趣味のデータ分析044_子どもを持つということ⑩_子なし夫婦でいいじゃない
041、042、043で、結婚と出産(子持ち希望や妊娠含む)の相関について確認してきた。結果、
・結婚願望(更に既婚か未婚か)と子持ち希望に強い関係があること
・結婚するきっかけで子どもを明示的に挙げる人は50%程度に留まる
・デキ婚は減少傾向。同居開始と妊娠のタイミングはズレが大きくなっている。
ということが確認できた。当初は結婚と出産に強い相関が窺われたが、結婚するきっかけとデキ婚からみるに、相関は思ったほど強くない。
今回は、結婚と出産の関係について、更に心理的側面からデータを見てみる。思ったよりこの話、長引いてしまった。
結婚にメリットはあるか?
まずは、結婚のメリットを人々がどのように感じているのか、というところを確認しよう。ゼクシィ結婚トレンド調査の「結婚のきっかけ」と似たような選択肢なのだが、未婚者への質問であるというのが異なる点である。
さて、結果は下記で、「自分の子どもや家族を持てる」というのが特に注目したい選択肢。時系列で変動はあるが、男性では30%前後で2位、女性では40~50%で1位安定である。子ども・家族の存在は比較的重要視されているといえるが、いまいち決定打感はない。ゼクシィの調査と同じ感じである。
ちなみにこれは、「結婚にメリットがある」と回答した者が、最大2つまで回答できるというもの。なお、そもそも結婚にメリットがあると感じている者は、全体の60~70%くらい=30~40%はメリットがないと思っている(図表2)。結婚意思が高くない者は(高く見積もって)40~50%程度なので、まあそんなもんだろう。
DINKsや未婚の母は受け入れられているのか?
つぎに、結婚と出産に相関がある「べき」か、についての考え方を見てみよう。これについては、複数の調査があり、よって質問の仕方もそれぞれ若干異なっているので、順番に見ていきたい。
まずは内閣府の男女共同参画社会に関する世論調査から。1992年から2009年まで間欠的に行われただけの調査だが、意識調査としては数少ない公的調査である。「結婚しても必ずしも子どもをもつ必要はない」という問いかけについて、意識に経時的な変化は小さく、反対する人は50%強、賛成する人は40%前後である。
ただ、この調査は年齢での差が大きい。2009年時点では、20代では60%超が賛成だが、70代以上では70%が反対で、年齢に応じてきれいなX字になっている(年齢別は2002年以降で取得可能だが、こっちも経時的な変化はあまりない)。また、女性の方が全体的に子どもをもつ必要はない、と考える割合が多い。さもありなん、というところか。
次に取り上げる調査はNHKである。1973年以降、5年おきに同じ質問で意識調査を行っている。クロス分析が一切できないのだが、時系列はこっちのほうが長い。質問は、「結婚しても、必ずしも子どもをもたなくてよい」、「結婚したら、子どもをもつのが当たり前だ」のいずれに考え方が近いですか、という形。結果は図5である。
NHKの調査では、結婚しても子どもをもたなくてよい、という考え方について、2003年以降は「子どもをもたなくてよい」という考え方が多数派になっており、内閣府の図3とはやや齟齬がある。さらに2013年、2018年ではそうした考え方が更に伸びており、2018年では6割が結婚しても子どもをもたなくてよい、と考えている。
また、この調査でも性別年齢別の差が大きい。2018年しかないが、結果は図6。年齢が若いほど子どもをもたなくてよい、という考えの人が多く、また女性の方が子どもをもたなくてよい、という人が多い。このへんは内閣府の調査と同じ。調査結果の差は、時点の差もあるが、調査対象の差によるのかもしれない。
3番めは、博報堂の生活定点。この調査では、子ども関連の質問が3つある。順番に見ていこう。まずは上と同じ、結婚して子供がいなくてもかまわないと思う人の割合の推移である。
2014年以降とここ10年弱での変化だが、全体で50%から70%弱(1.4倍)と、明確に既婚子無しで構わない、という人が増えている。他の調査との違いは、年齢ではなく主に性別で「構わない」と考える比率が異なり、女性は総じて高く、男性の方が低い。年齢については、むしろ男女ともに、20代が若干低いくらいである。
次の質問は未婚子持ちに対する考え方。
ある意味でさっきと逆の質問だが、未婚で子供がいても構わないと思う人が27%から36%へと、全体に増えてはいる(1.3倍)ものの、比較的勾配はやや緩やか。50~60代が男女ともに気にする人が多いが、男女年齢による違いも明確ではない。むしろ30~40代の女性が全体を引き上げてるだけで、20代の男性は60代に比肩するレベルで「構う」割合が多い。
最後はデキ婚に関する考え方。
これも、全体に48%から55%へと構わないと思う人が増えてはいる(1.14倍)ものの、勾配はさらに緩やかである。また、男女年齢の差は更にわかりにくい。30~50代の女性がより寛容で、20代の男性が最も「構う」人が多い。
図7と図8で、20代男性が特に保守的(とあえて表現するが)なのは興味深い。この調査が都市圏(首都圏40km、阪神圏30km)で実施されているのと関係があるかもしれない。
最後はいつもの出生動向基本調査である。年齢別性別未婚既婚別の調査が、複数の質問事項で取得可能。時系列も豊富。ていうかこの調査だけで良かったかもしれない。ほんとこの調査は使える。だからさっさと2021年の詳細を出せ(補足)。まずはざっくり性別のデータから確認する。
まず「結婚したら子どもはもつべきだ」に関する1992年から2021年までのデータ。未婚男性の水準が若干高く、未婚女性が低いが、既婚も合わせほぼ同じ。1992年から1997年に急落し、しばらく横ばい、そして2021年に再度急落している。
もう一つの「結婚していなくても、子どもをもつことは構わない」は、2010年以降の3回分しかデータがないが、未婚既婚に関わらず、2010年、2015年はほぼ同じ水準、そして2021年になって賛成派が急上昇している。035の結婚意思のところもそうだったが、2021年のデータの外れ値感がすごい。あるいはコロナで何らか意識変容があった可能性は当然あるが、生活定点ではそこまでの傾向は見られない、というのも謎である。
では、年齢別の推移も見てみよう。なお、1992年と2021年はデータがない。
結婚したら子どもを持つべきという者の割合は、特に30代未婚女性で減少傾向にある以外は、年代別の目立った傾向や年代の高低による偏りは見られない。
最後は結婚していなくても、子どもを持つことはかまわない、という考え方への賛否の割合。
2年しかない上に、ほぼ傾向的なものはない。若い人のほうが賛成が少ない傾向はありそうだ。
まとめ
結婚と出産の関係についての検証で、今回は結婚のメリットとして子どもを持つことがどれくらい挙げられているか、そして子どもをもたない結婚等に関してどのように考えるか、というアンケート調査を検証してみた。
まず結婚のメリットとして子どもや家族を持つことを挙げる人は、全体的に多いとは言えるが、せいぜい30~50%程度で、圧倒的というわけでもない。
結婚しても子どもをもたなくても良い、という考えに賛成する(あるいは逆に、結婚して子どもを持つべき、という考えに賛成しない人)は、調査ごとに強弱はあるが、趨勢的に増加しているようだ。足元では、少なくとも世の中の50%位の人は、子供のいないままの結婚生活について寛容であると思われる。また、この考え方の年齢別の違いはまちまちで、若い人のほうが寛容、とは断言できなそうである。ただ、女性の方が全体的に寛容であるとは言えそうである(自分の性の体の話でもあり、そのある種の不条理性を体感しているので、当然といえば当然かもしれない)。
また、未婚子持ちについても、足元では寛容化の傾向にあるようだ。ただ、こちらは年齢性別の違いは更によく分からない。
さて、036では、理想/予定のライフコースのデータにおいて、DINKsを理想とも予定ともしない人が大宗であることを確認したが、世の中的には受け入れられてはいるようである。一方で、現実としては、041でみたとおり、結婚したい男女の多くは子どもを持ちたいと思っているし、既婚女性も同様の希望を持ち、実際に(望むほどの数ではないにせよ)子どもを産んでいる。
この差は何を意味するのか?ちょっと長くなったので、次回、これまでのデータを概観しつつ、判明した点を整理する。
補足・データの作り方等
今回の出所は出生動向基本調査、内閣府の男女共同参画社会に関する意識調査、NHKの日本人の意識調査、博報堂の生活定点。NHK以外は全て過去一度は使用したデータセットだが、ざっくり触れておく。
まず内閣府の調査だが、内閣府が色々やっている世論茶差の一環の調査で、男女共同参画社会にフィーチャーしたものである。ただ、このタイトルでの調査では数年おきだが経時的にずっと行われているものの、結婚と子どもに直接関連した質問を設けているのは、掲載の通り2009年までで、それ以降は別の質問に置き換わっている。こんな事を言うのもアレだが、全サンプル数が3,000程度しかなく、細かく仕分けるとサンプル数が少ないな、という感じもするデータセット。そもそもちょっと時代を遡るとエクセルデータがないというのも使いにくいやつ。
NHKの日本人の意識調査は、1973年から5年おきに、世の中に関する様々なアンケートを、同じ質問事項で調査し続けているという骨のあるデータ。有効サンプル数は3,000弱とかなのでこちらもサンプル数に不安がないわけではないが、質問事項が同じという意味では経時的な信頼性は高い。質問が多岐にわたっている分、特定事項を深掘りすることはあまりできないが、ざっくり「世相」の移り変わりをみる分には悪くないのではないか。これも基本的にエクセルがない上、そもそもデータの表形式でのがすごく大変なのが玉に瑕。
博報堂の生活定点は、1992年から2年おきに、こちらはNHK以上に多岐にわたる事項についてアンケートを取っている。調査対象が、首都圏と阪神圏という偏りがあるものの、一応サンプル数は計3,000あるし、調査項目は超詳細で頻度も高い、というおすすめデータセット。質問項目が時々切り替わっているので、すべてを平成初期まで遡れるわけではないが、NHKの世論調査、内閣府、博報堂の3つを使用すれば、一般的な世相をみるには十分だと思うし、中でも生活定点は、データの取得しやすさも含め図抜けている。
最後、出生動向調査については、なんといつの間にか2021年の詳細報告が公表されていた。どうやら8月31日に公表された模様。データ類は8月30日までに整理し終わっていたので、気づかなかった。今回は、もう整理が面倒なのでそのまま掲載することにするが、これ、全部もっかいデータ追加しないといけないな!(歓喜)
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