ポップコーンは買わない派です。vol.77

聖なる犯罪者

予告編

あらすじ

少年院に服役中のダニエルは、前科者は聖職に就けないと知りながらも神父になることを夢見ていた。仮釈放され田舎の製材所で働き始めた彼は、ふと立ち寄った教会で新任の司祭と勘違いされ、司祭の代わりを命じられる。村人たちは司祭らしからぬダニエルに戸惑うが、徐々に彼を信頼するようになっていく。数年前にこの土地で起きた凄惨な事故を知ったダニエルは、村人たちの心の傷を癒やそうと模索する。しかしダニエルの過去を知る男の出現により、事態は思わぬ方向へと転がっていく。
2019年製作／115分／R18+／ポーランド・フランス合作
原題：Boze Cialo
配給：ハーク

ポーランド人とカトリック

この映画の話をするにあたって説明しておきたいことがあって、それがカトリックについてです。

カトリックというのはキリスト教における教派の一つであり、それに対比されるのがプロテスタントです。

ちなみに、カトリックとプロテスタントの違いを簡単に説明すると、「何かを特別扱いするかしないか」というところにあります。

例えば、ローマ教皇はカトリックにとっては教会のトップの存在として特別扱いをしますが、プロテスタントは「人間は神以外みな平等」という考え方があるので、特別扱いをすることはないのです。

さらに簡単な見分け方は、聖職者の呼び方についてです。

カトリックでは「司教、神父」

プロテスタントでは「牧師」

と呼ぶのです。呼び方でこの人はカトリックだなとかプロテスタントだなって見分けることができます。

さらにいうと、教会の中をみたときにマリア像があるかないかで、見分けることもできます。

マリアを特別扱いするカトリックの教会には像が存在し、特別扱いしないプロテスタントの教会には像が存在しないのです。

このように考え方の異なるカトリックとプロテスタントの話をした上で、ポーランド人とカトリックの話をしたいと思います。

ポーランドという国では人口の92％がカトリックであると言われています。

先ほどカトリックとプロテスタントの違いを説明しましたが、この二つの教派を比較したときにカトリックの方が信仰心が強そうに思えませんか？
皆までは言いませんが、「特別扱いをする、しない」という考え方の違いで、信仰についても印象が大きく異なるように思えます。

こういった話をした後に感じることと言えば、

「ポーランド人めっちゃ信仰心強いんじゃね！？」

という思いがありますよね。

ポーランドには全国で29,737人の神父がいますが、この数はイタリア、アメリカに次ぐ世界3位、全ヨーロッパの神父の約15％、全世界の神父の約7%がポーランド人という計算になります。

このように、ポーランド人とキリスト教との関係は密接であり、故にキリスト教に仕える聖職者（司教）も特別な存在として存在しているのです。

そんな聖職者に憧れがありつつも、前科のある青年がひょんなきっかけから聖職者の仕事を務めることになり、人々との交流を描く本作。

社会のシステム上、一度過ちを犯した者には聖職者なんという崇高な職業につけるはずがないけど、もしもこういうことがあったら鑑賞者はどう思うだろうかという仕組みは面白いと思いました。

犯罪者と聖職者

主人公のダニエルは序盤、少年院からの釈放が決まりシャバに出ることになった。シャバでは酒やドラッグには手を出すなと言われていた。

彼は絶対にやりませんと宣言していた。その実直そうな目をみて、嘘はなさそうな感じがした。

しかし、シャバにでた描写に切り替わった途端、クラブでドラッグをキメてトイレでパン！パン！パン！と激しくセックスしていた。

うおお、まじか。いきなり裏切ってくるねえ。
この露骨な表現が故にR18指定なのかと思った。でも多分、主人公の善悪の天秤が何がきっかけで傾くのかがわからないということがこの露骨な描写からみてとれた。

こいつはいつ何をしでかすかわからんぞと不安を植え付けられましたね。と同時にダニエルを演じる俳優さんのすごさにも震え上がった。目の奥の真意が見えない感じ、言動、見事に欺かれました。

そんな前科をもつダニエルは少年院が斡旋した製材所で働く予定だったが、寄り道した教会でひょんなきっかけから教会の仕事を手伝うように。というかいきなり司教といて働くようになった。

これは社会のシステム的にはありえないはずなのだが、誰かがもしもボックスでも使ったのだろうか。

犯罪者と聖職者というのはポーランドでは人間の最底辺と最頂点を意味する。最底辺の人間が一気に頂点に登ったときにみた景色、言動、教徒との交流はどうであったか。

実際、ダニエルは教会の形式に囚われない型破りな方法で人々の悲しみや悩み、懺悔に向き合って信頼を得ていく。社会のシステムがなかったらこのまま幸福に生活していけたんじゃないかって思うわけです。

おお！ダニエルやるやん！GTOの鬼塚みたいやん！

そんな印象を受けましたね。でもGTOと違うのは鬼塚は教員免許を持っているが、ダニエルには聖職者としての資格を持っていない状況であるということがネックになっている。

そんなダニエルの足を引っ張る存在が現れ始めて徐々に被っていた猫が剥がれ始めます。

そして、無免許で人々を偽っていたことは犯罪としてダニエルは再び収監されることになる。

無免許での男の善行は詐欺としてみなされ、社会システムへの反逆として犯罪者となる。

こんなに綺麗なヒストグラムのように人間が上がって堕ちていく姿は映画としてとても満足度が高いです。

最後に

そしてこの映画はラストが衝撃的です。

このラストで充分飲めるし語らえると思うよ。

正直後味はあまり良くはないです。しかし、このえぐみは心をざわつかせるが故に印象に強く残ります。

機会があればぜひ観ていただきたい。