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【読書感想文】家と庭と犬とねこ

石井桃子さんのエッセイ集です。

石井桃子(いしい・ももこ)

一九〇七年、埼玉県浦和に生まれる。二八 年、日本女子大学校英文学部卒業。 文藝春 秋社、岩波書店などで編集に従事。戦後、 宮城県鶯沢で農業・酪農をはじめる。その 後上京し、翻訳家、 児童文学作家、随筆家 として活躍。『ノンちゃん雲に乗る』(四七 年)などの創作、「クマのプーさん」「うさ こちゃん」「ピーターラビット」シリーズ の翻訳、自宅の一室に子どもの図書室「か つら文庫」を開く(五八年のちに公益 財団法人 東京子ども図書館へ発展)など、 その活動は子どもの本の世界を実り豊かな ものにした。二〇〇八年、一〇一歳で逝去。

私の好きな作家、江國香織さんは石井桃子さんが好きで、エッセイなどでよく彼女の文章のすばらしさを書かれている。私も、幼稚園のころから「ピーターラビット」シリーズを読んで、お正月のたびに買ってもらって、
「びあとりくすぽたーさくいしいももこえ」と一息に言えるほど大切にしていたから、石井桃子さんの文章は、根付いていると言ってもいいと思う。

そんな石井桃子さんの、戦中、若い時分からの日々を綴るエッセイ。

読んでいくと、彼女がなぜあんなにも情緒豊かで、地に足の着いた、ちょっと頑固で、子どものように正直な文章を書かれるのか、ちょっとわかるような、腑に落ちるような気がしてくる。

戦後すぐに彼女は、女ともだち三人で宮城の山の小さな小屋で暮らしていた。畑を耕し、山羊を飼い、朝から晩まで体を使って働いていたという。「ノンちゃん牧場」と近所の人たちの言う〝山〟での生活が、彼女の翻訳や児童文学などに見るリアルな言葉のルーツな気がしてならない。

あぁ、こういう世界にいたからなんだな。

と腑に落ちるのだ。土のかたさ、草のにおい、冬のつめたさ、土間のにおい、ヘトヘトに働いたあとのふかふかの布団は、それを体感してきた人の表現だ。

虫がすくとか、気が合うとかいうよりも、もっとほかに、人間には、まだわかっていない科学的な法則─たとえば、体質とか、気質とかで、ぴったり理解しあえる人間とか、物の考えかた、感じかたがある様な気がする。私が、それを「波長が合う」というものだから、友だちにおかしがられたり、おもしろがられたりするのだが、このじぶんの波長を、ほかの人のなかに見いだすことが、人生の幸福の一つなんではないかしらと、私はよく考える。

波長   より。

事細かに説明しなくても、「話のわかる」人だとか、文の区切りや間のとり方とか。
うんうん、「波長」ってあるよなぁ、と読む。え?科学的に証明されていなかったかしら、というくらい確かな感覚で。もうこの時点で、私の波長も合ってきている。

ひとり、とても不器用で要領はわるいが、ばか正直につなぎ目をしっかりつなぎ、ゴブコブしたひもをつくった子がいた。みんながそれを見て笑った。
─(略)「カンジンこよりは、こうつくるものだ」と先生はいった。
─(略)若いうちから物事にたかをくくったり、あまえたりしている人をみると、この話がしたくなる。

忘れ得ぬ思い出   より

これはずっと覚えておかないといけない、と思った。知ったような顔で、見た目格好よいようでも、実際プツリとちぎれてしまうような〝こより〟では仕方がない。しっかりとって、コブコブの〝こより〟を、律儀に、真面目に。こと、仕事をするときには、覚えておこうとおもう。


今、私の手は皺だらけ、シミだらけ。でも、よく働いてきた、正直な手である。

私の手 より


山での生活と、親友の家とお庭、「デューク*」というコリー犬とキズねこ。時々は、都会に疲れて〝山〟や坂の上のお宿で寝込んだりしながら。

便利で忙しい世の中だけれど、彼女のように、大切なことを忘れないように、自然とつましく生きていきたい。


昨日の夜、運転するフロントガラス越しに、暗くなったまだ新しい夜空に、
スーッとひとつ、流れ星がいった。

見逃さなくてよかった。



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デューク*

江國香織さんの「デューク」という小説がある。石井桃子さん好きな江國さんだから、同じ名前の犬に、何かしら繋がりがあるのかな〜と思った、江國香織さん好きのそこのあなた!一緒にコーヒーでもいかがですか?

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