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高岡詠子「チューリングの計算理論入門」

量子コンピュータについて、その可能性と将来性、現在のコンピュータでできないことがどのようにできるようになるのか、そこを解ろうと思ったら現代のコンピュータの限界を正しくわかる必要がある。

では、今のコンピュータとはどういうものなのか、というと「チューリング・マシーン」、まずはこの概念に触れて親しむ必要がある。

また、現在のコンピュータ限界と量子コンピュータの優位性を論じる際に出てくる「決定問題」「計算量問題」についてわからなければ、量子コンピュータの何がどこがすごいのか、理解できないことだろう。巷の話題に振り回されずに心の平安(*1)を保とうと思えば、計算理論に親しむのがよい。

チューリングは、今で言うソフトウエアという概念を考えだしました。この本で紹介する、チューリングの『計算可能数とその決定問題への応用』が出版された1930年代に、ソフトウエアを入れ替えて、1台の機械にさまざまな計算を行わせるという考え方はとても斬新だったのです。

高岡詠子「チューリングの計算理論入門」
まえがき p.4

というわけで、今週末は講談社ブルーバックスの「チューリングの計算理論入門」を読んだ。


数学やコンピュータ・プログラミングになじみのない層にでもわかりやすいように、と工夫して丁寧に解説されている。私のようにちょっと齧った人には、少しもどかしく感じながらも「あーなるほど、そういう見方もできるか!」という気付きもいくらかあるに違いない。

ただ、その分、決定問題や計算量の理論の解説、さらには最近の話題でもある因数分解の難しさや暗号の理論や仕組み、がちょっと薄く、もやっと感が残ったように思う。かといってこの辺の抽象的な理論はあまり厳密にやられても「入門」にならないので、そのへんのバランスは難しいところだ。60分の講義で、一般の人の興味をひくようにと丁寧にわかりやすく、時にはシャレを交えて導入を話しているうちに50分経過、あとの肝心なテーマは駆け足でスライドスキップしながら10分、というそんな感じになっているように思った。

とはいえ、アルゴリズムってなんだろう、デジタルってなんだろう、情報ってなんだろう、と思う人は本書を手に取ってみるといいヒントが得られることだろう。

それにしても、最先端の科学の知識を第一線の研究者が、自国語でわかりやすく解説してくれる、そんな本が手軽に簡単に手にとれるというのは、やはり日本にいるからこそ、のことだろう。

世界には、本も絵本も見たことがない、という子供や大人がたくさんいるというのに。


日本は書の国である。


情報と言語、通信、計算。デジタルとは、割り切りと切り捨てと熱い心。恐ろしいことだ。(*2)


■ 注記

(*1) 心の平安を保つ一番いい方法は、数学をよく知ることではないか、と最近、なんとなく思ったりする。

(*2)


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