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趣味のデータ分析056_男女賃金格差の謎⑦_女に学歴は必要か?

054の図31、32で、学歴別の賃金分布を確認した際、男性は素直に高卒<専門学校卒<高専・短大卒<大卒<大学院卒と、学歴上昇に伴い賃金も上昇していた一方、女性では、高卒<専門学校卒≒高専・短大卒≒大卒<大学院卒という形態になっていた。つまり、学歴が大学院まで上がって初めて、ある程度の賃金上昇が観察され、逆に大卒は専門卒と対して変わらない給料しか得ていなかった。
というわけで今回は、女性の学歴の価値について、所得の面から考えていこう。結論的には、男より女のほうが学歴は有用である。

大卒女に価値はない?

まずは、改めて学歴ごとの所得の差異を確認しておこう。注目したい事項の一つは大卒と大学院卒の差だが、賃金構造基本統計調査でこの2つが区分されているのは2020年以降のみ。時系列での確認がほぼできない。残念だが、2020年のデータのみで分析を進める。
分布全体の差分を見る必要もないので、まずは中央値だけを抽出しよう(図1)。今回は正職員と非正規職員を分離した。先程述べたとおり、女性は、専門学校~大学の中央値がほぼ同水準で、大学院卒の給料の中央値が、正規非正規問わず特に高い。男性も大学院卒の給料の伸びは抜きん出ているが、正職員では比較的伸びは緩やかで、非正規職員のほうが伸びが大きそうだ。ただ、結局絶対水準では男性正社員が一番高水準である。女性正職員と男性非正規がだいたい同じ水準で、女性非正規が一番低い。

図1:学歴別雇用形態別の所定内賃金の中央値(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

図1の伸び幅のみを抽出したのが図2である。大学→大学院に学歴が変わることによる女性正社員の賃金の伸びは、伸びは脅威の105万円(男性非正規もほぼ同じレベルで伸びている)。
また、女性正社員については、高校→専門での賃金の伸びも45万円と、他の区分に加え圧倒的に高い。また絶対水準についても、女性正職員は大卒より専門卒のほうが高い。054では、女性は学歴で給料に差があまりつかないことについて、「大卒女性でも(結婚、出産等で)非正規職員になっている」ために発生している現象かも、と指摘したが、全然そんなことはなかった。むしろ正職員がこの状況を主導していたことになる。同時に、大卒女性正職員は、(歯に衣着せず言ってしまえば)学歴が全く賃金に生かされていないということになる。

図2:学歴別雇用形態別の所定内賃金の中央値(変化幅)(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

次に、諸般の事情で同じものの平均値のグラフも掲載しておく。一般的に所得分布については中央値<平均値だが、今回もそうなっている。特に異なるのは男性非正規の大学院卒で、女性正規を上回る平均賃金を得ている。男性の院卒非正規は、かなりテールの長い分布になっているようだ。それとパラレルで、大学→大学院の比較で、男性非正規は女性正規を超える133万円の伸びとなっている。ただし、
・男性正規は学歴が上がるほど階段状に着実に賃金が伸びている
・女性は専門学校卒≒高専・短大卒≒大卒となっている
・女性は大卒と大学院卒での格差が比較的大きい
・男性正職員>女性正職員≒男性非正規>女性非正規

という点は、中央値の分析と変化はないようだ。

図3:学歴別雇用形態別の所定内賃金の平均値(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図4:学歴別雇用形態別の所定内賃金の平均値(変化幅)(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

総賃金で見た学歴の価値

さて、これまで所定内賃金で見てきたが、最終的に払われるのは所定内賃金+残業代等+ボーナス=総賃金(年収)である。そこまで見ると案外違いはないかも、という可能性はある。所定内賃金以外は分布を取れないので、この分析は平均値で取得した(ので、前段では平均値のグラフも併記した)。
先に数字面の詳細に触れておくと、残業代込みの賃金が「きまって支給する現金給与」(月収)で、これを12倍したものに「年間賞与その他特別給与額」を合算したものを年収とする。
残業代込みの「決まって支給する現金給与」は、これまでの分析とあまり違いがない(図5)。一方で、年間賞与等は、月収にも比例しているが、そもそも正社員かどうかで決定的に違いがあるようだ(図6)。「決まって支給する現金給与」自体は女性正規と男性非正規であまり差がないが、年間賞与は70万円以上の差が出ている。

図5:決まって支給する現金給与の平均値(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図6:年間賞与その他特別給与額の平均値(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

では、年収ベースでは、
①男性正規は学歴が上がるほど階段状に着実に賃金が伸びている
②女性は専門学校卒≒高専・短大卒≒大卒となっている
③女性は大卒と大学院卒での格差が比較的大きい、
④男性正職員>女性正職員≒男性非正規>女性非正規
という、前段で確認できた点は、どうだろうか。図7~9で示した。
①と③は、同じく成立しているといえるだろう。というか、③については、男性正規職員について、むしろ大学院まで行くメリットが少ないというべきか(特に変化率ベース)。
②については、月給ベースの多少の差が年間ベースで拡大されたことと、年間賞与面の差が奏功し、大卒のほうが専門や高専・短大と比較し、50万円(10%強)程度高くなっている。④も年間賞与が特に奏功し、男性正職員>女性正職員>男性非正規>女性非正規と、順序性がより明確になった(男性正職員の圧倒性も強化されている)。

図7:年収の平均値(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図8:年収の平均値(変化幅)(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)
図9:年収の平均値(変化率)(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

まとめ

女性の所定内賃金の分布について、
・専門学校卒≒高専・短大卒≒大卒となっていること
・大学院になって初めて賃金分布が大きく右移動(高額化)していること
から、女性の学歴ってどこまで価値があるの?という点から分析を進めた。結論的に、年収ベースでは専門や高専等卒より、大卒のほうが30~50万円高い所得を得られることが確認できた。あくまで平均値の話だし、中央値で見た所定内賃金では専門卒のほうが何なら高いくらいである(つまり、年収ベースでも中央値ベースならほぼ差がない可能性は十分ある)ことには留意すべきだが、年収ベースでは、女性においても学歴差がしっかり出ていることが確認できた。

ちなみに専門卒労働者は概ね女性の方が多く、これは看護専門卒が多いからだと思われる(図10)。元々女性は医療福祉分野で働く人が多いが、中でも専門卒は、その6割が医療福祉業界で勤務している。

図9:学歴別の女性正社員の労働者割合(2020年)
(出所:賃金構造基本統計調査)

看護専門学校は普通3年制で、学費は年間100万円前後らしい。大学の学費も学校ごとにだいぶ差があるのでなんとも言えないが、同じ程度と仮定すると、専門卒と大卒での学費面での差は、1年分の学費である100万円で、平均だけで計算すると2~4年で回収できることになる。なお、若いうちはそこまで差がつかないし、働きはじめのタイミングが異なる=看護専門卒のほうが1年早く給料を稼げるので、その分も考慮する必要はある。
ただし、「専門卒は大卒に比べ、専門卒平均である423万円を1年分余分得られる」+「学費分の100万円の差」としても、10年ちょいで元は確実に取れる。運が良ければ、出産等のライフイベントでキャリアを中断する前に、必要経費は全て回収できる。女性についても、生涯年収(だけ)で見れば、専門学校行くよりも大学行くほうが良い、ということになるだろう。

もう一つのトピックである、女性の大卒と大学院卒の差は、年収ベースでも比較的大きいままであった。女性正職員の場合、大卒と大学院卒の年収差は驚異の200万円。大学院は大学以上に、学費も就職市場も分散が高いので、一様に述べるのはさらに困難だが、ここでは修士課程を2年で修了、ざっくり学費は年間100万円とし、「大卒は大学院卒に比べ、大卒平均である470万円を2年分得られる」+「学費2年分の200万円の差」とすると、大学院進学のコストは5~8年位で元が取れることになる。博士課程でプラス3年とすると、更に8年以上、計15年前後は回収に時間がかかるので、ちょっと効率が悪いかもしれない(ただ、特に理系博士は在籍中にそれなりに稼げないことはないので、実際はもっと短い可能性はある)。
同じ計算を男性正社員でした場合、大卒と大学院卒の年収差は145万円、大卒平均である655万円2年分が逸失利益になるので、回収には10年ちょいかかる計算である。(正社員になる前提で、)年間所得の計算からは、女性はむしろ男性より大学院に行くべきである。

というわけで、年間収入で見れば、女性も学歴を積むべき、むしろ男性より大学院進学のメリットが大きい、という結論になった(ただし、博士課程は若干リスキーかもしれない)。男女格差の是正という観点でも興味深い(ていうか、今回は全く格差の話じゃないね…)
ちょっと興味が湧いたので、次回は統計と視角を少し変えて、女性が学歴を積むことの金銭的な意味について、もうちょっと精緻に分析してみたい。

補足、データの作り方など

いつも通りの賃金構造基本統計調査。これまで男女格差を所定内賃金ベースで確認してきたが、年収ベースで見たらまた全く異なる世界になっていることも確認できた。所定内賃金で見るかボーナス等まで含めた総賃金で見るかは良し悪しだが、だからこそ両方で見ていかないと、色々見落とす部分もありそうだ。ただ、格差についてだけ言えば、全体で見たほうが大きくなるのは間違いないだろう。

年間賞与等だが、言うまでも無いが賞与は存在するかどうかが会社によって全く異なる。就労条件総合調査では、ボーナスは大体8割位の会社で支給されているようだが、会社の規模等でも割合は異なる(図10)。小規模企業になると、ボーナス支給率は下がるし、宿泊飲食や小売業もボーナスが無い場合が多いようだ。

図10:主要業種のボーナス等支給率(2020年)
(出所:就労条件総合調査)

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