僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#27】
#27 ピケ
マークは、一歩一歩しっかりと歩いた。
あと9m。あと8m。あと7m。
着実に進んでいる。向かいにいるレイニーの顔も近づいて来た。
しかし、ここで遂に起こって欲しくない事が起こってしまった。
『逃がさないよ。』
さっきまで光がぶつかりあっていたはずだが、今では空洞の中に響いていた轟音もなくなっていた。
そして、真横に紫の魔女が迫っていた。
『一歩でも進んだら、どうなるかわかってるわよね。』
その場から動けなくなってしまった。
魔女の方を見ると、紫色に光る杖をこちらに向けていた。
「動いたらどうなるんだ。」
『あら、そんな勇気があるの?この空洞、下が深いの知ってるのかい。』
明らかな脅しだ。これ以上、行かせてはくれそうにない。
下に落ちたら、高い確率で生きてはいられないだろう。
『大人しく戻りなさい。さぁ。でないと、、、。』
魔女の捲し立てて来る。
「ちくしょう。ここまで来たのに。」
ヒューゴ少年が魔女の存在に気づき声をあげた。
続けて、レイトが大きな声で呼びかけてくる。
「来い!来るんだ!マーク君!」
魔女はすぐそばまで来ている。意を決して踏み出した。今までに感じた事がないくらいの焦り。一歩間違えれば命を落とすかもしれない。
でも、このまま待っていたら、魔女に追いつかれてしまう。そうなったら、もうここから出るチャンスがないかもしれない。直感的にそう思った。
「うわあああああ!」
魔女がもう1メートルか2メートルほどの距離まで近づいた所で、マークは安定しないはしごから扉に向かってジャンプした。
空中に浮いている時間が、こんなに長く感じたのは初めてだった。
正確にどのくらいの距離を飛んだのかはわからなかった。それくらい必死に飛び込んだ。
扉の光はみるみるうちに近づいた。
しかし、ほんの数十センチ手前にして勢いを失い落下し始めた。
手を伸ばすが届きそうにない。
ごめん、レイニー。
心の中でそう呟いた。
「マーク!!」
レイニーの声で、ハッとした。
その瞬間、マークの伸ばした手が何かに挟まるのに気がついた。
その何かは、人間の柔らかい手ではなかったが、牙を避けてうまく僕の手を挟み込んで落下を止めてくれた。
「ピケ!!!」
僕が落ちる寸前で手を掴んでくれたのは、ヒューゴ少年の相棒の虎ピケだった。
ピケは、人間一人の体重を口だけで支えてみせた。
持ち上げる事は出来ないようで、レイトとヒューゴ少年で僕を引っ張りあげてくれた。
「ありがとう。」
僕は虎のピケの首元から背中にかけてを摩った。
安堵の時間も一瞬で現実に引き戻される。
『お前たち…許さん。』
魔女は取り逃したマークだけでなく、その場にいる全員に殺意のような感情を向けているようだった。
「地上へ行こう!ここは危ない!」
レイトが地上への洞窟を指差し、その場にいた全員が走り出した。
つづく
T-Akagi
【 つづきはこちら(note内ページです) 】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?