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本当にヒットの裏にSNSはあったのか?

おはようごうざいます、金清(@KYP_1223)です。

2016年以降、ヒットが世の話題になる映画作品が多くなっているように思います。シン・ゴジラに始まり、君の名は。もそうですし、去年ですとカメラを止めるな!ボヘミアン・ラプソディ、そして直近ですとアベンジャーズ/エンドゲームなど...。

そして、そういう映画のヒットの際に、最近だとよく見るようになった記事での紹介のされ方ですが、ヒットの裏にはSNSがあった..!みたいなものをよく見るようになったと思います。

こういう記事の中で、よく語られるSNSと映画のヒットの関係。でも本当に映画ヒットとSNSでの盛り上がりに相関性はあるのでしょうか...?ちょっと気になったので、複数映画のソーシャルリスニングを行ってみました。

まずは、制作費300万という予算で大ヒットを生み出した「カメラを止めるな!」から見てみましょう。

<カメラを止めるな!>

プラットフォーム:Twitter
キーワード:"カメラを止めるな" "#カメラを止めるな"

初めて上映について告知されたのが2017年9月から。
単館上映で話題になったのが2018年6月。これを上映開始日と設定するとSNSでの盛り上がりのピークは2018年8月ごろ。

カメラを止めるな!のSNS上での盛り上がりの特異な部分は、SNSでの盛り上がりのピークが上映開始日前後ではないという事に尽きるかと思います。通常、映画は事前告知の影響や、スクリーンの数の影響で盛り上がりは上映開始日前後に現れます。

しかし、ご存じの通りカメラを止めるな!の場合、初動は2館からのスタート。盛り上がりを生もうにも、シンプルにスクリーン数が足りていない事が現象として伺えます。一方で6月下旬の開始以降に、SNSでは熱狂的な支持がツイッター上で多くなされていました。

映画監督からのレコメンドに始まり

声優さん、芸人さん、そして最終的には指原さん..と話題がどんどん拡大していった構図を見る事ができます。

そして、それらの拡大の裏には、熱狂を丁寧に注入していた監督並びにスタッフのSNS上での苦労がしっかり貢献していたのではないか?と筆者は考えています。

これはふなっしーとカメラを止めるな!監督の上田監督とのやり取りですが、このような「映画を観たよ!」というツイッターでの投稿に対し、丁寧に監督、出演者等がreplyを行っていたのが、この映画の盛り上がりの特徴です。

replyを受け取った全てのユーザーではないにしろ、なかにはこのふなっしーの投稿のように感謝を伝えるreplyを更に重ねるユーザーもいたのではないでしょうか?これらのやり取りがSNSでの盛り上がりを作ったといっても過言ではないように思います。

上映館数の増加と比例してSNSでの盛り上がりのピークが発生した流れと、その裏側の取り組みを見る限り、カメラを止めるな!の場合はヒットとSNSでの盛り上がりには大きな相関性があったといえるのでは?と思っています。予算が限られているという状況のなかでSNSで地道な活動を行ったことで最終的な結果達成に貢献した、という理想的な事例だったように思います。

一方で、マスパワーの権化と言っても過言ではない、アベンジャーズ/エンドゲームの場合はどうだったのでしょうか?

<アベンジャーズ/エンドゲーム>

プラットフォーム:Twitter
キーワード:"アベンジャーズ" "エンドゲーム" "#アベンジャーズ" "#エンドゲーム" "avengers" "#avengers"
* 日本語ツイート限定

SNSでの盛り上がりのピークが上映開始日とほぼ一致しています。その盛り上がりのボリュームは、カメラを止めるな!のピーク時の10倍以上。すごい。

上映開始前から何度も5万メンション超えの盛り上がりを生み出していますが、よく見るとこれらはアベンジャーズ公式アカウントによる広告での盛り上がりであることが伺えます。

アベンジャーズのSNS上での告知の戦法は先述のマスパワーの駆使の際たるものでして、フォロー&RTキャンペーンやトレイラーを広告も活用してバシバシ広げ、ユーザーの期待値を増幅させる、というものでした。結果、上映開始日にスパイクを生み出す事に成功しているのですが、これは明らかにカメラを止めるな!のSNSでの話題のされ方とは異なります。

ヒットの実情がSNSにも現れていた、という事は出来るかと思いますが、SNSがヒットを支えた、という構造とは異なるようです。ただし、アベンジャーズも面白いのは、上映開始以降にオフショットを含んだ投稿や、様々なファンアートがツイッター上で投稿され、それらが全て話題になっている、ということです。


アベンジャーズのSNSでの話題を説明するにあたって、「11年の歳月をかけた作品群がいよいよ完結...!」という点は見逃せないでしょう。長い年月を一緒に過ごしたファンや、この最終作公開と期を合わせてディズニーチャンネルで過去最近をおさらいしたファンなどによる思いの丈がSNSで発散されている事がわかります。

これらのSNSでの投稿が、一度視聴したユーザーのリピートを後押しした可能性は否定できないです。爆音上映や、実はあのシーンに隠されていたこんなメッセージ...などの情報は、ファンにとって「え!そんな意味が込められていたならばもう一度映画館でチェックして観たい...!」と思わせるには十分な情報なのではないでしょうか。この後から盛り上がり、が非常に多いのが、アベンジャーズのSNS上での会話の特徴でした。

では、最後に「ボヘミアン・ラプソディ」について、観てみましょう。

<ボヘミアン・ラプソディ>

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キーワード:"ボヘミアン・ラプソディ" "ボヘミアンラプソディ" "#ボヘミアンラプソディ "
* 日本語ツイート限定

盛り上がりのピークは上映開始後から実に半年後に訪れていますが、これはアカデミー賞受賞の発表と相まってのものなので、上映時の実質的なピークは上映開始直後と考えても良さそうです。

アベンジャーズほどの投下量は感じさせないにせよ、この映画も上映前からフォロー&RTキャンペーンの広告投下など、盛り上げのためのマス的な施策が打たれていたようでした。しかし、この映画は広告投下量とは比例しないレベルで実に長い間SNS上で語られていたんだな、という事がこのボリュームの推移で観て取れます。

その投稿の中身ですが、オフショット、ファンアート(#フレディ可愛い選手権なんてものもありました..)はもちろん、往年のQueenファンによる秘蔵動画や家族で観に行った時の話、などQueenのコアファンからの投稿がとても多かったように思います。

これは先ほどのアベンジャーズの時にも話した、後から盛り上がりが起こした現象であったと言えるでしょう。ボヘミアン・ラプソディの場合は、この後から盛り上がりが熱を帯びており、とても長い間続いた、という事が考えられます。上映期間が非常に長かったので、これがSNSでの盛り上がり持続を牽引していたとも言えます。

これらの事から、ボヘミアン・ラプソディがリピート需要を狙った戦略を取っていたと言えるのでは?と筆者は考えています。


映画を盛り上げるためのSNS活用、2タイプ。

今回の事例調査を踏まえて、映画の盛り上がりにSNSが寄与するパターンは大きく2パターンある事がわかりました。

<タイプA:アベンジャーズ/エンドゲーム、ボヘミアン・ラプソディなど>

1つめは、上映開始のタイミングでしっかりスクリーン数を担保し、事前の盛り上がり施策に広告投下もできるような予算も持つビッグタイトル。(何気にこのパターンが結構多いように思います。)

この場合は、事前のSNSを活用したキャンペーンなどの影響も否定しませんが、何より観てくれたユーザーによるリピート促進、新規鑑賞促進という点こそ、SNSが効果を発揮するポイントと言えるでしょう。観てくれたファンによる熱狂が、他の興味層、すでに映画を観たファン層に影響を与える、という事です。

この促進を後押しするために、映画を提供する側はファンを刺激する新しい取り組みや秘蔵映像の情報を上映開始直後から計画的に注入する必要があると思います。例えば、コスプレ鑑賞イベント、物語に関連するトリビア、秘蔵オフショットなど、がこれにあたります。

まとめると

①上映開始直後からファンが盛り上がる
②盛り上がるファンを意識してイベントや情報を注入する
③ファンが更に盛り上がり、イベントに参加。その動向がSNSに公開される
④これを観た別のファンも盛り上がり、イベント参加や再度鑑賞する行動に
繋がる。

という事が言えるかと思います。なので、まとめるとこのタイプの映画の場合は、ヒットをSNSが作る、とまで言ってしまうと言い過ぎかもしれませんが、ヒットを生み出すまでに、SNSでの盛り上がりも後押ししていた、という事は出来るかもしれません。

一方、カメラを止めるな!のような映画の場合です。

<タイプB:カメラを止めるな!など>

カメラを止めるな!の場合は結果的にSNSがヒットに大きく関連していたのですが、これに挑戦するならば、事前の盛り上がりに予算を投下する余裕がない、上映館数もそこまで多くない作品の場合は挑戦する条件が揃っている、と言えるかと思います。

しかし、同じ現象を生み出す事はなかなか容易ではないでしょう。まず、監督や配給会社のみならず、出演者が自分たち自身もメディアとなって、SNS上で継続的に発信をする、という覚悟・意識が必要です。また、発信に反応してくれたファンには誠意を持ってマメに対応することも必要です。

これを自然に行うには、SNSネイティブレベルのリテラシーが要求される、と考えられます。これを出演者にお願いするのも障壁が高そうです。

ただ、予算のない作品は市場へのインパクトを広告というかたちで生み出せない以上はファンに接触するための基盤を事前に、用意周到に準備をしていないとなかなか公開直前や公開後に挽回する事は難しいのでは?とSNSでの動向を観て思います。


そして、タイプAでもBでも言える事なのですが、これらの映画のSNS上でのコミュニケーションで意識すべき事は、ファン(ライトファンからコアファンまで)の気持ちをいかに動かすか?という事なのでは?と調査をして思いました。

ファンを意識した情報発信をする事で、ファンは彼らの持つ知識・スキルを駆使してSNS上で回答をしてくれます。そしてこれが他のファンの心を動かしたり、情報発信をしたファン自身のリピート促進に繋がる、という事がSNS上での動きとしてありそうです。

TVCMやバナーのような既存の広告活用も映画というコンテンツの告知に効果を発揮すると思いますが、SNS内の、ファンの声が他のファンの行動を後押しする、というファンベースにも近い構造が、どうやら映画というカテゴリーにもありそうだな、という事を、これらの映画作品の調査から考えている今日この頃です。

引き続き、映画作品の調査は行なっていきたいと思います。

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