月下の「喜ばせ競争」
十五夜と比べてなかなか姿を現さない月。
昔の人はそれを「居待月」と呼んだとか。
☆
「ママ、お腹空いたー」
五歳息子が痺れを切らす。
いつもより三十分遅い居待食は自家製コロッケ。
妻の初チャレンジメニュー。
「おまたせ。味がないからソースいっぱいかけてね」
謙遜にドバっとかける野暮はしない。
息子もそのへん分かってる。
先ずはそのまま食べて親指グッジョブ。笑顔になる妻。
畳みかけるように「こんなおいしいの初めて」
とろける妻……よく分かってる。
私も一口。
うん。時間をかけて炒めた玉ねぎが効いている。
形は不格好でも、洋風で上品な味わい。
――資生堂パーラーのクロケットみたい。
息子に負けじの褒め言葉が出た。
「やだ嬉しい」
喜ばせ競争は激化し、息子はさらにおかわりを所望。
寝しな、「お腹痛い」になったのはご愛敬か。
――無理しすぎだよ。
言いつつ、私もクロケットは写真でしか見たことなかったことを反省する。
居待月妻のコロッケ揚がりけり
(いまちづきつまのころっけあがりけり)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?