音声燻製|毎週ショートショートnote
1年前から、なるべく声を出さないようにしている。
歌手を目指し、喉を酷使し過ぎた結果、私の声はもう「声」と呼べるものではなくなってしまった。
ある日、喉の治療のために通っている病院の前で、見知らぬ男に「あの、ちょっと」と声をかけられた。
「声優、やってみませんか?」
私はからかわれていると思い、
「こンなこエデseiゆウなんてdeキルわkeなイでしょ?」
と言った。
「実に良い声だ」
神妙な顔つきで頷く男に、呆気に取られた。
「今の時代、綺麗な声を出せる人は腐るほどいます。あなたのような、まるで煙で燻したような、地の底から響いて来るような声を出せる人、いませんよ」
私はただ、黙り込んだ。
「そうやって声を出さないまま生きていくつもりですか? オンリーワンになりましょうよ、その声で」
――半年後。
「あの悪役の声優さん、一体誰だ?」
「マジでイイ声してる!」
「ファンになった!」
SNSで話題沸騰となった。
私は身分を一切明かさないことを条件に、声優として活動している。
【了】(422字)
『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』
たらはかにさんの「毎週ショートショートnote」参加用です。
今週のお題は「音声燻製」。
あえて「音声」と「燻製」と言う言葉は使っていません。
まぁ、モチーフとでも言いましょうか……。
先週のお題は「告白雨雲」でした。
ありがとうございます!(・∀・) 大切に使わせて頂きます!