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趣味のデータ分析035_子どもを持つということ②_希望出生率達成済み説

前回は、若干死語になりつつある「希望出生率」という概念について、時系列の推移を確認した。そこで、希望出生率が、特にコロナ禍で大幅に減少したこと、それは未婚者の結婚希望や理想子ども数が減少の寄与が大きいこと、そしてそもそも、未婚の若い女性は、先達たちより望んでいる子供の数自体が少ないということが確認できた。
一方で、この希望出生率は、色々作り方があって、それ次第でだいぶ水準感が変わる。というわけで今回は、作り方次第でこの希望出生率がどう変わるのかを確認する。

希望をどう計算するか

希望出生率の基本的な作り方は下記の通り。

希望出生率={既婚者割合×夫婦の予定子ども数+未婚者割合×未婚結婚希望割合×理想子ども数}×離別等効果

平成29年10月6日社会保障審議会児童部会 参考資料2

で、まず既婚者割合は、国勢調査の18~34歳の女性の有配偶者率、未婚者割合はこれの余事象で取る。この定義は微妙なところがある気がするが、広範の「未婚結婚希望割合」のアンケートの対象とパラレルになっている、という根拠が一応あるようだ。また、最後の未婚者の理想子ども数については、計算では女性の結果のみを対象としており、さらに一応結婚意思の有無別に出ているのだが、流石に結婚意思がある集団のみの集計で良いだろう。これもそのままとする。

他の変数で代替できそうなのは、残りの「夫婦の予定子ども数」「未婚結婚希望割合」の2つだ。
まず前者は、「夫婦の理想子ども数」という別データがある。要するに、理想と予定の2つの調査をしているのだ。制約のない理想と、現実を踏まえた予定の2つを調査しており、なかなか興味深い調査設計である。というわけで、ここは「理想子ども数」に代替可能である。グラフ的には図1のようになる。

図1:既婚夫婦の予定/理想子ども数の推移
(出所:出生動向基本調査)

もともと両者とも2~3人の間で、差が大きいわけではないが、特に理想の数が低くなる形で、その差分は小さくなってきている。

「未婚結婚希望割合」については、これも計算上は女性のみを対象としている。そして、そもそもアンケートでは、「結婚意思をもつ未婚者の結婚に対する考え方」に対し、「いずれ結婚するつもり」と「一生結婚するつもりはない」の2択(結果としては「不詳」も加えて3つ)で回答させている。ただしこれについては、独身研究家の荒川和久氏の指摘の通り、「一生結婚するつもりはない」という表現がやたらに強い否定で、ここで「いずれ結婚するつもり」と回答したからといって、結婚する意志がしっかりある、とは言い難い。

具体的には、まず、上記の問いの次に、「いずれ結婚するつもり」の回答者に対し、「ある程度の年齢までには結婚するつもり」「理想的な相手が見つかるまでは結婚しなくても構わない」の2択を更に選ばせる問がある。さらにその次の問では、「それでは今から1年以内の結婚についてはどうですか」と問うており、「1年以内に結婚したい」「理想的な相手が見つかれば結婚してもよい」「まだ結婚するつもりはない」の3択を選ばせている。
要するに、「いずれ結婚するつもり」の中でも詳細な調査があり、その中には「まだ結婚するつもりはない」という回答すら含まれているのだ。ついでにいうと、この回答、2015年の結果を見ると、「理想的な相手が見つかれば(1年以内に)結婚してもよい」という集計をされており2021年の時系列調査もそういう公表のされ方になっている。ただ、私が見る限り回答表からはこの括弧内の補足は読み取りにくい。回答者も意識してない可能性がある気がする。理想的な相手でも、交際1年で結婚までは踏み切れない、という人を除外する質問ということなのだろうか?
さらに、2021年の最新調査(第16回)では、何故か「それでは1年以内~」の調査結果、調査票ともに不明瞭で、「就業状況等別の、1年以内結婚意志のある者の割合」のみが公表されており、「理想的な相手が~」を含む時系列できれいに取れない。そもそも2021年の調査、概要が2022年9月に公表されてからもう半年以上経っているのに、結果の単純集計も調査票も公表されていないという、謎の状況になっている。異次元の少子化対策とかずっと謳ってるんだから、それのもとになる超重要調査である本件、さっさと公表してほしいものだ。

前置きが長くなったが、まずはそもそも結婚意思があるか、意志ある者のうちどれくらいが「ある程度の年齢までには結婚するつもり」あるいは「理想的な相手が見つかるまでは結婚しなくても構わない」と考えているかを見てみよう。結婚意思の有無も含めたグラフは図2のようになる。

図2:未婚者の結婚意志および結婚に関する考え方
(出所:出生動向基本調査)

2020年のそもそもの結婚意志無しの急増は興味深いが、そもそも「ある程度の年齢になったら結婚」の割合は、高いときでも50%程度しかない。実際のところ、婚姻願望が高いのは未婚者のせいぜい50%程度といえよう。
次に、(あんまり詳細でない)「1年以内結婚意志」についても、同様に集計したものが図3。

図3:未婚者の結婚意志および1年以内の結婚意志
(出所:出生動向基本調査)

上の方で述べたとおり、これは要するに「1年以外に結婚したい」「理想的な人が1年以内にいれば結婚したい」の合算値である。やや意外だったが、存外「ある程度の年齢までには結婚するつもり」より割合は高かったりした。「1年以内に理想の相手を見つける!」という強い意志を感じる。とはいえ、全体的な結果としては、「婚姻願望が高いのは未婚者のせいぜい50%程度」という図2の結果とはほぼ変わらない形となった。以降の分析では、この「ある程度の年齢までには結婚するつもり」と「(理想的な人がいれば)結婚したい」の2カテゴリーを、合わせて「結婚願望の高い人」とする。
そして、結婚願望の高い人のカテゴリは、どちらも水準感は大きくは変わらないが、以降の分析では、せっかくなので両方の調査を採用することとしたい。

ちなみに「絶対結婚しない」を対象とした、「その考え方が変わる可能性とその理由は?」という問いもあり、うち50%くらいは考え方が変わるかも、と言っているのだが、2021年のデータがない(調査しているかもわからない)ので、それは分析できなかった。

希望のパターン

前節の議論を整理すると、下記のようになる。
・既婚者の子ども数については、理想と予定の2パターン
・未婚者の結婚願望については、単に「絶対に結婚しないのではない」の内訳として、「適当な年齢になったら」や「1年以内に」結婚したい人=結婚願望の高い人の調査もある(計3パターン)。

というわけで、希望出生率のパターンとしては、2×3=6がある。うち1つ、つまり「予定子ども数」×「絶対に結婚しないのではない」のパターンが、政府目的として設定された希望出生率だ(以降、「公表希望出生率」とする)。今後のために番号で整理しておこう。

  1. 「予定子ども数」×「絶対に結婚しないのではない」(公表希望出生率)

  2. 「予定子ども数」×「適当な年齢になったら」

  3. 「予定子ども数」×「1年以内に結婚したい」

  4. 「理想子ども数」×「絶対に結婚しないのではない」

  5. 「理想子ども数」×「適当な年齢になったら」

  6. 「理想子ども数」×「1年以内に結婚したい」

では、この6パターンの希望出生率の推移をグラフ化しよう。それ以外の必要な数字は、公表希望出生率の計算から横置きである。

図4:パターン別希望出生率
(出所:出生動向基本調査)

合計特殊出生率を加えると、全部で7本のグラフで、ちょっとややこしくなってしまった。結果としては、既婚の理想/予定子ども数の変更は、そこまで影響がなく、未婚者の結婚願望の考え方による変化のほうが多いこと、特に2015年以降は、結婚願望が高い人に絞った希望出生率が、合計特殊出生率を下回る形となった。2020年にいたっては、結婚願望の高い人に絞った希望出生率が、1.03~1.13の範囲に収まっている。低っ。
というか、それ以前でも、合計特殊出生率と結婚願望の高い人に絞った希望出生率に大差はない。これを見る限り、希望しているだけの子どもは、国全体で平均すればすでに概ね得られている可能性があるし、2015年以降の結婚願望の高い人に絞った希望出生率を踏まえると、今後合計特殊出生率は、さらに下がる可能性すらあるのではないかと思う。

まとめ

今回は、希望出生率の定義を変えてみることで、どのような変化が生まれるかを確認した。結果、特に未婚者の結婚願望の考え方の変化により、2015年以降は、結婚願望が高い人に絞った希望出生率が、合計特殊出生率を下回る形となった。合計特殊出生率を、希望出生率の水準まで引き上げる、という政策目標は、ある意味ですでに達成されているのだ。
希望出生率における結婚願望の大きさが推して知れるといえるだろう。

さて、この結婚願望の強さ、つまり結婚したい/したくないの割合は、出生動向基本調査では、5%前後~足元15%弱まで急上昇したが、他にも例えば2018年の内閣府の調査があり、それでは年齢にもよるが、20%~30%前後が「結婚するつもりはない」と回答している。

図5:年齢別結婚希望
(出所:内閣府少子化社会対策に関する意識調査(2018))

2018年のみの単年度調査で時系列を取れないが、これによると、35歳未満女性で「結婚するつもりはない」を除いた割合=多少なり結婚意志がある者は80.4%であり、2021年の出生動向調査の「絶対結婚しないわけではない」の割合である84.3%と概ね合致している。この合致は、2020年の希望出生率の急降下が、これからのスタンダードになることを示唆しているのではないか。

論点は結局のところ、世の皆様(特に女性)はどれくらい結婚願望があるのか、という点だ。特に日本は国際的に比較して、未婚者で子どもを持つことが少ない=婚外子が少ない(というか欧米圏は結婚するのが手続き上面倒で、未婚同棲率が高く、社会保障も法律婚をあまり前提としていないため、婚外子率がやたら高いことが多い)ので、少子化問題としても、結婚願望は重要なファクターとなる。
結婚願望は、特に婚外子があまり選択されない日本の現状では、子どもを養育するパートナーを選択するという意味合いが強く、政府や自治体においても、育児支援だけでなく、例えば婚活支援等も行っている
一方で、子どもを持つことは、特に女性の就労継続等に影響が大きい。これは政策的社会的に軽減は可能だが、生物学的な限界もあるし、なによりそれは極めて個人的な選択でもあり、いかに自分の人生をデザインするかということに強く関わっている。ということで、次回は、女性のライフプラン全体から、女性の結婚願望について確認したい。

補足・データの作り方等

前回と同じく、基本的なデータは第16回出生動向基本調査から取ってきている。内閣府の意識調査は、国際比較を含め毎年何らかの調査を行っており、毎回興味深いものが多いのだが、だいたいは経時的な調査になっていないのが玉に瑕。

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