カラランと記憶が蘇る
市役所に印鑑登録と証明書を取りに行く。
いろいろ、父から母名義に変更するのに必要らしい。
こういうのは苦手。順番待ちの間、渋々書類に目を通す。
中に「ゴルフ会員権」の文字を見て、記憶が蘇った。
バブル時代を生きた父。
たまにある休日は、近所のゴルフ打ちっ放しに通っていた。
そこに小学生の私もついて行った。
父の休憩中に何球か打たせてもらう。
「筋がいいぞ」とおだてられ、その気になっていたあの日。
「会員権を買ったんだ」
いつか自慢げに話していた。
「お前に譲ってやるからな」と。
残念ながら私はゴルフに全く縁のない暮らしをしてきた。
今後もやることはない。
父は何故、手放さずにいたのだろう。
二束三文の価値になって、売るに売れなかったのか。
息子といつかラウンドすることを夢見ていたのか。
と、ここで18番の方と呼ばれる。(18番ホール!)
数少ない父との会話を思いだし、少し軽やかな気持ちになって判を押す。
印鑑の朱肉くつきり冬隣
(いんかんのしゅにくくっきりふゆどなり)
季語(晩秋): 冬近し、冬隣
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