どんなに普通の毎日でも。
駅から人が湧き出る。
夕暮れの駅。
田舎の駅。
制服の子が、迎えの車を見つけて笑顔で小走りにいく。
バス停へ急ぐ足。
淀みない足取りで帰路につく足。
都会の空気を纏いながら。
普段なら、文庫本の中で待っていたものを。
ふと、
空を見ていないな。
なんだか、
ぼーっと、世の中を見ていたくなって。
ハンドルに顎を乗せて、
ぼーっと空を、人の流れを、眺めていた。
いろんな人が、いろんな顔で、いろんな方向へ、おそらく帰路に、ついていた。
この時間の駅の顔。田舎の駅。
空は雲が多く、薄紫色と灰色をまぜたような色をして。
車の流れは、不規則に、止まったり、割り込んだり、譲ったり、続いたりを淡々とする。
無秩序な秩序。
流れのない水槽の、同じ種の魚のように。
ガチャッと娘が乗り込む。
「おかえり」
外のにおいを纏った娘の
「ただいま」
は、急にクリアで、ワントーン高く。
あぁ、そうだ。帰るのだ。
私もちゃんと帰るのだ。
止まったり、譲ったり、割り込んだり、続いたりに従って。
帰ろう。