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『ぼくの役割』

保育園から帰宅したシンは町の診療所に来ていた。
インフルエンザ予防接種のため――パパとママの。
既に終えているシンは付き添い。

奥から小さな子が泣きながら出てくる。
ふと自分の時を思い出し顔をしかめた。
「シンは泣かなかったもんね」ママが言う。
そうだった。一回目は泣いちゃったけど二回目は我慢したんだ。
「パパ、ドキドキしてきたから応援しててくれよ」
シンは頷いた。うん、その役割ぼくに任せて。

名前が呼ばれ三人で診療室に入る。
「どちらが先に打ちますか?」
先生の言葉に「パパが先」とシンは言った。
パパに目配せ……先に終わった方が嬉しいでしょ?

「シンのおかげで痛くなかったよ」
頭を撫でられ誇らしげに部屋を出る。
待合室の目が一斉にシンに注がれた。中に囁く声も。
「あのお兄ちゃんも全然泣いてないよ。だから頑張ろう」

え? って思ったけどそのまま黙ってソファに座った。
いや、少し腕をさすったりして……だってそれが、ぼくの役割な気がしたから。


注射する子らの泣き止むくしやみかな

(ちゅうしゃするこらのなきやむくしゃみかな)

季語(三冬): 嚏(くさめ)、くしやみ、はなひる


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