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ダークテトラドと日常的サディズム――第四の闇属性――

前回はダークトライアドについて簡単な解説をしたが、軽く復習しておこう。

ダークトライアドとは、社会的に望ましくされていない3つのパーソナリティの総称であり、サイコパシーマキャヴェリズムナルシシズムの3つから構成されている。

サイコパシーは共感性が低く、反社会的。
マキャヴェリズムは自分の願望のためなら他者を操作することもいとわない暴君タイプ。
ナルシシズムは自分大好きで自信過剰。

そして、これらの性格特性はそれぞれ重なる部分をもち、関連している。
それがこれらがダークトライアドと呼ばれるゆえんである。
もう少し詳しく知りたければ、以下の記事を読むといいだろう。

さて、今回は第四の闇属性、すなわちダークテトラド日常的サディズムについて解説する。
ダークテトラドとはダークトライアドつまりサイコパシー、マキャヴェリズム、ナルシシズムの性格特性に日常的サディズムを追加した概念である。

では、日常的サディズムとは何なのか?
以下で解説しよう。

○ダークテトラドについて

まずダークテトラド (Dark Tetrad) について簡単に解説しよう。

● 少年非行との関連についての研究

ダークテトラドという言葉が初めて用いられたのはトゥールーズ大学の Chabrol, Van Leeuwen, Rodgers, & Séjourné (2009) の研究である。
この研究では615人の高校生を対象に、サイコパシー、ナルシシズム、マキャヴェリズム、そしてサディズム特性が非行行動にどの程度影響を与えるかを検証した。

その結果、男子においてのみ、サイコパシーとサディズム特性が非行行動の独立した予測因子であることがわかった。
つまり、サイコパスとサディストの男子は非行をしやすいということである。

また、サイコパシー、ナルシシズム、マキャヴェリズム、サディズムの4つの特性はそれぞれ中程度の相関を示し、ダークトライアドと同様に、それらは重複しつつも異なった特性であることが示唆された。
このことから研究者らは、ダークトライアドからダークテトラドに拡張することを提案した

● エリン・バケルスらの研究

初めて本格的にダークテトラドという言葉を用いたのがブリティッシュコロンビア大学の Buckels, Jones, & Paulhus (2013) の研究だ。
彼らはダークテトラドという概念を成立させるために2つの実験を行った。

1つ目の実験は「日常的サディズムと殺意」と題されており、「擬似虫殺しのパラダイム」という実験が行われた。
これは、生きた虫を殺す作業を含んだ、いくつかの嫌な作業のなかから被験者に選んでもらうといったものだ。
結果は、サディストは進んで虫を殺そうとするというものだった。

対象となったのは心理学専攻の学生71名 (女性72.9%, 男性27.1%; 平均年齢20.37歳, SD = 2.33) である。

まず実験者は被験者にサディズムやダークトライアド、嫌悪刺激に対する感度、虫に対する恐怖を調べるために質問紙を記入させた。

次に実験者は被験者に、以下の4つのタスクから選択させた。

・虫を殺す (駆除業者)
・実験者の虫殺しを手伝う (駆除業者の助手)
・汚れたトイレを掃除する (衛生管理者)
・氷水の痛みに耐える (寒冷地での作業員)

被験者が駆除業者を選択した場合、コーヒーグラインダーを改造した虫つぶしマシンを提示された。
その機械に隣接する3つのカップには、それぞれ生きたダンゴムシが入っており、 虫の名前として「マフィン」、「アイク」、「トッツィー」とカップに書かれていた。
被験者の仕事は、ダンゴムシを機械に落とし、蓋を押し下げ、マフィンから順に「すりつぶす」ことであった。
なお、虫はバリアによって粉砕刃に届かないようになっており、そのため、あたかも虫を粉砕しているように見えるが、虫に危害は加えられない仕組みになっていた。

虫殺戮マッシーン

駆除業者の助手の役割を選んだ被験者は、被験者が実験者にカップを渡す以外は同じ手順で行われた。
最後に、サディスティックな快感を調べるために、すべての被験者が感情評価を行った。

なお、3つの虫をすべて「駆除」する被験者もいれば、1つか2つの虫を「駆除」しただけでやめてしまう被験者もいることに実験者は気づき、被験者が殺した虫の数を記録したところ、69名の参加者が、平均1.0匹 (SD = 1.02) の虫を退治したことがわかった。

実験の結果、まずサディズムとダークトライアド得点の相関は低から中程度であることがわかった。
また重要なことに、サディズムと嫌悪刺激に対する感度は無関係であることがわかった。

そして駆除業者は最もサディズムの得点が高く、次に駆除業者の助手が高かった
なお、その結果はダークトライアド、性別、虫への恐怖、嫌悪刺激への感度を統制したとしても現れた。
これはサディズムの特性上当然の結果だろう。
ところが興味深いことに、サディズムを統制するとダークトライアドの影響はなくなったという。
したがって、サディズムとダークトライアドはやはり、似ているところはあっても別物らしい。

縦軸はサディズム傾向を示す

快感の評価に関しても、高サディズムで駆除業者を選択した被験者は、それ以外のタスクを選んだ被験者よりも高い快感を報告した
なお、低サディズムで駆除業者を選択した被験者は快感と関連しなかった
また、当然の結果ではあるが、殺した虫の数と快感には正の関連が見られた
それと、興味深いことに、タスクの選択に限らず快感の報告を比較したところ、高サディズムは低サディズムに比べて快感を低く評価したという。
これは、サディストは快感に対する全体的な感受性が低い可能性を示唆する。


2つ目の実験は、「日常的サディズムと無辜むこの民への傷害」と題されている。
地味に「日常的サディズムと無害な犠牲者を傷つけること」と言い換えることもできる。

結果は、サディスト、ナルシスト、サイコパスは無実の人を攻撃するが、特にサディストは攻撃するために面倒なことまでして、さらに相手に攻撃の意思がないとわかると攻撃を強めるというものだった。

この実験では「ホワイトノイズ・パラダイム」と呼ばれる手法が用いられた。
ホワイトノイズ・パラダイムとは、簡単に言うと、相手よりも早くボタンを押すゲームだ。
そして、ゲームの勝者は敗者に対して任意のホワイトノイズを浴びせることができる
ノイズの強さはノイズなしの0から90dBの10の11段階で決められ、さらに持続期間も最大の5秒まで決めることができた。
ところが面白いことに、被験者の対戦相手 (つまりは実験者) は常に0 (ノイズなし) を選択した
つまり、被験者には対戦相手にノイズを送る正当な理由がないという実験設定なのである。

さらに研究者らは2つの条件を追加した。「仕事なし条件」と「仕事あり条件」だ。
前者はゲームの勝利直後に相手にノイズを送ることができる
一方後者は相手にノイズを送るには単調な作業をこなさなければならない
また、被験者は希望によってノイズの送信をスキップすることもできた。

対象になったのは71名の心理学専攻の学生 (女性49.3%, 男性50.7%; 平均年齢20.52歳, SD = 3.69; 東アジア人60.6%, 白人26.8%, その他12.7%) である。

初めに被験者はサディズムとダークトライアドに関する質問紙、ビッグファイブ、対人反応性指標の質問紙を記入した。
対人反応性指標は共感の個人差を評価するために取り入れられ、下位尺度として個人的苦痛 (Personal distress)、共感的関心 (Empathic concern)、空想 (Fantasy)、視点取得 (Perspective taking: 相手の立場から物事を見ること) が含まれている。

実験の結果、サディズム、ナルシシズム、サイコパシーは無辜の民への攻撃と正の相関を示し、特にサディストは相手に攻撃の意思がないとわかるとかえって攻撃を強めた。
その上、サディズムは相手にノイズを送るためにわざわざ退屈な作業をこなしてしまう傾向があった。
一方視点取得と共感的関心は無辜の民への攻撃と負の相関を示し個人的苦痛は相手に攻撃の意思がないとわかると攻撃性を緩めた
また、共感的関心は作業を通しての攻撃と負の相関が見られた


ここまでのダークテトラドについてまとめよう。
サディストは進んで虫を殺し、その上それに快感を見いだす
・しかもサディストは相手に攻撃の意思がないとわかると激しい攻撃を行い、そのためには退屈な作業を行うのもいとわない
・一方ナルシストとサイコパスは無実の相手を攻撃するのにとどまった
・そして、サディスムとダークトライアドの各項目は低から中程度の正相関を示す

以上のことから、サディズムはダークトライアドと重なるも、別の性格特性だと見なされ、したがって4つの性格特性をまとめてダークテトラドと呼ぶことができる。

○日常的サディズムとは?

マルキ・ド・サド (Marquis de Sade)。フランス革命期の貴族、小説家。サディズムという言葉の由来になった人物。

サディズムという言葉はフランス革命時の小説家マルキ・ド・サドに由来する。
理由は彼の作品が暴力的だからかもしれないが、彼自身も物乞いを暴行したり、娼婦に危険な媚薬を飲ませていたりするため、由来は彼自身かもしれない。

日常的サディズムを簡単に言い表すと、他者に苦痛を与え、あるいは他人が苦しんでいるところを見て満足する性格特性である。
その行為には身体的攻撃のほかに精神的攻撃も含まれる

そして最も興味深いことが、ネットいじめを予測する因子として、ダークトライアドを差し置いて、サディズムが挙げられるということである。
通常のいじめの予測因子はサイコパシー、マキャヴェリズム、サディズム、協調性の低さが挙げられたのに対し、ネットいじめではサディズムと協調性の低さしか予測因子として抽出されなかったのである。
これについては今後の記事で紹介したい。

そのほかの簡単な特徴を紹介しよう。
日常的サディズムはダークトライアドと低から中程度の正相関を示す (だからダークテトラドとまとめられるのだ)。
一方で視点取得 (他者の視点から物事を見ること)、共感的関心協調性誠実性とは負の相関を示す

サディストは外部からの扇動がなくても、罪のない他者を攻撃する (これはバケルスらの2つ目の実験の結果を見ればよくわかる)。

一方ダークトライアドはそれぞれどうかというと、どれも文脈に依存する。
サイコパスは他者を傷つけるのにためらいもないが、そこには目的があり、攻撃自体は一つの手段として見なされる。
ナルシストは自身が脅かされない限り攻撃することはないし、マキャヴェリストも無益な攻撃は行わない

○まとめ

いかがだっただろうか?
まとめと見出しには書いたが、前項でまとめらしいことを書いたので、この記事のまとめを書くのはもういいだろう。

例によって今回参考にした本を紹介しておく。

'The Dark Triad: The Dark Psychology Behind Narcissistic, Machiavellian and Psychopathic behavior and manipulation'

この本は前回も紹介したので、詳しいことは前回の記事を参照していただこう。

それともう一つ、面白い本があるので紹介する。
ジュリア・ショウ (2019)『悪について誰もが知るべき10の事実』講談社

これは「悪」を科学の視点から切り込んだ本であり、ダークテトラドについても言及されている
また、サディズムも1章の主要なテーマであるため、ダークテトラドおよびサディズムをよく知ることのできる優れた一冊だろう。


次回は「『ダークな』人たちの適応戦略」という論文をもとにダークトライアドについて解説しよう。
これは日本語の論文のため、それを読んでいただければ十分なのだが、書くときはよりわかりやすく書くよう努める。

次回👇

○参考文献

Buckels, E. E., Jones, D. N., & Paulhus, D. L. (2013). Behavioral confirmation of everyday sadism. Psychological science, 24(11), 2201-2209.
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0956797613490749

Chabrol, H., Van Leeuwen, N., Rodgers, R., & Séjourné, N. (2009). Contributions of psychopathic, narcissistic, Machiavellian, and sadistic personality traits to juvenile delinquency. Personality and individual differences, 47(7), 734-739.


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