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趣味のデータ分析043_子どもを持つということ⑨_出来ちゃったから結婚する?

042では、結婚と出産の相関に関する問題意識を整理した上で、041を受ける形で、結婚と出産の相関が強いことを確認した。今回は、引き続き結婚と出産に関する相関関係を確認する。
未婚者で結婚意思のない者はほとんど子どもを望んでいないし、結婚意思が強ければ希望子ども数が多いし、既婚者の子ども希望数はそれをさらに上回るし、婚外子はほとんどいないし、結婚と子供の相関は自明であるように思えるが、そうでもないデータもある。ここではそれを検証していく。

なぜ結婚するのか

まず今回は少し目線を変えて、なぜ結婚するのか、というデータから見ていこう。ごく基本的な調査に思えるが、いつもの出生動向基本調査にはない…というか公式統計に無いように思われる。ここでは、ゼクシィ結婚トレンド調査から確認していこう。

図1:結婚を決めた理由
(出所:ゼクシィ結婚トレンド調査)

複数回答ありで、かなり多くの選択肢があるので、ここでは最も回答数が多かった選択肢と、子どもに関連する選択肢のみ抜粋した。最も多いのは「将来を生きたい」というもので、(将来的に)「子どもが欲しかったから」というのは4割程度である(回答順位は3位なので、低くはない)。これは質問の仕方にもよる(質問票は公表されていない)が、「その人と結婚を決めたきっかけ」を聞いている(あるいは聞かれていると受け止めた)場合、「子どもが欲しかったから」という理由は、「その人」である理屈に乏しい感じがして、あまり選ばれなかったのかもしれない。選択肢から、子どもを作れるなら誰でも良かった、というニュアンスを感じ取ることも不可能ではないからだ。
また、実際に子どもができたから結婚、つまりデキ婚(授かり婚)というのは5%にも満たない。より正確に言えば、少なくとも「だから結婚した」という合理化はなされていない。上と同様、子どもができたのは、結婚のタイミングの一つだが、そうでなくともその人と結婚しただろう、という状況であり、「決めた理由」としては挙げられなかったのではないか。
若干言い訳がましいことを書いたが、既婚者の95%が一人以上の子どもを望んでいる(図2)一方で、「結婚を決めた理由」の中では、データを素直に見る限り、子どもの存在は必ずしも大きくない。せいぜい50%を占めるのみである。

図2:既婚女性の理想子ども数の構成比
(出所:出生動向基本調査)

デキ婚は減少した?

さて、デキ婚に関して少し言及したので、次はデキ婚の状況を見てみよう。結婚のきっかけとしては5%以下しかないが、デキ婚の数自体はどうなのだろうか?以降の分析は、目線を含めほぼ全面的に令和3年人口動態統計特殊報告による。

さて、デキ婚とはどういうことか。妊娠してから結婚を決めたカップル、ということだろうが、データ分析的には、「結婚届提出後10ヶ月(300日)未満で子どもが産まれた夫婦」と仕分けて集計できそうだ。ただ残念ながらこうした統計は存在しない。取得できるのは「同居を始めたとき」を起点とした場合の統計(正確には、結婚式をしたときまたは同居を始めたときの早いほう)で、その場合の「デキ婚で産まれた子どもの割合」は下記のとおりになる。

図3:結婚期間が妊娠期間より短い出生数が嫡出第1子数に占める割合
(出所:人口動態調査特殊調査)

やや意外だったが、デキ婚の割合は、2002年をピークに減少傾向にある。一つは、もともとデキ婚率の少ない30歳以上での第1子数出産が増えたことが、デキ婚全体の割合減少に貢献しているのだろうが、もう一つ、20~29歳でのデキ婚増加傾向(特に20~24歳での急増傾向)が、2007年前後でピークになり減少傾向にあることが要因だろう(そもそもなぜ30歳以上ではデキ婚が少ないのかも若干不思議)。
また、デキ婚関係で面白いのは、同居期間別出生構成割合の分布。グラフは下記になる。

図表4:第1子出生までの同居期間別に見た出生構成割合
(出所:人口動態調査特殊報告)
図表5:第1子出生までの同居期間別に見た出生構成割合(累積)
(出所:人口動態調査特殊報告)

1975~1995年までは、構成割合は同居開始後8ヶ月から9ヶ月で急上昇し、10ヶ月を頂点とした数カ月を裾野にした、大きな山があった。また、50%前後は1年前後以内で出産までこぎつけている。つまり、同居開始→10ヶ月の妊娠→出産、というのが基本的な流れだったことが窺われる(平均妊娠期間は10ヶ月ではなく10月10日、つまり280日ではあるが、この辺は適当にしておく)。しかし、デキ婚が最も多かった2005年以降には、この山は驚くほど完璧に消滅し、6ヶ月を頂点にした山が最高峰の山となる。妊娠検査薬等で妊娠が確認できた時点で、妊娠2ヶ月目に入っており、お互いの両親への挨拶や同居準備など諸々済ませ、その後2ヶ月で入籍、つまり妊娠後4ヶ月で入籍=同居開始をするのが、いわゆるデキ婚の典型とすると、同居開始後6ヶ月前後での出産の山は、まさにデキ婚を表す山と言えるだろう。ただ、6ヶ月目の山は、1985年から目立ってはおり、その後20年間で成長はしたが、せいぜい4%から6%への成長であり、山としての見栄えは、かつての10ヶ月の山には到底及ばない。
さらに、この6ヶ月の山すら、2005年以降どんどんと低くなり、2015年以降は、1985年当時よりも山は低くなる。ここは、図3で示したデキ婚率の低下とも平仄が合う。最終的に、2019年時点では、同居開始後6ヶ月程度での丘以外は目立った凸凹もなく、8ヶ月目の谷とそこからの若干の上昇以降は、分厚いテールが伸びているのみである。50%が第一子出生するまでの同居期間は、2年まで長期化している。全体を整理すると、
同居開始→10ヶ月の妊娠→出産という昭和の流れは、平成に入って以降大きく崩れ、2005年以降は、同居開始後6ヶ月での出産=デキ婚がメジャーになる。
・しかし2015年以降は、デキ婚の山ですら目立たなくなる。丘程度の盛り上がりは確認できるものの、テール部分も分厚くなって、全体的に凸凹のない形状となっている。

さて、このデキ婚減少問題については、下記のブログ記事に言及がある通り、起点が同居等であるうえ、同居(同棲)期間が伸びているので、最初に指摘した「婚姻届を提出したタイミング」との関係ははっきりしない、らしい。

ここは結局直接のデータはないのだが、最後に、同棲期間について確認したい。
同居はしているが結婚はしていない期間については、1970年以降2000年頃までは1ヶ月未満、つまり婚姻届とほぼ同時に同居を始めるのが増加傾向だった。そしてそれ自体は依然圧倒的に多いものの、趨勢的には減少しており、足元では55%まで減少している。対照的に特に増加しているのは1年以上の同棲である。7~12ヶ月も増加しているが、そこまでではない。
1年以上同棲が2割弱まで増加していることを踏まえると、図5で6ヶ月、10ヶ月の山が消滅しているのは筋が通るが、デキ婚自体の増減については、直接参照にすることは難しそうだ。

図表6:同居を始めたときから婚姻届までの期間
(出所:人口動態調査)

まとめ

今回は前回までに引き続き、結婚と出産がどこまで相関があるかを確認した。今回の切り口は、「結婚のきっかけ」と「デキ婚」である。
これまでの調査では、結婚と出産に密接な関係があったので、これでも密接な関係が見られると思ったが、そこまで密接ではなかった。結婚のきっかけで子ども関係を挙げるのはせいぜい50%しかなかった。「しか」というのは、既婚者の95%が子どもを望んでいる調査もあるからで、出産(希望)が結婚に繋がっている蓋然性は低くなったかもしれない。
またデキ婚も、一時よりは割合が減少した(ようにみえる)ため、これも出産(妊娠)→結婚、というフローがやや弱まっていると解釈できる。ただ同棲期間のデータも合わせて判断すると、そもそも「同居」「結婚」「出産(妊娠)」の3つの連結性(因果性)が弱まっているのかもしれない。少なくとも1980年代まで見られた、結婚と出産の強い連関性(同居開始から10ヶ月前後での出産の山)は失われている、ということは確実である。
結婚と出産の連関については、今回の調査では自明ではなくなったかもしれない。

次回も引き続き、結婚と出産の連関性について確認する。

補足・データの作り方

今回はゼクシィ結婚トレンド調査と、人口動態調査及びその特殊報告を使用した。
ゼクシィ結婚トレンド調査は、今回始めてみたけどすごい調査である。描く報告書は地方別に分かれ、それぞれ500ページを超える。pdfでしか公表されていないし地方別で若干調べにくいという問題はあるが、公表分だけでも2010年から、データ的には2006年から少なくとも存在が確認できる。結婚のきっかけだけでなく、結婚式や結納、新婚旅行その他に関する超詳細な情報が、これでもかというくらい掲載されており、これをエクセル化するだけで、結婚式などに関する地域別の文化の差なども時系列でかなり分かるだろう。サンプル数は、1都道府県せいぜい数百なので、必ずしも十分でない部分もあるのと、ユニバースがゼクシィ読者のみであること、質問票がわからないのが玉に瑕だが、それ以外は申し分ない。
ちなみに結婚前後の同居についてのデータはここにもあったのだが、「結婚を決めたとき」「結婚式のタイミング」の前後というイマイチ参考にならない基準だったので、今回採用しなかった。ゼクシィは他にも色々データを公表しており(この調査が最も密度が高いが)、参考になるものは多そうだ。

人口動態調査特殊報告は、毎年特定のテーマに絞って分析をするもので、今回使用したのは「出生に関する統計」シリーズである。2021年、2010年、2005年、2000年に実施されており、今回は2021年と2010年のデータを使用した。他の統計のように、機械的に無機質にデータが公表されているわけではなく、報告書のためにデータが整理、組み合わせされており、その内容以上のデータが出てくるわけではない。ので、今回のグラフは(多少整理はしたが)基本的に報告書読んだほうが早いと思う。よその統計では見られないデータもあり、頻度は高くないものの一見の価値はある。
…しかし、「結婚式をしたときまたは同居を始めたときの早いほう」というわけわからないデータしか取れないのは何なんだろう。婚姻届の記載ぶりがそうなっているからだが、結婚式も同居も、強制的なものでもなんでもない(民法上夫婦に同居義務はあるが、強制性が強いものでもない)し、婚姻届のこの確認が行政上何かに生かされている感じもしない。正直何とかして欲しい。ちなみにゼクシィの調査では、結婚式と同居のタイミングは、8~9割位が同居が先、1~2割が式・披露宴等が先である。
なお、自分自身がデキ婚(の嫡出子)で産まれた子かどうかは、戸籍謄本を見れば分かる。自分の誕生日と、両親の婚姻日が明記されているからだ。戸籍謄本をベタッと調査できれば、この辺は全部スッキリするんだけどなぁ。

人口動態調査はこれまで同様だが、今回は報告書非掲載というよく分からないデータを使用した。ちなみにデータ上の元々の記載は「婚姻生活に入ったとき」なのだが、元調査の人口動態調査の調査票では、「同居を始めたとき」となっており、たぶんこれと「市区町村受付月」(年は調査が年次なので自動で分かる)の差分で、婚姻届提出までの期間を調査しているので、婚姻生活に入ったとき=同居を始めたとき、とみなしている。こういう言い回しの変更はあんまりやってほしくないなぁ。

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