見出し画像

僕と彼女の宇宙旅行【連載小説#5】

#5 惑星

『大気圏突入まであと2分。椅子に体を固定して下さい。』

 大気のある星への突入時の衝撃は凄いものだ。
 大気の質によっても違うが、ミステリーツアーで訪れる環境の良い星たちは、しっかりとした大気が存在する。そして、宇宙空間と惑星の境目に突入した。

ー ごごごごごおおおお ー

 鼓膜が破れそうなほどの轟音を鳴らしながら、星の中心に向けて降下する数分間。宇宙空間へ脱出する瞬間よりも緊張感がある。

 突入時の圧力を感じながらも、どこかでそれも終わりを迎える。惑星へ突入する衝撃がある時ふと消え、全く違う感覚へと切り替わる。大気圏を突破し、星の重力を感じる瞬間だ。地表へ向かって空気の重みを感じ始める。

 それが大気圏を突破した瞬間なのだ。

「ここかぁ。綺麗な星ね。」

 レイニーはヘルメット越しに語りかけてくる。

「そうだね。データが来たよ。もちろん空気がある。人が住んでる地域もあるって。」
「ほんとだ!どっか街の近くに降りようよ!」
「よし、地図からだと、あの山に着陸できるスペースがありそうだな。」
「そこでいいや!いこいこ!」

 ほぼほぼ進行方向の山岳地帯の先端に、三方が海に囲まれた半島になっている場所に街がある、と出ている。そこに行く事にした。

――――――――――

 さっそく宇宙船を出た。服も着替え、なるべく仰々しい宇宙服は着て歩かないのが、ツアーの暗黙の掟となっている。

「はぁ~空気がいいね。」
「緑豊かだもんね。レイニー。街はこの道を左に下ったところにあるみたいだ。もうすぐ見えてくるんじゃないかな。」
「ホント!いこいこ!初めての街に!」

 ワクワクしながら街に降りていこうとした。すると、森林豊な山道を蛇行しながら下っていると、馬に乗った兵隊のような人に出くわした。

「お前たち。ここで何してる。どこから来た?」
「僕たち、こういう者です。」

 渡航許可証とツアースタンプ帳。
 この二つは、旅行可能な場所であれば、どこでも通用するよう共通のものとなっていて、所謂パスポート的なものだ。個人情報も詰まっていて、渡航可能な星ならどこでも入ることが出来る。

 その二つを見せれば通行の許可が出る、はずだった。

「待て。何なんだこれは。こんなもの何の証明になる。お前たち、どこの者だ。」

 いつの間にか、僕たちは囲まれていた。武装した兵隊たち10人はいる。

「えぇ!ほら、許可証とスタンプ帳。通行許可出てるでしょ!調べて!」

 僕は必死に訴えかけた。この二つのアイテムが通用しない場所なんて知らない。そもそも、行けるはずがないから。それに明らかな敵意を感じ、だんだん足がすくんで来ているのがわかる。

「だから、それは何なんだ。意味のわからない物で、ごまかそうってことか。舐められたもんだ。捕らえろ。」
「はい!お前、大人しくしろ!」

 あっという間に、兵隊に取り押さえられ、捕らえられてしまった。

 ミステリーツアーで捕まるなんて聞いた事が無かった。彼女もさぞ怯えているに違いないと思い声を掛けたのだが、

「レイニー、大丈夫。僕たち何もしてないし......あれ?」

 レイニーはそこにいなかった。僕一人だけが取り押さえられ、彼女の姿はなかった。林になっている木々の向こう側でチラッと人影が見えた気がして、きっと彼女は察知して隠れられたのだと気付いた。

「レイニー?誰だ?他に人がいるのか?」
「あ、ああ、いや、レインレイン!雨降って来そうだなーと思って。」
「は?何を言っている。今日は快晴だ。くだらない事言ってないで、来てもらおう。」

 いつの間にか前で手首を縛られ、抜けられなくなっている。行き先無しの宇宙旅行に出て、行き着く先が牢屋なのか?と鬱々としながら、しばらく歩かされ、石造りの施設に拘留されることになった。

「おいおいおい、何だよこの展開は。ツアーで来ただけなのに、どうすればいいんだ...。」

つづく

T-Akagi

【 つづきはこちら(note内ページです) 】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?