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医師の勉強録;脚がむくまない??。宇宙での循環器系変化:体液シフトについて

宇宙では体液が頭側へ移動します。それによって、顔のむくみ、嗅覚低下、めまいなどが生じている可能性があります。地上でもフレイルなどの病態解明や治療開発に利用可能かもしれません。

夕方になると足がむくむ

仕事をしていると立ち続け、座り続けることが多い場面があります。
そんな時、夕方ごろになると靴が小さくなったような、、、
靴下の跡がびっしり、指で押すと跡が残る。
そうです。むくみです。
医学的には「浮腫」という言葉を使います。
なぜ夕方なのか。様々な理由がありますが、1番大きな理由の1つに、
「そもそも重力が働いていること」
があります。
では、その重力がない場合は、、、、どうなるのでしょうか??

そもそもむくみとは

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https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpn/advpub/0/advpub_rv.2020.0002/_pdf

体を構成する組織の水が異常に増えた状態を一般的に
「浮腫=むくみ」といいます。
多くの場合が細胞の周りの細胞外液という液体が異常に増加した状態です。
細胞外液は毛細血管を流れる血液からしみ出してきた液体成分(水分など)で、多くは毛細血管で再度吸収され、
一部はリンパ管を通って最終的に静脈へ流れます。
静脈やリンパ管の流れが滞ると細胞外液が増加します。
むくみは全身に起こりうる状態ですが、
重力の影響で心臓より下にある足は他の部位よりも
むくみが出やすい場所です。

宇宙での体液循環動態

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Fluid shifts caused by space flight. From "The Bone"(Vol. 11 No.2 1997.6) Medical View Co., Ltd.
https://science.nasa.gov/science-news/science-at-nasa/2002/25mar_dizzy

微小重力環境では下肢の体液は約1~2L程度体の上の部分へ移動します。
これを「体液シフト」と言います。
体液シフトにより、頭や顔のむくみや鼻づまりが生じるなどの
症状が出てきます。
体液シフトに伴い心臓へ戻っていく血流量が増大します。
すると利尿を促すホルモンが分泌され
(体内の水分量を感知する装置が勘違いするため)
尿量は増加しむくみを減らすように働きます。
また、腰骨の間にある椎間板もむくむことで、身長が伸びます。
地上に帰還する時には、重力により体液が
下半身に急激に移動し、貧血や失神(起立耐性低下)が生じます。
加えて体液量も減少していることも上記症状に拍車をかけます。

体液シフトの対応策

・毎日2時間半の運動
・帰還直前に体に吸収されやすい飲料水を1~2L飲用する、
・帰還中は耐G服を着用し足を圧迫する
などが行われていますが宇宙へいった当初からの対応や地上への
帰還時に完璧な対応は現状できません。

体液シフトによる諸々の影響

・顔面、腕がむくむ
・椎間板が広くなり、腰痛の原因になる可能性
・鼻腔の細胞もむくむことで嗅覚が低下する可能性
・尿量が多くなる
・宇宙酔いの原因の可能性
などがあります。そのほかにも無数の課題があるとされています

地上での微小重力状態の再現

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https://www.jstage.jst.go.jp/article/ijmsa/31/2/31_45/_pdf Int.
J. Microgravity Sci. Appl. Vol. 31 No. 2 2014 (45-46)

「パラボリックフライト」
飛行機を放物線状に急上昇させて頂点で自由落下、
微小重力空間を20秒ほど生み出す方法です。
「ベッドレスト実験」
頭を6度下げた状態のベッドに寝ることで、
宇宙同様に体液を頭や胸に移動させる方法です。
身長も体重も寝たまま測り、食事も寝たまま取ります。
1年以上寝たままで過ごす実験もロシアでは行われているとかいないとか。
「水浸法」
水の浮力や水圧を利用した実験です。

地上での適応可能性

「ベッドレスト実験」にあるように地上における寝たきりの
高齢者に対するフレイルの病態解明や治療に繋がる可能性
があります。

まとめ

体液シフトから様々な課題があることがわかってきました。
地上でも課題解決につながるため、今後の更なる研究が待たれます。

【参考文献】
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpn/advpub/0/advpub_rv.2020.0002/_pdf
https://www.nasa.gov/content/fluid-shifts-study-advances-journey-to-mars
バイオメカニズム学会誌,Vol. 34, No. 1 (2010)
循環制御 第 36 巻 第 2 号(2015)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits1996/10/9/10_9_33/_pdf
Jpn J Rehabil Med 2009 ; 46 : 753.786
宇宙航空医学入門 単行本 – 2015/11/1 緒方克彦 (著), 藤田真敬 (著)
Int. J. Microgravity Sci. Appl. Vol. 31 No. 2 2014 (45-46)
https://science.nasa.gov/science-news/science-at-nasa/2002/25mar_dizzy




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