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「26年も続けてるのに、まだ難しいな…。」

昔、ヨーロッパのパティスリーで働いている時、そのミルフィーユの美味しさに感動した。

ザクザク、ほろほろのパイ生地に濃厚なバニラのクリーム。

毎朝、ミルフィーユの仕上げ担当だった僕は、切れ端を爆食いしていた。
幸せな仕事だ。

思い返してみたら、この仕事を始めた1年目は業務用のパイ生地を仕入れて、それでお菓子やデザートを作っていたな。

忙しい都会のホテルだったから、一から手作りはできない環境だった。
パイ生地の作り方なんて知らなかった。

当時のシェフに、
「パイ生地ってどうやって作るんですか?」と聞いたら、
後日、仕事が終わった夜遅くから教えてくれたことがあった。

「えっ⁈こんなに手間がかかるのか!」

驚いたな。

あれから26年経っても作り続けているパイ生地は、そのシェフから教わったレシピそのままだ。

小麦粉とバターの比率、材料それぞれの役割。
シンプルなレシピなんだけど、フランス菓子の奥深さを知った。

残念ながらそのシェフは若くして亡くなってしまったが、教えていただいた時のシェフの真剣な表情や声のトーン、言葉まで鮮明に覚えている。

1年目の若造なんかに丁寧に教えていただき、
本当にありがとうございました。

パティスリーでショーケースに並んでいるミルフィーユは、結構ボリューム感があってクリームも濃厚、生地もインパクトのあるザクザクしたものだ。

しかし。

レストランでゲストに食べていただくミルフィーユは魚や肉をたくさん食べた後なので、極限まで軽く、口溶けのいいものにしたい。

お皿の上でストレスにならないように。
フォークを入れるとサクッと崩れる。

そう、千枚の葉が崩れるように…。(詩人かよ)

そこでバターを折り込む回数や、オーブンでの焼き方に変化が必要になる。

ここで悩み、試行錯誤が続く。

層を少なくするのか多くするのか、浮かせるのか、密にするのか?
軽くはかなく、それでいて香ばしく焼き上げるには?

ついには夢にも出てくる。

そして頭の中で何十回もシュミレーションして、いざ折り込み、焼成と向かう。

全然違うな。

いい感じだな〜。

あれ?前回はうまくできたのに?

よっしゃー!美味しく焼けた!

日々こんな感じの繰り返しで、26年が過ぎた。


「もうこの仕事26年も続けてるのに、まだ難しいな…。」

「だったら折る回数を変えて、焼き方をこうすればいいんじゃないか?」

なんて若いスタッフとあーでもないこーでもないと議論する時間は嫌いじゃない。(いや、大好きだ!)

パイ生地って難しいし、面白いねって話。

うん、男前だ。

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