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趣味のデータ分析058_男女賃金格差の謎⑨_女の学歴の価値詳細版b

057では、賃金構造基本統計調査を用いて、女性の学歴にどれだけ価値があるのか、という点について確認した。結果、複数のライフコースを比較しても、生涯年収は大学院卒>大卒>専門学校卒で、学費や機会費用までを加味しても、40歳手前でペイできることが判明した。奨学金返せないという怨嗟の声があるが、学費だけなら、利子つけても平均的には30歳前後には普通にペイするのだ(あくまで平均の話であることには十分注意が必要)。

図1:女性の学歴別平均生涯年収(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
表1:ライフコース別の高学歴コストを回収できる年齢(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

今回は、同じ調査を別ソースである就業構造基本調査でも見てみよう。2つの統計の差については057の補足を参照。
また今回は、あまり本論に関係ない前置きが異常に長いので、先に結論を述べると、「基本的には学歴コストはペイする」である

2つのデータの差がやばい

さて、就業構造基本調査は、そもそも所得について分布しか載っていないので、平均を推計する必要がある。また分布なので中央値も集計可能である。というわけで、正社員の割合等も含めて、一気に羅列しよう。注目は女性のみなので、女性のみに絞る。
学歴別の人数は、賃金構造基本統計調査(057の図1、3)と結構な差がある。詳述はしないが、例えば正社員は、賃金構造基本統計調査では最大1000万人くらいなのが、就業構造基本調査では1800万人まで増えている。差分は調査・推計方法の差…以外にもあることに気づきはしたが(後述)、それで埋められるほどの規模感ではなさそうでもある。
ただ、構成比の傾向的な部分に大きな差はなく
・若くなるほど着実に大卒が増える
・この傾向は正社員の方が非正規より強い
・非正規は以前高卒が多数派
・大学院卒はどのカテゴリでも数%程度
という点は共通である。

図2:正職員女性の学歴別人数(2022年)
(出所:就業構造基本調査)
図3:正職員女性の学歴別構成比(2022年)
(出所:就業構造基本調査)
図3:非正規職員女性の学歴別人数(2022年)
(出所:就業構造基本調査)
図4:非正規職員女性の学歴別構成比(2022年)
(出所:就業構造基本調査)

さて、この時点で057のデータ取得ミスに気づいてげんなりしたが、更に平均年収を計算して更に萎えた。賃金構造基本統計調査と就業構造基本調査の、2つの調査結果を並べてみよう。正職員については、
・絶対水準には多少の差があるものの、
・学歴別年齢別に賃金が着実に上昇している
・年齢による賃金上昇の程度は、高学歴ほど大きい

という点は、賃金構造基本統計調査と就業構造基本調査の分析はほぼ同じである。
問題は非正規の方である。就業構造基本調査において、非正規は、大学院卒の賃金が全く伸びていない。また全体的に水準が低い。賃金構造基本統計調査では200~300万円だが、就業構造基本調査では100~200万円である。ここの差は馬鹿にできない。

図5:賃金構造基本統計調査と就業構造基本調査の年収比較(女性正職員)
(出所:賃金構造基本統計調査、就業構造基本調査)
図6:賃金構造基本統計調査と就業構造基本調査の年収比較(女性非正規)
(出所:賃金構造基本統計調査、就業構造基本調査)

さて、この差がどこから来ているかと言うと、短時間労働者の存在である。
賃金構造基本統計調査は、根本的にデータが常勤労働者と短時間労働者(各事業所の所定の労働時間以下の勤務時間の者)の2つに分かれている。そして、057での分析は、一般労働者のデータしか使っていなかった。何たる失態。当然だが、非正規職員には相当程度短時間労働者が含まれているし、短時間労働者は端的に賃金が安い。このため、特に非正規でデータの差が出てきたと思われる。何より、これは057で「どんなライフプランでも、女性の学歴の価値はある」とした結論に直撃する。大学院卒でも短時間労働者になる可能性があるなら、ライフプランによってはペイしない可能性が十分出てくる。057での結論は、前提として「フルタイム労働を続ける場合」にしか有効ではない。

短時間労働者の実態

というわけで、駆け足だが賃金構造基本統計調査の短時間労働者の状況をさらっておこう。例によって2020年のデータのみ使用する。左側が短時間労働者、右側が一般労働者である。
時短正職員は数的には、一般労働者正職員の数%のレベルである。学歴構成比的には、時短職員は高卒の構成が、特に高齢において高いが、全体の傾向や絶対水準は正社員とあまり変わらない。
一方で非正規職員では、時短労働者が一般労働者の1.5倍~10倍以上いる年齢層もある。こちらも学歴構成は似た感じなものの、全体的に高卒が多い。端的に言えば、時短労働者は比較的学歴が低い。

図7:女性正職員の学歴別労働者数(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図8:女性正職員の学歴別労働者構成比(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図8:女性非正規職員の学歴別労働者数(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図9:女性非正規職員の学歴別労働者構成比(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

次に年収を確認する。短時間労働者は年収データはなく、月の労働日数、1日の労働時間、時給、年間賞与で構成されている。年収は、前3つの掛け算×12+年間賞与、で計算することとする。
結果、正職員も非正規も、時短職員は全体的に一般労働者より絶対水準が低い。短時間正社員は数が少なくブレも大きいが、年齢による年収の増加も見られない。

図10:女性正職員の学歴別平均年収(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図11:女性非正規職員の学歴別平均年収(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

最終的に、年収について人数の加重平均を取ると、図12のようになった。正職員はほぼ一般労働者の形状と変わらない。しかし非正規の方は、水準はやや上昇したものの、形状的には短時間労働者の方に引きづられた感じ。特に、大学院卒非正規の年功序列感がほぼ完全に失われた感があるのは興味深い。

図12:女性の学歴別平均年収(加重平均・2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

最後に、短時間労働者を踏まえた賃金構造基本統計調査と、就業構造基本調査の、正社員と非正規社員の年収を改めて直接比較しておこう。
正職員の方は事実上何の影響もないと言ってよい。非正規については軸の問題もあるのだが(正職員と同じ軸にしてみた)、かなりの低水準であること、年功序列も学歴による上昇も見られないという意味で、ほぼ同じ形に揃えられたと言ってよいだろう。ちなみにざっくり、賃金構造基本統計調査のほうが就業構造基本調査よりも10~20%程度、年収が高く計算されている。057の補足で指摘したとおり、就業構造基本調査は年収の聞き方がかなり雑で、サラリーマンにとっては税込みなのか税抜きなのかすらはっきりしない聞き方になっている。10~20%の差は、概ねこの税引き前後の差とも言えそうな気がするが、どうだろうか。

図13:賃金構造基本統計調査と就業構造基本調査の年収比較(女性正職員)
(出所:賃金構造基本統計調査、就業構造基本調査)
図14:賃金構造基本統計調査と就業構造基本調査の年収比較(女性非正規職員)
(出所:賃金構造基本統計調査、就業構造基本調査)

まとめ

では、女性の学歴がペイするかについての最終確認に進もう。引き続き、賃金構造基本統計調査と就業構造基本調査をパラレルに確認していく。せっかくなので高卒も追加した。このため、専門学校に関しての進学コストを新規に仮定する必要があるが、これについては(前回の課程でじつは内包しているのだが)、学費は年間100万円としておく。ここでは専門学校を3年と仮定しているので、高卒に比べ、学費が余分に300万円かかる、という計算だ。また、高卒は高校卒業してすぐの19歳から年収を得るものとして計算している。
さて、生涯年収ベースで確認すると、どのライフコースでも基本的に学歴に比例しているが、就業構造基本調査においては、高卒と専門学校は、③と⑤で逆転が見られる。そもそも③、⑤の非正規ルートに乗った場合、生涯年収が圧倒的に低くなっている。特に②と③の比較では、大学院卒は4割位まで減少している。また、賃金構造基本統計調査より就業構造基本調査のほうが少し絶対水準は低い。図13、14の年収の差がそのまま反映されている。

図15:女性の学歴別平均生涯年収
(出所:賃金構造基本統計調査、就業構造基本調査)

特に非正規において賃金が圧倒的に下がる状況下でも、学歴はペイするのだろうか。結論的は、「基本的にはペイはする」である(図16)。
図15のとおり、特に③、⑤では平均生涯賃金が大幅に下がるが、
・非正規でも、小さいものの学歴間の年収格差は維持されていること、
・30歳、35歳になるまでは正職員で働くという仮定ゆえ、正社員期間中に学歴コストの相当部分をペイできていること
から、機会費用を加味した上でも、高学歴コストをペイすることができている。2つの統計から同様の結論を出せたし、一応ロバストな結果であるとはいえるだろう。ただ、就業構造基本調査ベースでは、③と⑤ではほとんど生涯賃金差がないことから、ライフコースによっては専門学校に行くコストをペイできないこと、特に③では大卒コストすら58歳でしかペイできていないことには留意が必要だろう。
結論、女の学歴には基本的に価値がある。ただ、ライフコース等によっては高卒で十分な場合もあるし、学歴を積むなら、大卒じゃなくて大学院まで行くべきである。大学院卒の正規職で働く限り、年収は安泰である。

図16:ライフコース別の高学歴コストを回収できる年齢
(出所:賃金構造基本統計調査、就業構造基本調査)

一応の結論が出せてよかった。次回、図16からもうちょっと読み取れることと、男性の学歴の価値についても確認する。

補足、データの作り方など

データはいつも通り賃金構造基本統計調査と、以前も使用した就業構造基本調査。2つの違いは前回指摘したとおり、前者のほうが信頼性が高い気はする。ので、学歴についても基本的にはペイするものと思っている。

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