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宇宙漂流お父さん First Contact【連載第一弾#5】【シリーズ#8】

宇宙漂流お父さん First Contact⑤

「嘘だろ...このままじゃ帰れないじゃないか...」

 そこにあったはずの木造の扉が消えてしまっていた。
 確かに扉を通って宇宙船からこの星に降り立った。扉がなくては、宇宙船に戻る方法がない。
 ショックを通り越して、茫然としてしまっている。

 宇宙船とこの星の位置関係さえもわからない。
 もし、この星に宇宙開発の技術があったとしても、扉無しに戻ることは出来ないだろう。

「どうする...」

 そもそもあの扉はなんだったのか。
 突然ドッキングして来た謎の宇宙船にあった棚の扉だ。

 その扉が何であるか説明はできない。それが空間を超えて通れる扉だったとしても、その扉がずっとこの場所と宇宙船を繋いでいるとは限らない。

 しまったなぁ…。
 完全に私のミスだ。これくらいの事は予想できていたはずだ。

 ナルサスに降り立って、『ちょっと街を見てみたい』『何か手掛かりがあるかもしれない』と思ってしまった。
『ここが地球かもしれない』とも思ってしまったから、仕方がなかったか。

「還れないのかな...」

 もうどこに地球があるかもわからない。
 地球よりも綺麗で澄んだ空を見上げて、今一度故郷を想った。

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 昼も夜もなく、ナルサスの街は活気に満ち溢れている。
 さっきお別れしたばかりでもう戻って来るはずはないと思っていたのに、またここにいる。

 街に戻る前に、周囲の原っぱを歩き回ってみたが、木の扉は欠片さえも見つからなかった。

 海から離れて森が見えて来た所で、諦めて帰って来る事となったのだ。

「もう一度、ここでお世話になるか...。」

 昼時は過ぎているだろうか。
 先程まで通るのに苦労したメインストリートは、少し人が減っていた。

『どうです、美味しい魚入ってますよ!』
「あぁ、食べたいんだけどね、ちょっと持ち合わせが無くてね。」
『そうですか、また今度!その時々でいいもの入ってますから!』

 最近ではあまり見ないタイプの魚屋だな、と思いにふけっていたが、今の会話でもわかるように、私にはこの国のお金がない。

 どんな国どんな星でも、やはり通貨は存在するようで、この活気のある市場を満喫とは行かないようだ。

「それより、どうしよう...」

 それほど体力のある方ではない。何しろそこそこの歳だ。

 宇宙船内で鈍らないように、最低限の運動はしていたが、この星に来てからというもの、久しぶりの喧騒に疲れが溜まっているような気がする。

 うろうろと街を歩いていると、入口付近に金属製の釣り看板に「森のクラゲ亭」と書いてある。宿だろうか。

- チリーン -

 石造りの建物に木造の扉。いかにも中世欧州の雰囲気が漂っている。
 入ったはいいが、もちろん手持ちのお金はない。
 ダメ元でお願いしてみるしかない。

『いらっしゃい。何の御用で?』

 50歳くらいには見える男が声を掛けて来た。多分、この宿の従業員だろう。

「泊まる所を探してて。ただね…。」
『ただ?なんです?』
「宿付きですぐ働ける所を探してるんですよね…」

 さすがに、お金がないのに泊めてくれ、とは言えなかった。
 しかし、どうだろう。その従業員は意外な事を言って来た。

『あんた、金がねえんだろ。』
「えっ、あ、あぁ、はい。」

 どうやら、一文無しなのはバレていたらしい。
 なぜだろう…。服装はおかしいかもしれないが、財布を出しているわけでもない。

 次の一言で、何故バレていたかはすぐにわかった。

『昨日、手錠掛けられて連れてかれるの見たんだよ。今朝も外に出ていく所を見かけた。』

 なるほど。それで今ここにいるんだから、文無しなのは簡単にバレるよな。
すると、意外な返答をもらえた。

「困りましたよ。ここ来たのも初めてでして...。」
『仕事あるよ。安い給料だけど。ちょうど人探してる人がいるんだ。』
「本当ですか!?」
『あぁ、その人が来たら声掛けてやる。あと、泊ってくなら狭い部屋だが貸してやるよ。』
「わぁ、ありがとうございます!ただ、そのホントにお金ないので...」
『宿代は、まぁいらないよ。部屋綺麗に使ってくれればそれでいい。』

 驚いた。どこの誰かもわからない客に、なぜここまでしてくれるのか。
不思議に思ったが、頼るしかない。

 働き手を探している人が来るまで、まだ時間があるような事を言っていた。
 しばらく、フロアで待たせてもらう事にした。

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 何時間経っただろうか。
 もう夕暮れ時になったが、従業員からの声はかからない。
 だが、わがままを言えるような立場ではない。

「ちょっと外の空気吸ってきますね。」
『はいよ。』

 宿は宿泊だけではなく、入口フロアに飲食スペースもある。
 この時間になると、仕事を終えた男たちが一杯引っ掛けに来るのだろう。
 それまで、空いていたテーブルやバーカウンターの席が埋まって来た。
 さすがに、何も飲まず食わずで居づらくなってしまった。

「昨日よりも涼しいか。ここにはどうも四季があるのかもしれないな。」

 従業員が暇そうなタイミングで、少しこの辺の事について聞いた。

 ここの国はニビアナルサスという街である事は間違いないらしい。
 この港町は城下町でもあり、山の上に城が立っている。
 僕が拘束され連れて行かれたのは、城を下った所にある一時的に拘留するような簡易な施設だったという。

 城のある山頂を境に、反対側にも街があり、その街に行くには山を海沿いにぐるりと回る必要があるそうだ。
 反対側の城下町はカザンという。
 城下町が二つあるが為に、それぞれの街はライバルのような立場にあるそうだ。

 ライバルといっても仲が悪いわけではないが、遠方から来た旅人なんかがどちらに泊まるか迷うほど街の発展を競い合っている。
 特に、三年に一度、同じ時期にそれぞれの街が主催するフェスティバルが3ヶ月に渡り行われ、お互いの街の往来が多くなるそうだ。
 二つの城下町で行われるフェスティバルの通称はキャッスル・タウン・ミーティングと言われていて、ニビアで一番盛り上がる大イベントなのだ。

 そして、今まさにそのキャッスル・タウン・ミーティングの真っただ中で、人の往来が増えている時期だそうで、怪しい者もたまに紛れてい入って来る事があるようだ。
 それで、ちょっとした事で僕が怪しまれたんだろう。

「賑やかな理由はそういう事だったんだな。楽しそうだし、家族と来たいもんだ...。」

 地球に戻れるかもわからないのだが、地球との往来が出来る技術があるのなら、是非とも旅行に訪れたい素敵な街だ。
 だが、まず帰る事を考えて行きたい。それだけは確かだ。

 しばらく、街の人の往来を見ていると、中からコツコツと窓をノックする音が聴こえた。

 親切にしてくれている従業員だ。
 どうやら、件の人が現れたんだろう。

 すぐ中に入り、従業員が指差す方にいる人に声をかけた。

「すいません。働き手探してるって聞いて。」
『はいはい。聞いてるよ。じゃ、行こうか。』
「えっ、あ、もうですか。」
『誰にでも出来る事だから。とりあえず来てくれるかな。』
「わかりました。ちなみに、何するんですか?」

 さすがに、何をするかは聞いておきたい。
 見知らぬ街で、初めて会った人について行くわけだし。

『えーっと、まぁ、大丈夫大丈夫。ついて来てー。』
「えー?!」

 聞き返す暇もなく、スタスタと宿を出て行ってしまった。

『荷物預かっておこうか?』

 親切な従業員が一声かけてきたが、

「大丈夫です!ほとんど何も持ってないんで!いってきますー!」

 従業員の更なる親切はお断りして、見失う前に慌てて宿を出て、割と早歩きの男の背中を見失わないように、必死でついて行った。

 そして、連れて行かれた場所がどこだかわかった時にはさすがに驚いた。
 なんと今朝出たばかりの牢屋がある施設だったのだ。

『じゃあ、これ着て、上に立っててくれればいいから。』
「え!?これって鎧...。どういうこと?」
『ほら、今タウンミーティングやってるでしょう。今日どうしても行きたい所があるんだけど、誰も変わってくれないのよ。だから、よろしく!』
「いやいや、衛兵の仕事なんて出来ないですよ。」
『いけるいける。今日はみんなイベント行っててこの辺には人が寄り付かないから。じゃーねー』

 鎧と一緒に見た事のない硬貨を雑に投げつけて走って行ってしまった。

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

「重い...。動きにくい...。本当にこれでいいのか...?」

 入口に一人突っ立っているだけ。
 武器も持たされたが、使い方さえわからない。

 いい時間だし、少し離れた所に見える街が賑わっているのが視界に入って来る。

「いいなぁ。って言っても、遊んでる余裕ないけど。」

 独り言を言って、一人寂しくなってしまう。

「明日、もう一度、扉を探してみるか。」

 この後いつ来るかもわからない、仕事をほったらかしていった衛兵を待ちながら、明日の事を考えていた。

 すると、意外な人物が声を掛けて来た。

『おい、ここで何をしているんだ。"地球人"。』

 声を掛けて来たのは、衛兵総長のサトーだった。

T-Akagi

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