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オーバーフロー


*以下、創作大賞2024オールカテゴリ部門「脚本」として応募致します。



「オーバーフロー」


冒頭あらすじ

 高一の冬。色恋沙汰で盛り上がる同級生を横目に我藤陽乃(16)は、つまらない時間を過ごしていた。陽乃の唯一居心地の良い時間。それは同じ団地に住む斉宮明人(16)の描画を眺めている時。陽乃も絵を描くことに興味はあったが、昔から絵の上手い兄・桃也(19)と比べられるのが嫌で避けている。
 明人は他の同級生と違って恋愛に興味の無い様子。が、違った。恋愛に興味が無いのではなく――。


想定尺・媒体

60分ものテレビドラマもしくは映画


登場人物

我藤 陽乃がふじ はるの (16)永浜高校二年生

斉宮 明人さいみや あきと (16)陽乃の友人。美術部員

三村 夏音みむら なつね (16)陽乃のクラスメイト。美術部員

矢水 奏祐やみず そうすけ (16)陽乃のクラスメイト

我藤 桃也とうや (19)陽乃の兄。文化造形大学二年生

我藤 優子 (42)陽乃の母親

我藤 のぼる  (45)陽乃の父親

斉宮 光奈みつな (42)明人の母親

槙穂    (16)陽乃のクラスメイト

澄香    (16)陽乃のクラスメイト

女子生徒①、②

 

シナリオ本文

○永浜高校・一年二組教室・中(朝)

 騒がしい生徒達の中、机に突っ伏す我藤陽乃(16)。
 片手にはスマホ。

 スマホ画面、公園のブランコに乗った一匹のウサギの絵。
 白黒デッサン。

 それを見て、少し口元がほころぶ陽乃。


○あおぞら団地・全景(夕)


○あおぞら団地2号公園(夕)

 すべり台の上、斉宮明人(16)がスケッチブックに絵を描いている。

 陽乃、明人にコンビニ袋から取り出した温かいペットボトルのお茶を渡す。

陽乃「ん」

明人「ありがと」

 と、お茶を受け取る。

 陽乃、袋から肉まんを取り出し食べながら明人の絵を見る。

陽乃「あれ、この子一匹じゃなかったんだ」

 明人の絵、公園のブランコに仲の良さそうなウサギが二匹乗っている。

明人「うん。親友がいんの」

陽乃「親友って……ウサギの世界にもそんなんあんの?」

明人「さあ」

 明人を見て微笑む陽乃。

陽乃「やっぱ落ち着くわあ」

明人「え?」

陽乃「落ち着く。明人の絵見てると」

明人「そ?」

陽乃「うん。明人って人間描かないじゃん?」

明人「……まあね」

陽乃「それがいいんだよ。なんか、人間に執着してないって感じ」

 明人、一瞬表情が曇る。

明人「……できた? 好きな人」

陽乃「ないよ。私、自分しか好きになれない病気なのかも」

明人「出たまたそれ言う」

陽乃「好きとか付き合うとか……皆そんなんばっか。何がそんなに楽しいんだか」

 明人、吹き出す。

陽乃「? 何よ」

明人「落ち着くなあと思って」

陽乃「は?」

明人「俺は、陽乃が毎日同じような愚痴言っ てるのが落ち着く」

陽乃「! ……馬鹿にしてんでしょ」

明人「してないって。陽乃も絵描いたら? なんだかんだ好きじゃん。絵描くの」

陽乃「まあ……嫌いじゃないけど」

明人「描いたらそんなのどうでもよくなるよ」

陽乃「……そう、かなあ」

明人「うん」

陽乃「んー……いや、いいや。お兄ちゃんと比べられたくないし」

明人「ああ……」

光奈の声「(声を張る)明人ー、陽乃ちゃーん」

 声の方に目を向ける陽乃と明人。

 少し先に斉宮光奈(42)の姿。

陽乃「明人ママ」

 すべり台を滑り降りる陽乃。

光奈「(声を張る)寒いんだから家入れば?」

 光奈と目を合わせず絵を描く手を止めない明人。

明人「(小声)いい。ここの方が集中できる」

光奈「(声を張る)何て?」

陽乃「(声を張る)ここがいいってさ」

光奈「(声を張る)そう? 陽乃ちゃんも大丈夫?」

陽乃「(声を張る)うん」

光奈「(声を張る)じゃあ風邪ひかないようにね」

陽乃「(声を張る)はーい」

 手を振り去って行く光奈。

陽乃「明人君よ。母親に冷たくないかい?」

明人「なんか最近鬱陶しいんだよね……って言うのも思春期こじらせてるやつみたいで嫌だけど」

陽乃「ああ。わかる」

 笑い合う陽乃と明人。


○あおぞら団地・我藤家・リビング(夕)

 帰宅する陽乃。

 キッチンで料理中の我藤優子(42)。

陽乃「ただいま」

優子「おかえり」

 冷蔵庫を漁る陽乃。

優子「あんたまた明人君といたの?」

陽乃「うん」

優子「あんまり邪魔すんじゃないわよ? 明人君は真剣に絵描いてんだから。最近気難しくなったぁって光奈も嘆いてたし」

 陽乃、冷蔵庫の扉を強く閉める。

陽乃「それは、親だからだね」

優子「は?」

陽乃「てか邪魔してないし」

優子「とにかく、あんたも明人君やお兄ちゃん見習って、やりたいことの一つでも――」

 面倒くさそうに出て行く陽乃。


○同・陽乃の部屋・中(夕)

 入ってくる陽乃、テキトーに鞄を置く。

 ふと、机の本棚に目を向ける陽乃。

 そこから小さなスケッチブックを取り出しページをめくる。

 どのページも描きかけの絵ばかり。

 椅子に座る陽乃、新しいページを開き、ウサギの輪郭を描き始める。

 が、我に返ったように手を止める。

 陽乃、小さく首を横に振り、スケッチブックを閉じて立ち上がる。


○同・桃也の部屋・前(夕)

 通りかかる陽乃、扉が少し開いていることに気付き立ち止まる。

 中を少し覗くと、キャンバスボードにデッサンする我藤桃也(19)。

陽乃「デッサン?」

 少し驚き振り返る桃也。

陽乃「ああ、ごめん。集中してた?」

桃也「んや、大丈夫」

陽乃「珍しいね。グラフィックじゃないの」

桃也「うん、たまには」

陽乃「……何描いてんの?」

 桃也、扉を大きく開けてキャンバスボードを陽乃に向ける。

 キャンバスボードにはまだ表情の無い少年らしき絵。

陽乃「男? の子?」

桃也「んー……まあ、その予定」

陽乃「(頷いて)そっか」

 桃也、テーブルのスマホ画面を見ながら再び描き始める。

 陽乃、桃也のスマホを気にするが、何が写っているかはわからない。

陽乃「……楽しい?」

桃也「ん?」

陽乃「大学。文化造形大? だっけ?」

桃也「ああ、うん、そうね。楽しいかな」

陽乃「ふーん……」

桃也「お前もやっぱ美術関係興味あんの?」

陽乃「! いや、ちょっと聞いてみただけ」

桃也「そ? まあ、明人君も描いてるもんね。そりゃ気になるか」

陽乃「私はお兄ちゃんみたいには……」

桃也「?」

陽乃「んーん、何も無い」


○永浜高校・外観(朝)

 響き渡るチャイム。


○同・一年二組教室・中(朝)

 『学年末テスト国語』と書かれた黒板。

 テスト用紙に向かう生徒達。

 その中の陽乃、消しゴムで文字を消そうとするが、力が強く二つに割れる。

陽乃「(しまった)……」

 見回りの教師が生徒達の間を歩く。

 陽乃の隣席、矢水奏祐(16)、消しゴムを落とす。

 それに気付く陽乃。

 焦って周りをキョロキョロする奏祐。

 陽乃、割れた消しゴムを見る。

 教師の目を盗んで、片方の割れた消しゴムをそっと奏祐の席へ置く陽乃。

 奏祐、少し驚きながらも陽乃に会釈。

 テストを再開する陽乃。

 ×   ×   ×

 休憩時間。

 陽乃の元に女子生徒①、②が来る。

女子生徒①「ねえ我藤さん、さっきのテスト中、奏祐に消しゴム貸してたでしょ?」

陽乃「? 貸したけど……」

 隣席の奏祐、陽乃の方を気にする。

女子生徒①「それってさ……奏祐のことずっと見てたってこと? だよね?」

陽乃「え」

女子生徒②「もしかして、好き? とか?」

陽乃「は?」

女子生徒①「やっぱそう?」

陽乃「……めんど」

女子生徒①・②「え?」

 立ち上がる陽乃、教室を飛び出す。

 陽乃を目で追う奏祐。


○同・同・前(朝)

 扉から飛び出る陽乃、歩いている三村夏音(16)にぶつかる。

夏音「おわ!」

陽乃「! ご、ごめん!」

 と言いながら走り去る。

 夏音の隣、真穂(16)。

真穂「大丈夫?」

夏音「うん……あの子って確か……」

 走り去る陽乃の後姿を見つめる夏音。


○あおぞら団地2号公園(夕)

 すべり台の上で絵を描く明人。

 絵、ブランコに乗った二匹のウサギ。背景は桜の木に舞い散る花びら。

陽乃の声「折れた消しゴム貸しただけだし」

明人「(笑う)皆、他人が好きなんだよ」

 明人の隣にいる陽乃。

陽乃「(溜息)やっぱ私は自分しか好きになれん病気だ」

明人「……」

 陽乃、明人の絵を見る。

陽乃「冬なのに? 桜?」

明人「うん。もうすぐ春だからね」

陽乃「そうか。もうすぐ私ら2年生か」

明人「……あのさ」

 陽乃、絵から明人に視線を移す。

明人「もしそれが本当なら、それは、病気じゃないから。病気とは言わないから」

陽乃「え?」

明人「いつも言ってるじゃん。『自分しか好きになれない病気なのかも』って」

陽乃「ああ、うん……?」

明人「セクシャルマイノリティ」

陽乃「セクシャルマイノリティ……? 何それ初めて聞いた」

 陽乃、スマホに『セクシャルマイノリティ』と検索をかける。

明人「人間必ずしも異性を好きになることが普通じゃないってこと」

陽乃「それって、ゲイとかレズとか?」

明人「そう。陽乃がいつも言ってる『自分だけしか』ってのもその一つ。だから病気じゃない」

陽乃「へえ……なんか、明人詳しいね?」

明人「うん……まあ、俺がそうだから」

陽乃「……ん? え? うん……え?」

 絵を描く手を止める明人、陽乃を見る。

明人「好きな人、できた」

 スマホ操作の手を止める陽乃。

陽乃「(動揺)そ、そうなの? へえ……明人も私と同じやつかと思ってた……」

明人「同じやつ?」

陽乃「さ、さっき言ってた『自分だけしか』ってやつ」

明人「ああ、それとは違うね……まあでも……俺が好きなのは、男」

陽乃「え」

明人「いわゆる、ゲイってやつね」

 驚きスマホを手から落とす陽乃。

明人「ずっと言いたかったんだけど……むずいじゃんこう言うの。ひく? ひいた?」

陽乃「ひ、ひくわけないじゃん。ちょっと、いや大分びっくりはするけど……」

 と、動揺しながらもスマホを拾う。

明人「(微笑む)ならよかった」

陽乃「そっか。そうなんだ。誰? 私の知ってる人?」

明人「……」

陽乃「あー、誰かは言ってくれないんだ」

明人「まあ、追々ね」

陽乃「追々……うん、まあうん。よかったね」

 と、言いつつ上手く笑顔が作れない。

 ×   ×   ×

 絵の桜、段々とリアルに切り替わる。


○永浜高校・正門(朝)

 満開の桜の木。舞う花びら。


○同・二年二組教室・前(朝)

 壁に飾られた絵を眺める陽乃。

 絵、先日の明人のウサギ二匹。

夏音の声「好きなの?」

 陽乃、驚き振り向くと夏音の姿。

 夏音、明人の絵を顔で指して、

夏音「絵、好きなの?」

陽乃「あ、ああ、いや、まあ……」

夏音「あ! じゃなくて、斉宮君の絵が好き なのか」

陽乃「ああ、んー、まあ……」

夏音「(微笑んで)我藤さん、だよね?」

陽乃「え」

夏音「私、同じクラスで美術部の三村夏音です。よろしくね」

陽乃「同じクラス……」

夏音「うん。(笑って)我藤さんって、他人に興味無さそうだもんね」

陽乃「そんなことは……」

夏音「でも、そんな我藤さんが、同じクラスの斉宮君の絵を興味津々に見つめている」

陽乃「ん?」

夏音「と言うことは、絵に興味がある」

陽乃「ん、ん?」

夏音「と言うことは、美術部に興味がある!」

陽乃「は? え?」

 夏音、突如陽乃の手を強く握る。

夏音「美術部! 入って?」

陽乃「え、なんで」

 と、驚き夏音の手を離そうとするが、力が強く離せない。

夏音「お願い!」

陽乃「いや、いやいやいや、入らないよ?」

 陽乃、手元を見るがまだ離れない夏音の力強い手。

夏音「まさか、見る専門?」

陽乃「いや、そう言うわけじゃ……」

夏音「じゃあお願い‼ 廃部の危機なの!」

陽乃「! 廃部……」

夏音「(必死)見学だけでもいいから!」

 陽乃、苦笑。手は夏音に握られたまま。


○同・美術部室・中

 キャンバスボードに向かい、絵具で描画中の美術部員達10名程。

 見学席で部員達を見渡す陽乃、部員達の中にいる明人に目が行く。

 真剣な表情の明人。

 明人の絵、透き通る海に向かって歩いて行く茶褐色の毛並みの猫。描きかけ。

 陽乃、真剣な明人に見惚れる。

 陽乃の隣に立つ夏音、陽乃に視線を合わせて、

夏音「なーる。そう言うことか」

陽乃「(はっとして)は、え、な、何が」

夏音「やっぱ陽乃ちゃんは斉宮君の絵が好き なんだね」

陽乃「いや、まあ……ん? 陽乃ちゃん?」

夏音「斉宮君の絵、凄いよね。上手いのはも ちろんだけど、なんか『儚い』って感じ」

陽乃「儚い……」

 やはり明人に見惚れる陽乃。


○あおぞら団地・前(夕)

 並んで歩く陽乃と明人。

明人「入るの?」

陽乃「んーん。とりあえず見学行っただけ」

明人「そう。陽乃に女友達できるって珍しい」

陽乃「友達じゃないから。廃部の危機だから って必死にお願いされたの」

明人「あー……それ、多分嘘だね」

陽乃「え! 嘘?」

明人「三村さん、一人でいる人のことほっと けないタイプみたいよ。一年の時も同じク ラスだったけどそんな感じだったし」

陽乃「(小声)なんだ、そう言うことか……」

 少し肩を落とす陽乃。


○永浜高校・二年二組教室・中

 陽乃、自席で一人お弁当を食べている。

 夏音、突如陽乃の前席に座りお弁当を広げ始める。

陽乃「(困惑)? え」

夏音「一緒に食べよ?」

陽乃「え、え?」

夏音「? だめ?」

陽乃「あ、いや、だめじゃない、けど……」

 右斜め前辺りの席の明人、陽乃の方を少し気にする。

 目が合う陽乃と明人。

 陽乃、すぐに目を逸らして夏音に、

陽乃「わ、私大丈夫だよ一人で」

夏音「え?」

陽乃「あの、その……クラスで私が一人でいるから合わせてくれてんのかな? って」

夏音「……違うよ?」

陽乃「へ」

夏音「仲良くなりたいから。陽乃ちゃんと」

陽乃「……」

夏音「じゃ、いただきまーす」

 と、お弁当を食べ始める夏音。

 それを見て安堵したように微笑む明人。

 明人に恥ずかしそうに微笑み返す陽乃。


○点描・女友達と親しくなる陽乃

 永浜高校。二年二組教室内。

 帰り支度をする陽乃の元にやってくる夏音。隣には真穂と澄香(16)。

夏音「今日部活休みだし、皆でカラオケ行くんだけど、陽乃ちゃんもどう?」

 陽乃、少し戸惑いながらも口元が緩む。

陽乃「うん……」

 一瞬陽乃を見る明人、教室を出て行く。

 ×   ×   ×

 カラオケボックス内。

 YOASOBI『アイドル』を歌う夏音。

 盛り上げる真穂と澄香も隣で歌う。

 徐々に笑みがこぼれる陽乃。

 ×   ×   ×

 駅前を歩く陽乃、夏音、真穂、澄香。

 夏音、飲んでいたタピオカジュースを陽乃に渡して、

夏音「飲む?」

陽乃「(照れて)うん。ありがと」

 と、それを飲む。


○永浜高校・二年二組教室・前(朝)

 廊下を歩く陽乃。

 後ろからやってくる夏音。

夏音「陽乃ー!」

 と、陽乃の肩に両手をポンと置く。

 陽乃との距離が一段と近い夏音。

陽乃「!」

夏音「今度さオープンキャンパス行かない⁈」

陽乃「オープンキャンパス?」

夏音「うん。ここ。私の第一志望なんだ」

 と、陽乃にスマホ画面を見せる。

 スマホ画面、『文化造形大学オープンキャンパス開催』の画面。

陽乃「(顔色が変わる)……ああ……」

夏音「? あれ? 興味ない?」

陽乃「や、興味ないことは無いんだけど……」

夏音「じゃあ行こうよ?」

陽乃「んー……」

夏音「?」

 突如、陽乃の頬に触れる夏音。

陽乃「(ドキッとして)な、何……」

夏音「ここおっきいニキビできてる」

陽乃「うそ」

 慌てて頬に手をやる陽乃。

夏音「うっそー」

陽乃「はあ?」

夏音「でも肌荒れ気味?」

陽乃「うざ」

 笑い合う陽乃と夏音。

 その横を通る明人、少し寂し気。

 明人に気付く陽乃。

 明人、陽乃を横目に止まらず行く。

 明人の後姿を見つめる陽乃。

夏音「斉宮君も誘う? オープンキャンパス」

陽乃「え、私と行くの勝手に決定された?」

夏音「された」

 と、いたづらっぽく笑う。

 呆れる陽乃。


○我藤家・玄関(朝)

 玄関の鏡を見て肌荒れを気にする陽乃。

陽乃「本当におっきなやつできそうじゃん」

 陽乃の頬に小さめのニキビ。

 優子、そこへやってくる。

優子「今から行くの?」

陽乃「うん」

優子「お兄ちゃんに行くって言った?」

陽乃「え、言わないよ」

優子「何でよお。色々と紹介してくれるかも しれないじゃない?」

陽乃「いいよ。私受けるかわかんないし」

優子「あんたじゃなくて、明人君よ」

陽乃「へ?」

優子「明人君の志望校の一つなんでしょ?」

陽乃「……え」

優子「え?」

陽乃「今日私、明人とは行かないよ?」

優子「そうなの⁈ なんだ、光奈から明人君 も今日オープンキャンパス行くって聞いて たからてっきり一緒に行くんだと思ってた」

陽乃「……明人も行くんだ」

優子「でも、あんたと行かないなら、誰と行 くんだろうね?」

陽乃「……さあ」

 優子から視線を逸らす陽乃。


○文化造形大学・正門

 『オープンキャンパス』のフラッグ。

 ビラを配る大学生達。

 陽乃と夏音、目を輝かせて辺りを見渡し歩いている。

夏音「んー楽しみ! 我藤先輩の作品も飾られてたりするのかなあ?」

陽乃「……え」

夏音「(はっとして)あ」

陽乃「お兄ちゃんのこと知ってたの?」

 立ち止まる陽乃と夏音。

夏音「うん……実はさ、中学の時からの憧れで。我藤先輩ってさ、中高生の絵画コンクールでもよく入賞したりしてたから、私の中学の美術部でも結構有名だったんだよね」

陽乃「……そゆこと。お兄ちゃん目当てで私に話しかけたってわけだ」

 ふて腐れて歩き出す陽乃。

 後を追う夏音。

夏音「! 違うよ? あ、いや、最初は確かに我藤先輩の妹だって思って声かけたけど」

陽乃「やっぱそうじゃん」

夏音「や、でも、一言しゃべって、陽乃と本当に仲良くなりたいって思ったの」

陽乃「いいって。お兄ちゃんと比べられるのとか別に慣れてるから気を遣わないで」

 夏音、陽乃の手を握り止める。

夏音「本当に!」

陽乃「!」

夏音「この子素直で好きだなあ。仲良くなりたいなあって思ったの!」

 と、勢いよく陽乃に顔を近付ける。

陽乃「(ドキッとして)す、き……?」

夏音「そう! 好き!」

 夏音に強く握られる陽乃の手。

夏音「ずーっと友達でいたいって思うもん」

陽乃「あ、ああ、そっち」

夏音「そっち?」

陽乃「んーん。うん。わかった」

 夏音に優しく微笑む陽乃。


○点描・オープンキャンパスを楽しむ陽乃と夏音

 中庭。

 大きな恐竜のねぶた。

 それを見上げてはしゃぐ陽乃と夏音。

 ×   ×   ×

 体育館。

 『リハーサル中』の立て看板。

 煌びやかな衣装を身にまとったモデル達のショー。

 見惚れる陽乃と夏音。

 ×   ×   ×

 教室。

 大学生達が造形物を創作中。

 興味津々に見つめる陽乃と夏音。


○文化造形大学・一号館廊下

 並んで歩く陽乃と夏音。

 壁には大学生達の作品がずらっと並ぶ。

 夏音、突如立ち止まる。

夏音「あ! 見て見てこれ」

 と、指す絵、タイトル『向き合う少年』、作者『我藤桃也』。

 立ち止まる陽乃。

 その絵、明人にそっくりな少年の白黒デッサン。

 陽乃、絵を見て固まる。

夏音「やっぱ上手いねえ、我藤先輩」

 夏音、楽しそうに見て先を進む。

 ふと、夏音とは逆方向を見る陽乃、明人らしき人影が通り過ぎる。

 目を見開き、思わず追いかける陽乃。


○同・渡り廊下

 陽乃、身を隠しながら顔だけ覗かせる。

 明人の姿が見える。その隣には桃也。

 目を見開く陽乃。

 親し気に並んで歩く明人と桃也。

 二人にバレないよう後を追う陽乃。


○同・二号館廊下~空き教室・前

 人気の無い教室へ入る明人と桃也。

 扉が閉まるのを確認し、空き教室前へ移動する陽乃。

 陽乃、小窓から中をゆっくり覗く。

 明人を椅子に座らせる桃也が陽乃の目に入る。

 更に、両手を繋ぎ合いゆっくりとキスをする明人と桃也。

 それを目撃し、驚きで尻餅をつく陽乃。

 その拍子に陽乃の足が扉に当たり大きく廊下に鳴り響く。


○同・同・中

 廊下の音に反応する明人と桃也。


○同・同・前

 逃げ出すようにその場を走り去る陽乃。


○我藤家・リビング(夜)

 食事中の陽乃、箸が進んでいない。

 テーブルを挟んで優子と我藤昇(45)も食事中。

 我藤、陽乃を察して、

我藤「どうした陽乃?」

陽乃「え」

我藤「全然食べてないだろ今日」

 と、顎でおかずを指す。

陽乃「……ああ」

優子「現役大学生達の凄さに圧倒されたんでしょ?」

我藤「そうなのか?」

陽乃「……まあ」

 入ってくる桃也。

桃也「ただいま」

優子・我藤「おかえり」

 一瞬だけ桃也を見る陽乃。

陽乃「……ごちそうさま」

 と立ち上がり、桃也を避けるようにリビングを出る。

我藤「大丈夫かあ?」

 振り返らない陽乃。

 桃也、不思議そうに陽乃を見つめる。


○同・陽乃の部屋・中(夜)

 電気の付いていない室内。

 ベッドに寝転がり手に持つスマホ画面に照らされている陽乃。

 スマホ画面、チャットトーク履歴。

 一番上に夏音とのトーク。少し下にスクロールすると明人とのトーク。随分やり取りしていない様子。

 陽乃、明人とのトークを開く。

 トーク画面、『明日公園――』

 打ちかけるがすぐに削除する陽乃。

 それとほぼ同時に明人から通知が届く。

 驚き起き上がる陽乃。

 トーク画面、明人『今日、文造のオーキャン行ってたの?』陽乃『うん。明日公園行ってい?』明人『うん』。

 安堵したように息を吐く陽乃。


○あおぞら団地2号公園(夕)

 すべり台の上、明人がスケッチブックに絵を描いている。

 スケッチブックの絵、砂場の真ん中に一匹のウサギ。

 明人の横の陽乃、絵を覗き込む。

陽乃「あれ? 親友は?」

明人「……ウサギの世界にはやっぱ親友とか なかったみたい」

陽乃「……そっか」

 少しの沈黙。

陽乃「なんか、この感じ久々だ」

明人「……忙しそうだったもんね」

陽乃「そんなことないけど」

明人「楽しそうじゃん毎日」

 陽乃、明人の顔を覗き込む。

明人「三村さん達と」

陽乃「(吹き出して)夏音ってちょっと可愛くてね? 昨日も好きとか言われて、私女なのに思わずドキッとしちゃった(笑う)」

 明人、あからさまに素っ気ない。

 陽乃、無理に明るく振舞う。

陽乃「同性のこと好きって……どんな感じ?」

明人「どんなって……別に異性を好きになるのと変わらないと思うけど」

陽乃「なんか、夏音のこと可愛いと思うとか、私も同性愛者だったりするのかなあ? とか思っちゃってさ」

明人「……」

陽乃「違うか(笑う)」

明人「別に、無理してここに来なくていいよ」

陽乃「え?」

明人「……陽乃は、普通だよ」

陽乃「? 普通?」

明人「普通に同性の友達もできて、普通に異性と付き合って、普通に異性と結婚して、子供もできて、俺のこととか忘れて普通に暮らしてくんだよ」

陽乃「は、何それ」

明人「陽乃は、俺とは違うってこと」

陽乃「ん、何? てかなんでさっきからそんなに機嫌悪いの?」

明人「別に、悪くないけど」

陽乃「悪いじゃん!」

明人「俺ずっとこんな感じ。三村さん達と遊んでるからわかんなくなったんじゃない?」

陽乃「私が夏音と一緒にいるのがそんなに気 に食わない? え、まさか嫉妬ですか?」

明人「……そうかもね」

陽乃「は? ……男が好きなくせに何それ」

 描く手を止める明人、スイッチが入ったように声を荒げる。

明人「男が好きだけど!」

 驚く陽乃。

明人「陽乃も俺と同じだと思ってたの!」

陽乃「同じ?」

明人「周りにわかってもらえない少数派!」

陽乃「……」

明人「でも違った……何か、裏切られた気分」

陽乃「裏切られた気分なのはこっちだし!」

明人「は?」

陽乃「明人の好きな人って、お兄ちゃんだったんだね」

明人「え……」

陽乃「私がお兄ちゃんと比べられるの嫌って知ってたじゃん? てか、それ知りながら私とも仲良くして? お兄ちゃんとはイチャイチャして? きも!」

明人「……ないわ。今の」

 ムッとしたまま黙る陽乃。

明人「まあ陽乃にはわかんないか。少数派の気持ちなんて……桃也さんはそう言うの全部わかってくれるからね」

陽乃「! うっざ!」

 と、思わず明人の肩を両手で叩く。

明人「何すんだよ!」

 明人も陽乃の肩を片手で押す。

陽乃「あーもうむかつく!」

 更に強く明人を叩く陽乃。

明人「やめろって!」

 と、更に強く陽乃の肩を押す。

 その拍子に態勢が崩れる陽乃。

 明人も態勢を崩し、二人すべり台から滑り落ちる。スケッチブックも落ちる。

 砂場。陽乃の上に明人が覆いかぶさる態勢。至近距離で目が合う陽乃と明人。

 陽乃、思わず頬のニキビを手で隠す。

 明人、陽乃から目を逸らし立ち上がる。

明人「……帰る」

 落ちたスケッチブックを拾い上げ、去って行く明人。

 起き上がる陽乃、明人の後姿を不服そうに見つめる。


○永浜高校・二年二組教室・中

 自席で突っ伏している陽乃。

 その周りに夏音、真穂、澄香。

夏音「食堂行くよ?」

陽乃「……んー」

 と言いながらも動かない。

真穂「ちょっとお、今日ずっとそんな感じ?」

澄香「感じ悪ー」

 隣席、男子生徒達数名とお弁当を食べている奏祐、陽乃を気にかけている。

 斜め前の明人、立ち上がり陽乃を見ず教室を出て行く。

 突っ伏しながらもそれを目で追う陽乃。

陽乃「(溜息)」

澄香「何? 失恋でもした?」

陽乃「してない。変なこと言うな」

澄香「てか陽乃って好きな人とかいんの?」

 奏祐、少し反応する。

真穂「うわ、陽乃のそう言う話聞いたことなかったね。知りたーい」

夏音「陽乃はねえ、ずっと思っ――」

 慌てて立ち上がり夏音の口を塞ぐ陽乃。

真穂「ずっと好きな人いんの? 片思い?」

陽乃「いや、いない」

澄香「うっそだあ。今のはいる感じだった」

陽乃「違う違う。勘違い」

真穂「誰?」

陽乃「だから違うって」

澄香「えー今の流れで好きな人いないとかは ないでしょ」

陽乃「(投げやり)ああもうじゃあいるから」

 箸を止め、思わず陽乃を見る奏祐。

真穂「だれだれだれ⁈ このクラス?」

 奏祐と目が合う陽乃、夏音から手を離し咄嗟に奏祐を指して、

陽乃「や、矢水君!」

奏祐「(驚いて)え」

真穂・澄香「え」

夏音「は」

陽乃「え、あ、え? いや……」

真穂「まさかの公開告白?」

陽乃「いや、その……」

 照れて何も言えない奏祐。

 囃し立てる男子生徒達。


○同・美術部室・前

 通り過ぎる陽乃。

夏音の声「陽乃ー!」

 美術部室の窓から顔を出し陽乃を手招きする夏音。

 夏音の元へ行く陽乃。

夏音「ごめん! 私がつい口走ったせいで変な展開になっちゃって」

陽乃「いや、私が咄嗟に言っちゃっただけだし……矢水君にはまた謝っとく」

 ふと、中を覗くと明人が真剣に絵を描く後ろ姿が目に入る陽乃。

 夏音、陽乃の視線の先に気付き、

夏音「斉宮君の絵、もうすぐ完成しそう」

陽乃「……へえ」

 明人の絵、透き通る海に向かって歩いて行く茶褐色の毛並みの猫。ほぼ完成。

夏音「猫って、本来海には向かって歩いてはいかないんだって」

陽乃「そうなの?」

夏音「うん。でもあの猫は海に魅力を感じて向かって行っちゃってるんだって。危険だってわかってるけど」

陽乃「……」

夏音「やっぱ儚いね」

陽乃「(小声)相手年上の男だもんね」

夏音「え?」

陽乃「(はっとして)え、あ……帰るね」

夏音「うん?」

 再び歩いて行く陽乃。


○同・同・中

 描く手を止め振り返る明人、陽乃がいた窓際に目をやり見つめる。

 明人、すぐに描画を再開する。


○同・玄関

 やってくる陽乃。

 スポーツバッグを背負い待ち伏せている奏祐。

 目が合う陽乃と奏祐、ほぼ同時に、

奏祐「さっきのことだけど、俺も――」

陽乃「さっきは何かごめんね。気にしないで」

奏祐「え?」

陽乃「え、ごめん、なんて?」

奏祐「……俺も、好き」

陽乃「へ?」

奏祐「俺も、ずっと我藤が好きだった」

陽乃「(驚いて)……」

奏祐「付き合う? 付き合ってくれる?」

陽乃「あ、いや、えっと……」

奏祐「? 俺のこと、好きなんだよね?」

 戸惑いながらもゆっくりと頷く陽乃。


○同・二年二組教室・前(朝)

 『おはよう』等と入って行く生徒達。

 陽乃も中へ入る。


○同・同・中(朝)

 陽乃、席に着くなり明人がやってくる。

陽乃「!」

明人「ちょっと」

 と、顔で促して先を行く。

 陽乃、躊躇いながらも明人の後を追う。

 それを目撃する夏音、真穂、澄香。

真穂・澄香「?」

夏音「……」

 奏祐も陽乃を不安気に目で追う。


○同・美術部室・中(朝)

 入ってくる陽乃と明人。

 明人、陽乃に鋭い目を向ける。

明人「何考えてんの?」

陽乃「は?」

明人「矢水と付き合うとか、陽乃好きじゃないでしょ?」

陽乃「なんで知ってんの」

明人「さっき皆が話してた」

陽乃「……明人に関係ない」

明人「いやいや、あんだけ好きだの恋だのわかんないって言ってたやつが、急に彼氏作るとか、おかしいじゃん?」

陽乃「私は明人と違って普通だから」

明人「は?」

陽乃「同性愛者の明人と違って、普通に友達もできるし普通に異性と付き合うの! 明人がそう言ってきたんじゃん!」

明人「……言ったけど……付き合うって、そう言うことすんだよ?」

陽乃「そう言うこと?」

明人「だから、デートしたりとか、手繋いだりとか――」

陽乃「誰もいない教室でキスしたりとか?」

 明人、一瞬固まる。

明人「とにかく、俺は心配して言ってんの」

陽乃「心配とかすんな!」

 海に向かって歩く猫の絵のキャンバスボードが目に入る陽乃。

 思わずそれを蹴り飛ばす。

明人「! おい!」

 飛び出して行く陽乃。


○同・二年二組教室・中(朝)

 苛立ちながら入ってくる陽乃、自席の鞄を取り、夏音、真穂、澄香に、

陽乃「帰るね」

夏音「え?」

真穂「なんでなんで、どうした?」

澄香「斉宮君と何かあったの?」

 返事せず急いで教室を出て行く陽乃。

 呆気に取られる夏音、真穂、澄香。

 奏祐、立ち上がり陽乃を追いかける。


○同・駐輪場(朝)

 自転車にまたがる陽乃。

奏祐「我藤さん!」

 陽乃、振り返ると走ってくる奏祐。

陽乃「……矢水君」

奏祐「(息を切らして)帰んの?」

陽乃「うん……ちょっと体調悪くて……」

奏祐「大丈夫?」

 小さく頷く陽乃。

奏祐「斉宮と、何かあった? 元彼なの?」

陽乃「(驚いて)え」

奏祐「や、ごめん。元中のやつに聞いてたから、昔からよく二人一緒にいてたって」

陽乃「ああ……家が近所ってだけ」

奏祐「? 本当にそれだけ?」

陽乃「……うん」

奏祐「そう……わかった。また連絡する。無理しないでね」

陽乃「ありがとう……」

 自転車で去って行く陽乃。


○我藤家・玄関~陽乃の部屋(朝)

 靴を脱ぎすて上がり込む陽乃。

 慌ててやって来る優子。

優子「(驚いて)陽乃? 何あんた学校は?」

陽乃「体調悪いから早退した」

 陽乃、廊下を突き進み部屋の前へ。

優子「体調悪いって……大丈夫なの? 熱は? ちゃんと先生に言った?」

陽乃「(苛立ち)ほっといて!」

 陽乃、部屋に入り強く扉を閉める。


○同・陽乃の部屋・中(朝)

 陽乃、制服のままベッドにダイブ。


○同・同・同(夕)

 目覚める陽乃、起き上がる。

 枕元のスマホを確認すると時刻は18:00過ぎ頃。

陽乃「(寝すぎた)……」

 と、立ち上がり部屋を出る。


○同・同・前(夕)

 出てくる陽乃、桃也の部屋を見つめる。

 陽乃、桃也の部屋の扉に手をかける。


○同・桃也の部屋・中(夕)

 恐る恐る入ってくる陽乃、辺りを見る。

 立てかけられた何枚ものキャンバスボードを見つけて漁り始める。

桃也の声「何してんの」

 驚いて静止する陽乃、振り返ると桃也が立っている。

陽乃「! 帰ってたの? 学校は?」

桃也「そっちこそ。早退したって聞いたけど」

陽乃「誰に聞いたの⁈」

桃也「誰って……母さんしかいないけど」

陽乃「あ、ああ……」

桃也「なんか用?」

陽乃「……うん」

桃也「? 見たい作品でもあった?」

 と、キャンバスボード数枚を漁る。

 陽乃、意を決して、

陽乃「オーキャンで飾られてた絵が見たい」

桃也「オーキャン? 何飾られてたっけ?」

陽乃「明人の絵」

 一瞬手が止まる桃也。

桃也「……ああ。あれね」

 立ち上がる桃也、ベッドの近くにあるキャンバスボードを取り陽乃に渡す。

 絵、明人が描かれたデッサン。

 それを見つめる陽乃。

桃也「明人君、人間描くの苦手なんだって」

 陽乃、桃也に視線を移す。

桃也「まあ俺も苦手で? だからお互いのこと描き合ったの」

陽乃「……そうなんだ」

桃也「うん。勉強になればなって。お互いね」

陽乃「勉強のためだったらなんでもするんだ」

桃也「え?」

陽乃「お兄ちゃんって、ゲイじゃないよね」

桃也「え、何急に?」

陽乃「彼女いたことあるもんね。男でも女でもどっちもいけるみたいなそう言うこと?」

桃也「……明人君から聞いたの?」

陽乃「答えてよ」

桃也「……」

陽乃「明人のこと好きなの?」

桃也「それはお前でしょ?」

陽乃「だったらなんで明人に手出したの⁈」

桃也「……」

陽乃「(はっとして)違う違う。私は明人が好きとかじゃくて、そうじゃなくて友達として心配で……」

桃也「陽乃の言う通り」

陽乃「へ?」

桃也「俺は、男でも女でも好きなやつは好き」

陽乃「……」

桃也「明人君のことは」

陽乃「(遮り)ごめんやっぱ聞きたくない」

 慌てて出て行く陽乃。


○三村家・夏音の部屋・中(夜)

 ベッドの布団に蹲っている陽乃。

 お風呂上りの様子の夏音、鏡を見ながらスキンケア中。

夏音「生きてる?」

陽乃「(布団の中から)なんとか」

 陽乃、布団から顔を出し夏音を見る。

夏音「皆めっちゃ心配してたよ? 矢水君も」

陽乃「ごめん……」

夏音「本当に付き合ったの?」

陽乃「……うん」

夏音「好きなの?」

陽乃「……わかんない」

 手を止め陽乃を見る夏音。

夏音「わかんないじゃなくて。陽乃は、斉宮君が好きなんでしょ」

陽乃「それ、お兄ちゃんにも言われたわ」

夏音「じゃあ我藤先輩は正解だ」

陽乃「……ムカついてるんだよ? 私」

夏音「ムカついてる?」

陽乃「明人に『俺とは違う』って言われて。めっちゃムカついてる」

夏音「うん?」

陽乃「そんなの、好きとは違うでしょ」

夏音「好きだから、ムカつくんでしょ?」

陽乃「え」

夏音「好きだから、相手のことわかりたいのにわかんないから、ムカつくんだよ」

陽乃「何それ? 好きなのに? 変じゃん」

夏音「好きって、そう言うことだと思う」

 再び布団にうずくまる陽乃。


○永浜高校からの帰り道(夕)

 自転車を押して歩く陽乃。

 その横に並んで歩く奏祐。

奏祐「体調、大丈夫そうでよかった」

陽乃「うん。心配かけてごめんね」

奏祐「んーん」

 立ち止まる奏祐、目の前のマンションを指して、

奏祐「俺ん家、ここだから」

 陽乃も立ち止まりマンションを見る。

陽乃「そっか。じゃあ、ここで」

 帰ろうとする陽乃を引き止める奏祐。

奏祐「来る? 俺ん家」

 目が泳ぎ、戸惑いを隠せない陽乃。


○永浜高校・美術部室・中(夕)

 帰り支度をする夏音や美術部員達。

 明人、夏音を見てもの言いたげ。

 明人に気付く夏音。

夏音「何?」

明人「いや、別に……」

夏音「陽乃なら、矢水君の家に行くって、さっき連絡来たけど?」

明人「え」

 顔色が変わる明人。


○マンション・矢水家・奏祐の部屋(夕)

 入ってくる陽乃。

 奏祐、後ろから陽乃に抱きつく。

陽乃「ちょ、何?」

 と、抵抗するが、離れない奏祐。

陽乃「離して!」

 奏祐を振りほどき振り返る陽乃。

 不意打ちに奏祐は陽乃にキスをする。

 驚き思わず奏祐を突き飛ばす陽乃。

 尻餅をつく奏祐。

奏祐「いって……」

陽乃「(焦り)あ、ごめん……」

奏祐「本当は俺のこと好きじゃないでしょ」

陽乃「……好きだよ」

奏祐「斉宮には別の好きな人がいるから?」

陽乃「(驚き)え」

奏祐「だから、両想いになれないから俺と付き合ってみたってそんな感じ? 俺のこと馬鹿にしてる?」

陽乃「(動揺)ち、違う」

奏祐「見てたらわかるよ。我藤さんが斉宮のこと好きってことくらい」

陽乃「……」

奏祐「帰って」

 俯き動かない陽乃。

奏祐「(怒鳴る)帰れよ!」

 怯える陽乃、慌てて出て行く。


○同・前~道中(夕)

 陽乃、泣きそうになりながらも走る。


○あおぞら団地2号公園・前(夕)

 息を切らして走ってくる陽乃、ふと公園を見ると、すべり台の上にいる明人の姿が見える。

 目が合う陽乃と明人。

陽乃「(声を張る)なんでいんの? 描いてないのに」

明人「(声を張る)そう言う日もあんの」

 明人を見て、突如泣き始める陽乃。

明人「! え? は? え」

 と、慌てふためく。


○斉宮家・明人の部屋・中(夕)

 床に座っている陽乃。

 明人、マグカップに入ったホットココアを陽乃に差し出しその場に座る。

 陽乃、ホットココアを飲む。

明人「……落ち着いた?」

陽乃「(頷いて)……ごめん」

明人「俺は大丈夫だけど……急に泣くから、びっくりした」

陽乃「そう言うこと、された」

明人「え?」

陽乃「昨日言ってたじゃん。付き合ったらそう言うことすんだよって」

明人「まじ?」

陽乃「無理過ぎて思わず突き飛ばしたら、キレられた……怖かった」

明人「だから言ったのに……」

 明人を真っ直ぐ見る陽乃。

陽乃「あのさ、明人」

明人「?」

陽乃「私――」

 と、言いかけるが、壁に立てかけられたデッサンが目に入る。

 それは桃也が描かれたデッサン。

 陽乃の視線の先に気付く明人。

明人「ああ、これは」

陽乃「描き合ったんだよね。お兄ちゃんと」

明人「……うん」

陽乃「お兄ちゃんから聞いた」

 絵の中の桃也、優しく微笑んでいる。

陽乃「……お兄ちゃん、こんなに笑うんだ」

明人「描きやすいようにわざと笑ってくれたんだと思う。俺が苦手って言ったから」

陽乃「そもそもさ、なんで人間描くの苦手なの?」

明人「……皆、口ではわかったように言うけど、本当のところは何考えてるかわかんないじゃん? だから」

陽乃「……」

明人「陽乃もひいてたでしょ? 本当は。俺がゲイだって知って」

陽乃「! ひいてないよ?」

明人「ひいてたよ……だから俺と距離置くために三村達と仲良くなったんじゃん?」

陽乃「違う! 私は明人に好きな人が……」

明人「? 好きな人が?」

陽乃「と、とにかく! 違うから! ひいてないから!」

明人「そ……ありがと」

陽乃「……」

明人「俺、やっぱ陽乃とは、友達でいたい」

陽乃「友達……」

明人「本当のところはひいてるかもしんないけど……それでも俺は陽乃と友達でいたい」

陽乃「……無理だ」

明人「え?」

陽乃「私は無理だよ。明人と友達なんて無理」

明人「やっぱ、そんなにひいてた?」

陽乃「(遮り)好き」

明人「え」

陽乃「私は、明人が好き」

 驚き目を見開く明人。

陽乃「友達としてじゃなくて、ちゃんと、普通に、異性として、明人が好き」

明人「……ごめん」

 諦めたように微笑む陽乃。

陽乃「明人は、お兄ちゃんのこと、好き?」

 明人、小さく頷く。

 陽乃、立ち上がりベランダに出る。


○同・同・ベランダ(夕)

 明人に背を向ける陽乃。

陽乃「(小声)さすがに傷付くなあ」

明人「(部屋から)え、なんて?」


○同・同・中(夕)

 ベランダの陽乃の後姿を見つめる明人。

 陽乃に夕日が差し込んでくる。

 はっとする明人、陽乃の後姿を凝視し、スケッチブックに絵を描き始める。


○永浜高校・正門(朝)

 登校する生徒達にチャイムの音。


○同・玄関(朝)

 靴を履き替える陽乃。

 陽乃、入ってくる奏祐と目が合う。

陽乃「……昨日は、ごめん」

奏祐「俺の方こそごめん」

 と、頭を下げる。

奏祐「無理矢理だったし、酷い事も言った」

陽乃「……」

 ゆっくりと頭を上げる奏祐。

奏祐「別れてくれていいから」

陽乃「え」

奏祐「てか無かったことで。うん」

陽乃「いや、あの、えっと」

奏祐「大丈夫。じゃあ」

 と、去って行く。

 少し離れた所でその様子を目撃する夏音、奏祐を追いかける。

夏音「どんまい」

 と、奏祐の肩を軽く叩く。

奏祐「は?」

 と言いながらも、少し誇らし気。


○同・二年二組教室・前(朝)

 手に画用紙を持ち待っている明人。

 陽乃、そこへやってくる。

 目が合う陽乃と明人。

明人「これ」

 陽乃に画用紙を差し出す明人。

 首を傾げながらも受け取る陽乃。

明人「人物像じゃないけどね……イメージ、陽乃の」

陽乃「イメージ?」

 陽乃、画用紙を開くと、夕日からハートや星や涙や様々な形が溢れ出している様子の絵。


○同・同・中(朝)

 明人からもらった絵を見つめる陽乃。

 後ろからその絵を覗き込む夏音。

夏音「おーなんか溢れ出してんね」

陽乃「うん。今の私らしい」

夏音「ん? これが? 陽乃?」

陽乃「そう。今の私のイメージだって」

夏音「描いてもらったの? 斉宮君?」

陽乃「うん……(絵を見て)嬉しくないし」

夏音「へ?」

陽乃「けど、描いたらどうでもよくなるかな」

 と、微笑む。


○同・美術部室・プレート


○同・同・中

 キャンバスボードに描画中の明人。

 その隣に座る陽乃、絵を描き始める。

明人「(驚いて)え? 何してんの?」

 陽乃、描く手を止めずに、

陽乃「今日からお世話になります」

明人「は? 入ったの?」

陽乃「うん」

 陽乃、絵を描くその表情、生き生きと。


                   了

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