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そして母は帰っていった。

無言でお茶をすする。
昨日のこと(七五三撮影)を筆頭に、五歳息子の成長、私の病気、妻のやさしさ……大方語り尽くしてしまった。

既に妻子は仕事と保育園に。
今朝はわが家に宿泊した母と二人きり。
何喋る? 俳句の面白さについて語ってもな。
太極拳の楽しさ語られても返せなかったし。

「昨日はほんと良かったわねえ」

無限ループに居たたまれず「仕事のメール見てくる」と部屋に入った。
ほどなく母が声をかけてくる。「そろそろ」
――いやまだ電車も混んでるよ。「でも早めに」
送っていくよの言葉を制し、駅まで歩いていくという。
迷わないでねと簡単な地図を書いて渡した。

「昨日は本当に楽しかった。またね」

――来てくれてありがとう。
私の言葉ににっこりし、母は出て行った。
数十分後にメール。

「おかげさまで駅まで迷わず行けました。でも反対の電車に乗ってしまい一時間のロス。でも座って帰ってます。楽しい一日でした」


冬ぬくし

母に書く駅までの地図冬ぬくし

(ははにかくえきまでのちずふゆぬくし)

季語(三冬): 冬暖か、冬ぬくし


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