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タイムスリップコップ|毎週ショートショートnote

実家に食器棚の一番上に、陶器製の茶色いコップがある。僕が知る限り、このコップが使われたことは一度もない。

高校の時、夕食を食べようとすると「ガチャン」と音がして、慌てて台所に行くと、粉々になったコップを前に、呆然と立ち尽くす母がいた。
僕がコップの破片を拾おうとすると、「触っちゃダメ!」と鬼のような形相で怒鳴られ、反射的に手を引っ込めた。母は「ああ、ゴメンね……大丈夫だから」と弱々しくこぼし、震える手で破片を拾い始めた。

僕はおかしなことに気付いた。コップは半分だけが割れて、もう半分は綺麗に残っている。「こんな割れ方あるのかな」と不思議に思っていると、母は割れていない半分のコップと破片を手に乗せ、元あった場所、食器棚の一番上の手前にそっと置いた。

2日後、病院から学校に「お母さんが交通事故に遭った」と連絡があった。
自転車を飛ばして病院に行くと、母は左半身に重傷を負っていた。しかし、なぜか母は笑って、

「あのコップが割れてくれたおかげで助かったのよ」

と言った。

意味が分からなかったが、とにかく命に別状がなく、後遺症も残らないとのことで安心した。

家に帰って食器棚を見ると、割れたコップは元通りになっていた。

僕は思わず、コップに手を合わせた。

【了】(519字)


『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』


たらはかにさんの「毎週ショートショートnote」参加用です。
今週のお題は「タイムスリップコップ」。

完全な思い付きです。
というより、私の場合、ショートショートは考えれば考えるほど書けないので、もう一瞬のひらめきと爆発力勝負ですね。
かなり慣れてきた気がします。

思い付きにしてはずいぶんと具体的なショートストーリーが出てきたので、もしかしたら無意識に何かで読んだ(観た)作品を参考にしているのかもしれません。


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ありがとうございます!(・∀・) 大切に使わせて頂きます!