僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#26】
#26 向こう側へ
マークは、遠ざかる扉を見ながら、レイニーがどうか助かりますようにと願っていた。
初めての宇宙旅行で、二度も彼女と別れる事となってしまった。しかも、もうこのまま会えないんじゃないか、と後悔ももちろんあった。
ただただ、彼女の無事だけを願いながら、洞窟の奥で巻き起こっている事を見られる限り見ることにした。
相変わらず二つの光がぶつかったり、消えたり、また現れたりした。
宙を浮いている時点で、魔法とか超能力とかそういう類のものとしか思えなかった。
チカチカと光る二つの光を見ていると、ある変化に気付いた。
地下空洞自体も形が変わっていて、空間がだんだんと狭くなって来ているように見えた。
「あ、あれは!扉!!」
再び、地上への扉が近づき始めた。
来い!来い!と願いながら、来るべきタイミングのために心の準備を始める。
『おぉぉぉまぁぁぁぁえぇぇぇぇ!!!』
狭まり始めた空洞の全体に、紫の魔女の怒号が響き渡った。
魔女は焦りを露にする。相手のパワーが勝って来ているということなのだろうか。
徐々に近づく地上への扉。あと10mほどだろうな。向こうの様子もハッキリと見える。
レイニーは、ちゃんと行ってくれたようだ。今頃は地上だろうか。
扉の向こうに行くことが出来れば、追いかけることが出来る。
扉が近づくにつれて希望は高まっていった。
『そうはさせるかぁぁぁああああ!!!』
地上への扉に気付いたのか、紫の魔女はこちらに気付いた。
扉まであと10mほど。助走をつけて飛んでも届きそうにない。もう少し、もう少しだ。
しかし、そこで扉への距離が縮まらなくなってしまった。
紫の魔女の力なのだろうか。じりじりと、寄って行ったり、戻ったりを繰り返し、距離はほとんど縮まらない。
「ここまでなのか…。」
ここから飛んだら、空洞に落ちてしまう。下を見ると30mくらいはありそうだ。ただじゃ済まない。
扉が近づき希望が見え始めた所から一転、諦めそうになっていた。
「マーク。」
どうやら、レイニーを想うがあまり幻聴が聴こえ始めた。
「マーク。こっちだよ。」
二人で楽しいミステリーツアーだったはずなのに、なぜこんな事に…なんて事が頭を過ったのだが、
「マーク!何ボーっとしてるの!!こっちだよ!!」
マークはハッとして、臥せっていた顔を上げた。
目の前には、地上への扉の前に立つレイニーがいた。
しかも、レイニーだけではない。
この旅で僕を助けてくれたレイトとヒューゴまでいた。
「みんな!!?」
こんな状況なのに、驚きと喜びで笑ってしまった。
「おい、マーク!笑ってる場合じゃないぼ。跳べないのか!?」
虎を連れたヒューゴ少年が呼び掛ける。
「この距離は跳べないよ!どうしよう!」
「よし、わかった。これで行けないか?!」
レイトが後方から、梯子を持ってきた。かなり長く、10m以上ありそうだった。
慎重にこちらに伸ばして来る。こちらも梯子の先に手を掛け、廊下に置いた。
「いけるか?」
レイトが心配そうに投げ掛けて来た。
やれなくても、やるしかない。
マークは覚悟を決めて、梯子を渡る決心をした。
「行きます!!!」
扉まであと10mほどの距離。梯子の下は30m以上の空洞。
極限状態だが、マークは一歩を踏み出した。
つづく
T-Akagi
【 つづきはこちら(note内ページです) 】
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