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趣味のデータ分析057_男女賃金格差の謎⑧_女の学歴の価値詳細版a

056で、女性の学歴の金銭的価値を確認した。結果として、所定内給与や残業代込みまでであれば、
・男性正規は学歴が上がるほど階段状に着実に賃金が伸びている
・女性は専門学校卒≒高専・短大卒≒大卒となっている
・女性は大卒と大学院卒での格差が比較的大きい
こと、一方でボーナスも込みにした年収ベースでは、
・女性は(男性も)大学院卒>大卒>専門学校卒、という順番になっている
・女性正職員の場合、大学院卒と大卒の平均年収は200万円もの差で、大学院修了のコストは5~8年程度でペイできる

ということが判明した。

ただ上記の分析は、正直かなり粗い分析であった。今回は、「大学院の学歴は女性にとってどこまでペイするか」という点に絞って、より精緻な分析を行う。

精緻化の前提とデータ

まず、精緻化の内容について整理しよう。
056では大卒と大学院卒の平均年収だけを用いて、大学院まで出ることがペイするかを確認したが、当然年収は歳を取るごとに上がり、若いうちから「平均年収」を貰えるわけではない。年収は年齢別に精緻化すべきだろう。また、大学院は修士か博士か(あるいは専門職か)で必要な期間が全く異なり、ペイするまでの期間もだいぶ変わってくる。結論から言うと、ここでは修士課程のみ注目する。修士課程以外はデータ数があまりに少ない感じで、ちょっと分析に耐えられる感じがしなかった。
次に、女性のライフプランは大きな問題だろう。特に子供を持つかどうかは大きな変化と思われる(結婚するかどうかとは別問題だが、結婚15~19年で子供がいない夫婦は10%未満だし、未婚子持ちも数%なので、一旦無視してよいだろう(042の図1、4))。更に子持ちになると、大学院卒といえど、正職員でバリバリ働くのではなく、パートなどで働くこともあるだろう。また、子供をいつ持つかも大きな選択肢だ。というわけで、下記の5つのライフプランを仮定する。
①未婚ルート:各過程の卒業(修了)後、未婚正社員で59歳まで働き続ける。
②30子持ち正社員ルート:各過程の卒業(修了)後、既婚正社員で働き、30歳で出産し、1年育休取得後正社員として復帰し、59歳まで働き続ける。
③30子持ち非正規ルート:各過程の卒業(修了)後、既婚正社員で働き、30歳で出産し、1年育休取得後非正規社員として復帰し、59歳まで働き続ける。
④35子持ち正社員ルート:各過程の卒業(修了)後、既婚正社員で働き、35歳で出産し、1年育休取得後正社員として復帰し、59歳まで働き続ける。
⑤35子持ち非正規ルート:各過程の卒業(修了)後、既婚正社員で働き、35歳で出産し、1年育休取得後非正規社員として復帰し、59歳まで働き続ける。
以上のライフプラン等に応じ生涯年収を計算していく。なお、育休は1年目は正社員給料の収入の6割、2年目は5割を得るものとする。その後非正規になる場合は、それが終わった段階で非正規の給料に移行する、と仮定する。また、学費については前回並びで大学、大学院ともに年間100万円とする(つまり、専門学校卒と比べ、大卒は+100万、大学院卒=修士卒は+300万余分なコストがかかる)。

最後に、使用データについてだが、色々悩んで就業構造基本調査と賃金構造基本統計調査の両方を用いることにした。両者の違いについては補足にまとめるが、両者とも学歴×年齢×所得のデータについて取得できる一方、色んな意味で差があり、しかもどっちが正しそうなのかよくわからない、というのが正直なところである。まずは賃金構造基本統計調査のデータから分析を進め、それが終わったら就業構造基本調査のデータを使用して同様の分析を進め、最後に両方を眺めて結論に進みたい。マジかよ。めっちゃ面倒くさいやん。。。。

基本データの確認と年間収入の差

さて、本格的な分析に入る前に、今回の分析対象に関する全体像を把握しておこう。使用するデータは、上述の通り賃金構造基本統計調査である。
まず、学歴別人数と構成比は図1~4のとおり。正職員、非正規ともに、若い世代ほど大卒の割合が堅調に増加しており、女性の学歴が着実に上昇していることが伺われる。25~29歳正職員では、なんとか半数が大卒。ただし、正職員では40歳前後で大卒が多数派となった一方で、非正規では、全年齢で多数派は高卒。大卒はせいぜい30%弱にとどまっている。また大学/大学院の比較では、大学院卒はせいぜい5%弱で、大卒が多数派の正職員ですら、大学院卒は圧倒的に少ない。

図1:正職員女性の学歴別人数(2022年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図2:正職員女性の学歴別構成比(2022年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図3:非正規職員女性の学歴別人数(2022年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図4:非正規職員女性の学歴別構成比(2022年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

ついでに男性についても見てみると、これはこれで興味深い。正職員男性も、若いほど大卒率が上昇しているが、女性ほどの変化ではない。特に39歳以下では、男女で構成比はほぼ同じである。また非正規では、大卒率は59歳以下では、構成比に大した差も傾向も見られない。大学院は、正社員で10%と多くはないが女性の倍くらいの構成比である。

図5:正職員男性の学歴別人数(2022年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図6:正職員男性の学歴別構成比(2022年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図6:非正規職員男性の学歴別人数(2022年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図6:非正規職員男性の学歴別構成比(2022年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

さらに余計な話として大学院の女性比率(図7)を確認してみると、大学院の女性比率はどの課程でも3割超。大学院卒の男性構成比が、女性のそれより2~3倍高いことからすると、在学女性比率はやや高い気がするが、女性は大学に残り続ける(就労市場にあまり出てこない)、また過去男性の方が大学院に多くいた名残もあるのかもしれない(時系列データが多分無い)。

図7:性別大学院学生数および女性構成比
(出所:学校基本調査)

次に、大卒/大学院卒女性の、年齢別所得の分布は図8~10のとおり。年収は、「決まって支給する現金給与額×12+年間賞与等」で算出した。ついでに年齢も59歳以下で仕切っている。
さて、ソースが同じなので当然だが、前回確認したとおり、正規非正規ともに大学院卒の所得がダントツで高い。更に年齢を追うにつれ、その差も拡大している。この傾向は大卒と専門学校卒の間でも見られる。つまり、学歴が高いほど、年齢による所得増加率も高いことが確認できる。また非正規では、大卒でも年齢による「決まって支給する現金給与額」の伸びがほぼ見られないが、大学院卒では多少の賃金の伸びが見られるのも興味深い。ていうか大学院卒非正規って、かなり給料高そうだけど、どういう仕事をしているんだろう。高学歴ワーキングプアという言葉も一時流行ったけど。
賞与等は、正規非正規での差分が圧倒的すぎるが、正職員では同様に学歴間の差がやはり大きい。年間所得も上記の傾向を踏まえたものとなったが、特に30歳以降くらいから学歴による給料の差分が明瞭化してくるようだ。改めて、正規非正規の所得における差って、このボーナス部分の影響は相当あるように思う。逆に言えば、ボーナスが出ないような会社では、元々正規非正規の差はあまりないのかな。ミクロデータ過ぎて統計はないのだが。

図8:女性の学歴別平均決まって支給する現金給与額(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図9:女性の学歴別平均年間賞与等(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図10:女性の学歴別平均年間所得(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

まとめ

というわけで、賃金構造基本統計調査に基づき、学歴×年齢×所得のデータを整理した。仕上げとして、最初に整理したライフコースに合わせて、生涯年収を計算していこう。
①未婚ルート:各過程の卒業(修了)後、未婚正社員で59歳まで働き続ける。
②30子持ち正社員ルート:各過程の卒業(修了)後、既婚正社員で働き、30歳で出産し、2年育休取得後正社員として復帰し、59歳まで働き続ける。
③30子持ち非正規ルート:各過程の卒業(修了)後、既婚正社員で働き、30歳で出産し、2年育休取得後非正規社員として復帰し、59歳まで働き続ける。
④35子持ち正社員ルート:各過程の卒業(修了)後、既婚正社員で働き、35歳で出産し、2年育休取得後正社員として復帰し、59歳まで働き続ける。
⑤35子持ち非正規ルート:各過程の卒業(修了)後、既婚正社員で働き、35歳で出産し、2年育休取得後非正規社員として復帰し、59歳まで働き続ける。

学歴別の生涯賃金(59歳までの賃金)は図11のとおり。いずれのライフコースでも、専門学校卒<大卒<大学院卒となっている。また非正規になるルートだと、専門学校卒と大卒に生涯年収の差はあまりないが、大学院卒は、例えば③30子持ち非正規ルートでも、②の正社員専門学校卒ルートと同じくらいの稼ぎを得ている。やはり大学院卒の稼ぎは、非正規でも相当大きい。

図11:女性の学歴別平均生涯年収(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

最後に、大卒、大学院卒は、学費や就労が遅れることによる機会費用の観点から、より学歴が低いケースより追加的な費用がかかる点について確認しよう(仮定は上述)。生涯賃金は学歴に素直に比例していることを確認したが、こうした追加的費用もペイできるのか?つまり、高学歴による追加コストを加味して累積所得を考えたとき、高学歴での累積所得がより低学歴でのそれを上回るのは何歳の頃か?

それを計算したのが表1である。例えば②の場合で大学院まで行った場合、大学院の学費と、大卒勤務による所得という機会費用分を踏まえても、37歳の頃には大卒より障害所得を稼いでいる、ということである。
ざっと見ると、案外ペイできるタイミングに差がないのが意外。遅くとも40歳頃には、大学院に通うコストもペイできてしまう。もちろん大学院の学費が安すぎる可能性はあるし、一人暮らしする場合にはもっと掛かるとかもあるのだが、一方で学生時代にもバイトで稼ぐやらの手段はあるので、この水準感は大きく外しているわけではないと思う。

表1:ライフコース別の高学歴コストを回収できる年齢

ライフコースが異なれば回収できるタイミングや、そもそも回収できるかも差が出てしまうが、逆にライフコースさえ決めてしまえば、平均的には間違いなく高学歴を目指したほうがオトクである。女性の学歴には価値がちゃんとあるのだ。
なおこれも表1から類推できるが、子持ちになったタイミングで専業主婦になった場合、学歴コストをペイするのはぐんと難しくなる。専業主婦になるつもりなら、学歴はいらないので、高卒なりで適当に就職して花嫁修業をするのが吉である。

次回は、同じ検証を、就業構造基本調査でもやってみることにする。面倒くせえな。

補足、データの作り方など

前回から引き続き、賃金構造基本統計調査からデータを作成している。
上に述べたとおり、就業構造基本調査とどっちを使用するか迷った。学歴×性別×所得のデータが取れるというのは同じなのだが、結構違う部分も多い。具体的には下記。
a. 賃金構造基本統計調査は所定内賃金、決まって支給する現金給与額、年間賞与を分けて、事業所に聞いている。就業構造基本調査は、就業者自身に、年収額のみを聞いている。
b. 賃金構造基本統計調査は、所得について(所定内賃金以外は)分布ではなくカテゴリ内平均のみ取得可能。就業構造基本調査は年収の分布を取得的る。
c. 賃金構造基本統計調査は学歴について「大学院卒」のみ取得できるが、就業構造基本調査は、2022年のみだが、修士課程、専門職課程、博士課程の別でデータが取れる。この区分けを取れるのは多分賃金構造基本統計調査だけだと思う(国勢調査にもこの区分はない)。
d. データの母集団について、就業構造基本調査のほうが、賃金構造基本統計調査よりも多そうである。

今回は最終的に年収全体額のみ注目するので、a. の観点では賃金構造基本統計調査と就業構造基本調査は等価、b. の年収の分布が分かる、c. の大学院の詳細まで分かるということで、全体としては就業構造基本調査に分がある。
ただ、個人的にはどうしても、就業構造基本調査が年収を「就業者自身にのみ聞いている」という点が気になった。
あまりこういうことを言うと身もふたもないのだが、賃金構造基本統計調査は、サンプル抽出された事業所に対し、更にそこから抽出された従業員の「6月分の給与」と、「昨年支払った賞与」等を聞いており、これは多分事業所内で、かなり機械的に検索して、円単位まで正確に確認できる。一方で就業構造基本調査は、「この仕事からの1年間の収入」と結構ざっくりした質問の仕方で、正直サラリーマンの場合、総所得なのか税引き手取りを聞いているのかすら判然としない。そもそも個人に年収を聞いて、源泉徴収票を引っ張り出してきちんと確認してくれる人ばかりではないと思う。この辺は、020の補足部分で触れたが、就業構造基本調査では、収入等を「○円以上■円未満」という聞き方にしている(正確には■円以下)。このとき、詳細を確認せずに、所得を「○円」のところで適当に答えている人が多いんではないか、と思われるフシがある、というか、自分なら面倒臭いのでこう答える可能性が高いと思う。
いずれにせよ、特にサラリーマンにアンケート形式で所得を聞くと、結構回答が怪しいことは多分に出てくるような気がしていて、あまり使いたくないな、と思うというのが正直なところです。

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