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500円返せ!に見る「おもしろうて、やがてかなしき」


東京03という、トリオで活動するお笑い芸人がいる。

彼らのコントのなかには「500円返せ!」というネタがあるんだけども、これがほんとうに好きで好きで仕方がないので、ちょっと書かせてください。


このコントのテーマは「半年前に貸した500円を返してほしいんだけど、今さらそれを言うのは小さい人間だと思われないか?」というもの。

借りていた側はすっかりそのことを忘れており、その上「半年前の500円今さら言ってくるんだよ?みみっちくない?」「1万円とかならわかるけどさ、2~3日経って返ってこなかったら、俺ならそのままあげたことにするね」などと言う始末。

それに対して貸した側は「俺はあげたんじゃない、貸したんだ!」「あげたことにしようとも思ったさ、でも500円くれてやったことで、こいつは俺に感謝なんかしない!だって借りたこと自体を忘れてるんだから!ただ俺が500円損するだけなんだ!!!」と叫ぶ。

「おかしくないですか!?貸したものを返せと言えばみみっちいと思われ、あげたところで何とも思われない!お金を貸すってなんなんでしょう!!」と絶叫する姿は、ほんとうに正論なんだけど、情けなくてみみっちい。

理屈で言えば、貸した側の言い分が100%正しい。借りたものは返さなくてはいけない。でも、そう思いつつも、半年後に500円を請求するという絶妙な話題の小ささも相まって、なんとなく借りた側の意見が正しいように思えてくる。価値観がバグってくるのだ。人間心理をついた、周到なネタだなぁと思う。


でも、こういう価値観バグって、じつは意外とよくあるような気がしている。

例えば、相手がまったく自覚なく、ものすごい暴言を浴びせてきたらどうだろう。
こちらは深く傷ついているし、もちろん相手を許すことなんかできない。
そういう時って、相手からすれば「ごめんごめん、いやでもさ、悪気ないんだし普通それくらい許してくれるでしょ」みたいな感じになるでしょう。

すっごくモヤモヤするんだけど、こっちから「謝れ!」って言うのもなんかちょっとちがう気がする。だって、そうすると「500円返せ!!」って叫ぶのとおんなじになっちゃうから。だからきっと、表立って怒るってことはしづらいんだと思う。
もしも言ってしまったら、ぜったい傷つけられた側が「あいつも人間できてないよなぁ、それぐらいで」って思われる案件になるんじゃないだろうか。

やっぱこれ、めっちゃ理不尽じゃない?


そうやってわが身に置きかえて考えると、「貸したものは返せ!」と叫びつつ、やってることはものすごくちっぽけな男の姿を、ただ笑うことなんてできなくて。でも、傍から見るとその姿はやっぱりみみっちくて、情けなくて、おもしろい。
必死になって自分の正当性を訴えるその姿に「おもしろうて、やがてかなしき」って言葉がふっと浮かんだのでした。

たぶん、わたしたちって誰でもみんな、こういう「ちっぽけ」な部分を持っていて。でも、同時にひとにそういう風には思われたくないなって思っている。だから、このネタにすごく心が動かされるんだろうな、なんてことを考えたりしたのです。

あのステージの上にいたのはきっと、ほんとうはそうしたかったけど、人目を気にしてできなかったわたしのほんとうの姿。うん、やっぱりこっけいだね。


#エッセイ #日記 #コミュニケーション #人間関係 #思考 #価値観 #お笑い #東京03

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