できないあなたは特別じゃない。
Twitterですこし前に、「遅刻常習犯目線から時間守る人にお願いしたい事」というツイートがバズっていた。
そのお願い、というのはこのようなものだ。
・遅刻して待ってる時間は適当に過ごしてて欲しい
・+30分はデフォなので許してほしい
・あと何分で着くか聞かれるけどとりあえず100%到着するのは確実なので安心してほしい
・最終的には時間じゃなくて「到着したか否か」で評価してほしい
いちいち検索してまで反応を探したわけではないが、少なくともわたしのタイムライン上では当時、賛否両論。いろんな意見が出ていた。
個人的な話をすると、わたしも約束の時間を守れない人間だ。待ち合わせの遅刻は日常茶飯事。
気を付ければ守れなくもないが、これには精神的な苦痛を伴う。決して相手を軽視しているわけではないのだが、ひとと時間を合わせるためにはものすごい気力が必要なのだ。「ちょっとくらいは許してくれ」と言いたくなる気持ちは、わかる。
ただ、それでもわたしはこのツイートに違和感を覚えた。
たぶんこれはネタのつもりなんだろうけど「できないことをアイデンティティにしている」とおもったのだ。
この場合は「わたしは時間を守れない人間だから仕方がない」という開き直り、と言い換えてもいいかもしれない。
「できないわたしを受け入れてほしい」という構図だ。
「時間を守れない」に限らず、そういうひとってそこそこいるような気がしている。
ひとの考えかたは自由だし、わたしがどうこう言えるような立場でもなければ権利もないんだけど、「できないをアイデンティティにしてしまうのはもったいなくないかな?」とおもう。
「できない自分」が前提になってしまうと、できる自分は解釈違いだ。できないことをできるようになった途端に、アイデンティティを喪失してしまう。そうすると、できるようになりたいという意欲も、努力も、ぜんぶ放棄してしまう。
ずいぶん厳しい言いかたをしてしまったが、これは過去のわたしでもある。
学生時代のわたしは「できない自分」であることに、へんなプライドを持っていた。まさに、できないことをアイデンティティにしていたやつだったのだ。
公表しているが、わたしはアスペルガーである。
だから、ひととは違うんだ。空気が読めなくても仕方がない。そんなことをおもっていた。
でも、自分ではなにも変えるつもりがなく、ただ受け入れてもらうことだけをかんがえているようなやつに、手を差しのべてくれるひと。
そんな奇特な人間は、少なくとも当時のわたしの周りにはほとんどいなかった。これはほんとうにありがたいことに、ゼロじゃなかったけどね。
わたしとあなたのあいだに、2歩ぶんの距離があるとしよう。距離を詰めたい場合、相手に2歩歩いてもらうよりも、お互いが一歩ずつ足を踏み出したほうが早いでしょう。相手に歩み寄ってもらおうとすると、2倍時間がかかる。
精神論、と一蹴するひともいるかもしれない。「現実にできないんだから仕方ないじゃん」「できるようになるなんて無理」って言うひとが。
でも、たとえばわたしのようなアスペルガーであっても、気を付けることはできる。
・相手の性格や感情を、それこそ「顔色をうかがって」みる
・相手を不快な気分にさせてしまったと気付いたら、その時点ですぐ謝るなり、フォローするなり、話題を変えるなりする
・過去の似たような場面を思い出して、その時にどういうことを言ってどうだったかを思い出してみる
・極力ていねいな言葉づかいで穏やかに話す(特に、顔色や声のトーンで伝わらない文字のコミュニケーションは極力気を付ける)
これらのことをわたしが全部、できているとは言わない。でも、できるだけ心がけてはいるつもりだ。たまにポーンと抜けていることがあるけども。
これを意識するようになってから、人間関係はかなり改善したように感じる。できないなりに、歩み寄ることはできるとおもうのだ。
相手は「できないこと」に怒りを感じているわけではない。
「相手にやってもらって察してもらって当然で、それが当たり前であるかのように振る舞う姿勢」に怒っているのだ。
できないなりに、それでもなんとか気を付けようとがんばっているやつのことを頭から怒る人間は、まぁ正直いるけども、そんなに多くはないとおもう。
そもそも、「できないやつ」ってそんなにめずらしいもんじゃない。
時間を守れない、人の輪に入るのがにがて、緊張して自分ばっかりしゃべってしまう、くだらないことを気にして落ち込んでしまう、なんらかの障害がある、精神薬や睡眠薬が手放せない……あなただけじゃない。わたしだってそうだ。そんなの、めずらしくもなんともない。探してみたら、いくらでもいるとおもうよ、そういうひと。
だから、あなたは特別じゃない。
そんなくだらない、ありふれたものをわざわざ自分のアイデンティティにしなくたっていい。
できないあなたへ、できないわたしより愛を込めて。
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