるように、昔から恋愛結婚はあったわけだが、例えば戦前の時代などは、恋愛結婚などというものは、とても少数派だった。
しかし、戦後になってからは、少し前(=2015年頃)までは、ほぼ一貫して恋愛結婚の比率は上昇し続けてきた。
そう考えれば、「恋愛結婚の終焉」というよりも、「見合い結婚の終焉」という方がデータ的には正しい、と言えるからである。

実際問題として、見合い結婚の減少と恋愛結婚の増加が、未婚率の上昇の大きな原因である、という指摘をする識者もいる。
下記のグラフを見てほしい。

本書と国勢調査のデータより作成

ここで注目すべきは、「男性30~34歳未婚率」の数値と、「見合い結婚率」の数値を合計したものが、ほぼ一定数になる、ということである。つまり、この2つの数値は、相関関係にあると言ってよい、ということになるだろう。30~34歳の男性に関しては、「見合い結婚」が減ったことが、未婚者の増加に大きく影響している可能性が高いということが、データからは言える、ということになる。
つまり、恋愛結婚の増加よりも、総合的に見れば、見合い結婚の減少が未婚率の増加の原因となっている可能性が極めて高いと考えられるのだ。

この点について、本書では、コメントはしているものの、踏み込んだ分析や発言等があまり無いことは少々残念であった。

しかし、そうは言いつつも本書を評価したいと思うのは、そんな「論理的な分析」というか、「もっともらしい理屈」だけでは解決できないレベルの課題が、いままさしくこの時点で存在している、ということが感じられたからである。

2.基本的な認識・私たち昭和世代の意識変革の必要性


こんなことをここで言っても「何を今ごろ」と言われてしまうだろうが、私は政府の少子化対策が「結婚」に踏み込まない限り、成果は出ないだろうと思ってきた。
しかし、本書を読んで、私が言うように「結婚」に踏み込むだけでは十分ではなく、さらなる対策が必要であることがよく認識できた。

私のような昭和世代が、本書を読んで考えるべきだと考える点を、以下に列挙したい。

  1. まず、私たち昭和世代の常識にいつまでも浸っているだけでは、現在日本が直面している「少子高齢化」という重い課題を解決することはできない、という事実を、基本として認識すべきである。

  2. 現在の若い世代が抱えている課題について、経済的な問題だけにフォーカスされがちである。もちろんそれらへの対処も必要であるが、それだけにとどまらない、より一層の対処と努力を行っていく必要がある。

  3. 今の若者を支援していくうえで、「デジタル」の要素を欠かすことはできない。デジタルに関連する支援は、経済的なものから、価値観の把握といったものまで、幅広く行っていくべきである。

  4. 多様性の問題への対処も不可欠である。昭和の価値観としての「結婚」「家族」「家制度」「結婚後の姓の問題」などを克服していかねばならず、さらに「事実婚」「同性婚」などについても、幅広く認めていく方向性が不可欠である。

3.「24の提言」について

筆者の24の提言を全て記載してしまうと、完全な「ネタバラシ」になってしまうので、それは差し控えたい。

筆者の24の提言は、以下の4つのカテゴリーに分けられる。

  1. 若者に対する経済的な支援の充実

  2. 若者の教育と再教育の充実

  3. 若者の持つ新しい価値観への対応

  4. 生殖医療などに対する支援の拡充

「1.若者に対する経済的な支援の充実」は、例えば、「提言1.奨学金支援を、「イノベーションの源泉=投資」と捉えるべし」などである。
「2.若者の教育と再教育の充実」は、例えば、「提言2.リスキリングの拡充も含め、20代前半の学歴にこだわらない社会の実現を」などである。
「3.若者の持つ新しい価値観への対応」は、例えば、「提言16.民間や団体も様々なカプルを受け入れ、多様な結婚を「見える化」せよ」などである。
「4.生殖医療などに対する支援の拡充」は、例えば、「提言17.健康な未婚女性も対象に、国として現実的な卵子凍結の議論を始めよ」などである。

この4つのカテゴリーで24の提言が全て含まれるか、ということはわからないが、概ね大丈夫だろうか。

繰り返しになるが、若者に対する支援というと、経済的な支援が中心に考えられるが、それだけでは十分ではない、ということが本書の主たる提言であり、私も重要な点だと思う。

本書については、途中に紙数稼ぎと言っては言い過ぎだとは思うが、冗長であまり興味が湧かないトピックが続くことが残念だった。
しかし、最終的なメッセージについては、十分に意義のあるものだと、私は考えている。

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