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『パパマジック』

「フジイ君頑張れ~」
シンが覗き込んで声を出す。
パパは画面に集中していた。
画面の将棋に。

「羽生さんが勝つかもしれないんだ」
パパは見向きもしない。
いつもは保育園から帰るとすぐ遊んでくれるのに。
シンは拗ねてパパの膝に乗り込んだ。

「どっちがフジイ君?」
気を引こうとまた声を出す。
シンの一番好きな棋士の名前。最強だとパパから教わった。
パパは「どっちも違う」と言い「勝ったら藤井王将と戦うんだ」と重ねた。

熱弁が始まる。
衰えたとされた羽生さんの復活劇。
羽生対藤井の檜舞台をずっと見たかったこと。
タイトル100期へ。かつての「羽生マジック」の感動も。
「そんなすごいの?」
「いつの間にか負けが勝ちになってる。ガラリと模様が一変するんだ」

その時、画面に「羽生勝利」の文字が出た。
小躍りして喜ぶパパ。
シンは「ハブマジックだね」と言った。
「今日のは違う。でも藤井君と戦う時は出るかも。一緒に観ような」
「うん、ハブさん頑張れ~」

シンの一番が変わっていた。


小雪や尚も玲瓏たる一手

(しょうせつやなおもれいろうたるいって)

季語(初冬): 小雪

二十四節気の一つ。十一月二十二日頃。

※玲瓏(れいろう)……美しく照り輝くさま。
←羽生九段がよく揮毫する言葉。



※現在、日記を小説風に書く修行中です。

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