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社内恋愛はもはや大罪? 変わりつつある「自然な出会い」の定義

『築地本願寺新報』で連載中のエッセイストの酒井順子さんの「あっち、こっち、どっち?」。毎号、酒井さんが二つの異なる言葉を取り上げて紹介していきます。今回のテーマは「自然」と「不自然」です(本記事は2024年5月に築地本願寺新報に掲載されたものを再掲載しています)。

 マッチングアプリで出会って交際や結婚をする人が、急激に増えています。数年前までは、アプリで出会って結婚することに対して、「えっ」という顔をする人もいましたが、もうそのような反応は少ないのではないか。
 
 お見合いや結婚相談所を利用したのではなく、学校や職場等で知り合うことを、「自然な出会い」とする言い方があります。その考え方でいくと、マッチングアプリで知り合ったカップルは「不自然な出会い」ということになる。

 しかし最近、世の恋愛事情は激変しました。会社員の友人の話を聞いていると、「極力、社内恋愛はしないように」「社内の先輩・後輩であっても、男女二人きりでタクシーに乗るのはNG」などと研修で言われる企業も少なくない模様。社内恋愛をしてしまうと、その時は盛り上がっても、こじれて別れた後、どちらかが社内で上の立場だった場合は特に、ハラスメントのように捉えられてしまう可能性がある。また男女二人でタクシーに乗るという行為についても、あらぬ誤解をされてしまう恐れも。……ということなのだそう。

 となると今後は、同じ職場の人と恋愛するということが、大罪のように捉えられるのかもしれません。反対にアプリの方が「自然な出会い」となり、非アプリは「不自然な出会い」となる可能性もあるのです。

 禁断の社内恋愛を押し通し、結婚に結びつけたカップルは、
「あの人達、社内恋愛なんだって」
「えーっ!」
 などと、陰でコソコソと言われてしまうのかも……。

 マッチングアプリを使用して結婚した人に話を聞いてみると、その人が使用したアプリではAIが互いの相性を考慮してカップルを作るため、
「初めて会った時から、『全然違う』ということがあまりない」
 のだそう。趣味などを考慮した上で「この人とあの人は、合う」という二人をデートさせるので、無駄も少ないというのです。

 そう考えると、旧来型の「自然な出会い」の、何と面倒臭く、ハードルの高いことか。異性と出会っても、「この人は独身なのか」「交際相手を求めているのか」から始まり、「年齢は」「出身地は」「趣味が合うか」等々、様々な条件を探り合ったりしつつ、互いにときめきを感じる相手とようやく恋愛に至るというのは、今時の若者にとってはあまりにも大変に思えるのではないか。

 対してアプリの場合は、様々な種類があるとはいえ、互いに交際相手を探していることが前提。最初に相手に求める条件を入力するので、全く合わない相手はそもそもAIが弾いてくれる訳で、非常にタイパが良いと言えましょう。

 かつては若い男女が合コンを盛んに行っていましたが、昨今の若者の間では、合コン離れも進んでいるのだそう。合コンは、その場は楽しくてもカップルになる確率は低く、本当に結婚したい人にとってはコスパ的にもタイパ的にも今ひとつ、ということなのです。

 あと数年が経ったら、「自然な出会い」という言葉の意味はすっかり変化しているのかもしれません。学校や職場での「不自然な出会い」の結果結婚した親世代を珍しそうに見る若者の姿が、目に浮かぶようなのでした。

 
酒井順子(さかい・じゅんこ)
エッセイスト。1966年東京生まれ。大学卒業後、広告会社勤務を経てエッセイ執筆に専念。2003年に刊行した『負け犬の遠吠え』がベストセラーとなり、講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞を受賞。近著に『枕草子(上・下)』(河出文庫)など。

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。